岸田総理は大化けするか

岸田総理は大化けするか
“シーチン”修一 2.0

【雀庵の「大戦序章」124/通算556 2023/1/14/土】哲学者になりたい、無理ならせめてアジテーターになりたい、と思っているのだが、とにかく勉強しないと誰も耳を傾けてくれないので、日々、読書と思考に追われている。ま、趣味、オタクのようなもので、「へー、そういうことか」と発見があるから結構楽しい。

志垣民郎著/岸俊光編「内閣調査室秘録 戦後思想を動かした男」 (文春新書)。最近読んだ本では一番刺激的だった。内閣調査室(内調)は戦後日本のインテリジェンス(諜報機関)の代表格で、基本的に「反共愛国・親米」である。新書版だが343ページもあり、それでも活字を小さくしてぎゅう詰めにしたという。普通の文字にしたら500ページを超すだろう。視力が弱ってきた小生にはしんどかったが、どうにか読破した。人間、根性だぁ! 同書の宣伝文句にはこうある。

<内閣調査室は本当に謀略機関だったのか……謎のヴェールを剥がす第一級の歴史史料! 松本清張は、昭和36年に「文藝春秋」に連載した『深層海流』で、「内調の役目がその辺を逸脱して謀略性を帯びていたとなれば、見逃すわけにはいかない」と書いた。あれから60年たっても、内調については関連する公文書も公開されなければ、組織の正史も作られておらず、依然としてその実態は謎のままだ。

本書は、昭和27年に吉田茂首相が、旧内務官僚の村井順に命じて内閣調査室が発足したときの、4人のメンバーの1人、志垣民郎氏の手記である。手記のポイントは、内調は日本を親米反共国家にするための謀略機関だったのか、という問いに明解に答えているところにある。

志垣氏の主な仕事とは、優秀な学者・研究者に委託費を渡して、レポートを書かせ、それを政策に反映させることだった。これは、結果的に彼らを現実主義者にし、空想的な左翼陣営に行くのを食い止めた。そして本書には、接触した学者・研究者全員の名前と渡した委託費、研究させた内容、さらには会合を開いた日時、場所、食べたもの、会合の後に出かけたバーやクラブの名前……すべてが明記されている。まさに驚きの手記だ。

100人を超えるリストの面々は豪華の一言に尽きる。時代を牽引した学者はすべて志垣氏の手の内にあった。とくに重要なのが藤原弘達。「時事放談」で知られる政治学者は、東大法学部で丸山真男ゼミに所属した俊才であった。「彼が左翼に行ったら、厄介なことになる」。そこで志垣氏は、彼を保守陣営に引っ張り込むために、あらゆる手立てを尽くす。戦後思想史を塗り替える爆弾的史料である>

著者の志垣民郎氏は我が父と同世代の1922(大正11)年、東京生まれ。旧制東京高等学校、東京帝国大学法学部卒。1943年の学徒出陣に召集され、中国戦線に従軍。復員後、文部省などを経て、日本が“独立”した1952年から内閣総理大臣官房調査室、略して「内調」勤務。第5部、第3部、第1部主幹を歴任。1978年に退官後は、社団法人国民出版協会会長などを務めた。

編集にあたった岸俊光氏は小生より10歳若い1961年、愛媛県生まれ。全国紙記者(毎日新聞)。学芸部の論壇記者や論説委員を務める。NPO法人インテリジェンス研究所特別研究員。日本の非核政策研究により早稲田大学で博士号(学術)を取得。

アマゾンのレビューでは日之本太郎氏がこう評価している。
<国家のために蔭で働いた一人の戦中派の人生録です。内調の秘録というよりは、志垣民郎という人物の人生録として興味深いものがあります。志垣氏は東京帝大生でしたが、戦時中に学徒出陣をして生き残り、戦後の内閣調査室の発足時メンバーとなります。内調では主に知識人や学者担当となり、マトモな知識人や学者の意見を求めて政府の施策に役立てると共に、優秀な知識人や学者の間に現実主義的な立場が広まるように努力します。

現在の日本人には想像もつかないと思いますが、戦後暫くの間は、日本の知識人や学者の世界では共産主義シンパか極端な左翼が圧倒的多数を占めていた時代です。そのような時代に、日本の発展を願って、名声を求めず蔭で働いた1人の人物の記録です、云々>

編者の岸俊光氏によると内調は米国を主とする連合国占領下の1952/昭和27年4月、内閣総理大臣官房調査室として新設された、首相直属の情報機関である。

露中北の共産主義国が朝鮮戦争(1950~1953年)を起こしてトルーマン米大統領やマッカーサー司令官が右往左往していた時期だ。明治以来、永らく露中と戦ってきた日本の危機意識を米国は初めて理解したに違いない。

