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Lesson7 香水店フエギアで、お姫様によって開国する

※私はファッションを自習中のためLesson7となっていますが、独立しているのでこちらだけ読んで頂いても大丈夫です。

いざTOKYO

東京に行ってきた。前に行ったのは4年前だろうか。コロナ禍の始まりよりも前なのは間違いない。
今回の旅の目的は、とにかくファッションの世界に触れること。自問自答ファッションあきやあさみさんを知り、「衣食住」の中で最もないがしろにしていた「衣」と生まれて初めて向き合っている。

そんな訳でGINZA SIXに行った。一度観光のつもりで行って、雑貨中心の中川政七商店しか店舗内に入れなかった商業施設。今回はばっちり予習もしたし、ガンガン行こうぜ!
…と思っていたけれど、現実はそうはいかない。キラッキラのお店たち、中には分厚いガラス扉を完全に閉めて中にガードマンが立っているお店すらある。完全に雰囲気に飲まれてしまい、買い物もファッションも苦手意識のある私は早くも「別のところに行こうかな」と弱気になる。

なんとか勇気を振り絞り、ともかく目的としていた香水店のFUEGUIA 1833(フエギア)へ。前述の推しスタイリストあきやさんの選ばれた香水を嗅がせてもらって、あとはいつもの私の東京旅(美術館博物館めぐり)に変更しようかな。なんて考えていた。
あきやさんのフエギア体験記がこちら。まだの方はぜひ読んでほしい。

FUEGUIA 1833

煌びやかな施設内で、そこだけ別世界のよう。暗い店内に香水瓶と被せたフラスコがずらりと並ぶ。魔法使い用のお店みたいだ。
それなりに混んでいて店員さんは忙しそう。とりあえずお店に入り、あきやさんが選ばれた香水を自分で探すとあっさり見つかる。くんくんしてみる。わー、こんな香水を選ばれたんだ。

あきやさんはきっと今も東京のどこかにおられるんだな。そして、かつてこのお店で同じように、この香水の匂いを嗅いでおられたんだな。あこがれの人と今、地続きなんだ。そう感じると、なんだか勇気が湧いてきた。

「店員さんに話しかけて、相談してみようかな」

そんな思いがよぎる。自問自答ファッションにはいろいろと面白い特色があるけれど、「店員さんの助けを借りよう!(意訳)」も特色のひとつ。ここで声をかけて体験しないと、もったいないなと思った。

しかし、とにかくファッションに関連する分野に苦手意識がある私。香水の世界は未知である。加えて、匂いに敏感で、苦手な香りもとても多い。人工的で強い香水や入浴剤はほぼ駄目だし、人のまとった匂いで気持ち悪くなってしまうこともある。4年ぶりの東京に着いてまず実感したのも、「都会はいろんな匂いがするなぁ」だった。

でも、せっかく東京まで来たんだ。店員さんとお話ししてみよう。そう考えて見回すと、あいにく皆さま接客中。普段の私ならここでお店を出てしまうけれど、なんとなく目に留まる香水の匂いを嗅ぎながら店員さんの空きを待った。
5分ほどうろうろしているうちに店員さんのお一人が接客を終えられたため、あいさつして用件を伝える。声のかけ方は店内にいる5分間の間に決めた。

「こんにちは。今まで香水にはあまり興味が無かったのですが、こちらのお店が気になってきました。苦手な匂いが多いのですが、アロマオイルは好きで、特にゼラニウムとベルガモットが好きです。あと、お花だと沈丁花がとても好きです。似た系統の香水をいくつか選んで貰えますか?」

という内容をつっかえつっかえ伝える。すると、私の言葉を聴いているうちにどんどん目力が増していった店員さん(今後は姫と呼びます。理由は最後に)から予想外の言葉が返ってきた。