初期の内調についての実情は明らかにされていない。関連する公文書はほとんど公開されておらず、組織の正史も作られていないからだ。多分、米国としては日本の協力がなければ露中北を封じ込めないから軍隊(警察予備隊、後の自衛隊)やインテリジェンスとして諜報機関を復活させたりしたのだろう。

同書によると吉田茂首相が1952年、村井順・国家地方警察本部警備課長に命じて内調を創設した際、配下の4人の中に志垣民郎氏がいた。間もなく内調は以下の6部制になった。☆一部:治安・労働・経済、☆国際一部:中国・東南アジア、☆国際二部:ソ連・欧州・CIA、☆三部:弘報関係、☆四部:資料、☆五部:学者、☆六部:審議員会議。

岸俊光氏によると「志垣氏の手元には膨大な日記が残されている。志垣氏曰く『世の中では内調を面白可笑しく取り上げて揶揄する傾向がある。しかし、創設以来のメンバーは自分であるから、世間の皆に事実を正確に知って欲しい』と」。

志垣氏退官翌年の1979年、東京新聞(中日新聞の東京版)の大槻立一記者が「ミスターXの退場」と題してこう書いている。

<「もうこの辺でいいだろう。私の使命も終わったようだ」――こう静かに呟きながら一人の政府高官が退官していった。「X」としておこう。高官と言っても行政の表舞台には出ず、戦後一貫して公安、警備関係、それも国民意識の分析を専門の仕事として歴代保守内閣を裏側から支えてきた人だ。

T大法学部在学中に学徒出陣、中国大陸を転戦し敗戦、復員後A省入り。戦中多くの学友、戦友を失い、戦後は多くの友人が革命または革新への道を選んだ。だがXは体制側の、それも公安の道へ進んだ。

Xの心理状態は屈折したが、「戦前、戦中のドイツ、日本などのファシズムと同様、マルクス・レーニン主義という単一イデオロギーで支配される国に日本がなった場合、若者が再び銃を担がされる危険性が多いのではないか」と考え、自分の役職を納得した。当時の国際共産主義脅威論を自分なりに解釈したのだ。

昭和27年の皇居前・血のメーデー事件、35年の安保闘争、とXの仕事は急激に増え、「体制の危機をモロに肌で感じた」そうだ。

「だがもう安心できる。一人当たりの国民所得が約100万円になり、分配も上手くいっているのか、自分が中流の生活をしていると思っている国民が90%もいる。これが成熟した社会というのかな。家族で外食もでき、好きな本も読め、戦争もない。案外、私が学徒出陣のとき夢見た社会なのかもしれない」

「今の若者をシラケ世代なんて批判するのはかわいそうだ。若者は反逆すると言っても、今は命をかけても倒そうという体制がないんだもの。公安調査庁や警察庁は予算目当てにいろいろ言うが、怖いのはテロだけだ」、云々>

因みに1979年に所帯を持ったばかりの小生は自宅では東京新聞を読んでいたが、名物コラムの「千夜一夜」が社内のアカに追放されてから左傾化が露骨になったので読売新聞に変えたものだ(ここ20年は産経)。朝毎東(中)などアカに乗っ取られたような新聞は近年、退潮著しいようだ。

志垣氏の記録と言うか日記、論稿は微に入り細を穿つが、当日のあれこれを翌日に記録したようである。小5の頃から日記の習慣を身につけいたそうで、記憶力も超人的で、小生は「戦前リベラル=愛国者」のレベルの高さにビックリした。基本的に内調の職員のほとんどは反共だったようで、共産主義幻想の「戦後リベラル=反日のアカ」とは全く人種が違うよう。

1950年7月からGHQの指示によるレッドパージ(アカ狩り)が始まったが、「ただ一つ、大学だけがレッドパージ不成功に終わった。教職員のパージに反対する学生たちが試験ボイコット、デモ、警官隊との衝突まで引き起こし、文部省が大学教員のパージを断念」(「写真で読む昭和史 占領下の日本」)したからだ。この痛恨のミスがなければアカの巣窟、日本学術会議や日弁連という反日勢力は消えていたろうにと悔やまれる。教科書検定を見ると文部省にも今なおアカがはびこっていそうだ。

第2次安倍内閣が発足した2012年12月26日から2017年1月27日までの4年余の間に、新聞に掲載された首相の日々の動向を集計したところ、2011年から内調トップの北村滋氏は首相との面会数が659回で最も多かったという(出典は日経2017/1/29)。岸俊光氏は「この頻度の高さは安倍首相が内調のインテリジェンスを重視していることを物語る」と評している。

岸田総理はこのところゴロツキ暴力団・露中北への警戒心を強めているが、安倍氏に倣って内調の報告に耳を傾けるようになったのかもしれない。君子豹変、歴史に名を刻む名宰相を目指すべし。
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