プロフェッショナルの回答と質問

「なるほどわかりました。アロマオイルは普段お家でお使いですか?だとしたら、同じ系統はおすすめできません。香水は外でお使いになりますよね?お家と似た香りだと、スイッチが入らないんです。例えばお仕事の時に気合を入れたいとか、そのような使い方なら違う香りをお勧めします。どのようなシーンでのお使いを想定されていますか?」

なんと。香水ってそういうものなのか。知らなかった。困ったな。違う系統だと私には合わなさそうだし、そもそも身体が受け付けないかもしれない。どうしよう。
しかし相手はプロフェッショナル。とりあえず流れに乗ろう。無理な匂いだったらそう言えばいいよね。

「職場は香水NGなので、休日のお出かけ用を探しています。」

「わかりました。お客様はどんな休日を過ごされたいですか?行きたい所や、やりたいことなどを教えてください。」

へっ?!香水を選ぶのにそんな所まで考えるの??とびっくりして思考が一瞬停止する。休日にやりたいこと…。通常の私なら、たぶん「美術館や博物館に行ったり、素敵な建物のカフェでお茶をしたり、植物園や公園を散歩したりしたい」と答えたと思う。しかし、その時の私の答えは全く違った。

「すごく抽象的なのですが…新しい世界の扉を開きたいです。」

クエスチョンに対するアンサーが嚙み合っていない。なのに姫の目はますます輝きを帯びる。爛々(らんらん)と光ると表現しても差し支えないくらいだ。そこからの動きは凄かった。「わかりました、少々お待ちください。」と言った後に店内をなかなかのスピードで歩き回り、香りをチェックし、6個ほどのフラスコが私の前にずらりと並ぶ。

「ご用意したこちらを一つずつ嗅いで、『違うな』と思ったものはどんどん外していってください。」

匂いを嗅いでみる。どれも何が使われているかさっぱりわからない。嫌な感じのものは一つも無かったけれど、『直感的に好きか嫌いか』『身に纏いたいか』だけで選ぼうと決めると、一つしか残らなかった。それを確認した姫の目は煌々(こうこう)と輝く。舞台に出る前の女優さんのような凄み。

そして別のフラスコを持ってきてくれて、嗅いで外して…を繰り返す。3回ほどやっただろうか。持ってきてくれるフラスコは減るのに、1回のテストで残る数は増える。最終的に5~6個が選抜された。一度嗅覚をリセットするためにコーヒー豆の香りを嗅がせてもらう。相変わらず姫の目は光っている。

「新しい香りを試すのはここまでにしましょう。選ばれた香水をシャッフルします。これはと思うもの二つに絞ってください。」
言葉が続く。
「選ぶ前にイメージしましょう。今日は休日の朝、天気は快晴。大切な人と会う約束があります。相手は久しぶりに会う友人でも誰でも構いません。体調は万全だし、前日たくさん眠れてお肌とメイクのノリもばっちり。最高の休日の始まりです。そんなご自分が纏われたい香りを選んでください。」

香水を選ぶのにそこまで考えるのか。と驚くこと2度目。しかし彼女のプロフェッショナルさが伝わってきていたため、突然の提案もすんなり受け入れ、イメージしながら選んでいく。フラスコは3つまで絞れた。しかしここからが難しい。「ゆっくりお決めになってくださいね。」という優しいお言葉をいただきながら、何度もチェックして最後の一つを外す。どの香りも好きだったけど、イメージから遠いものを決めて外した。

それを見た姫が、「なるほど。」とつぶやきながら頷く。なんだかとっても納得しておられる。何なんですかそのご反応、とこちらはそわそわ。

ここでようやく、香水の名前と香りの原料の説明が行われた。Aの原料はマテ茶の花、ギンモクセイ、グリーンティ。Bはジャスミン2種とアンバー。

「こちら(A)は一番最初に選ばれて、最後まで残りましたね。」
そうだったのか。正直途中からどれがどれだかわからなくなっていたから、気づいていなかった。

「あと、最後まで迷われて外したこちら(C)は、残った2つのうち1つと系統が似ていました。結果的に、違う系統の2つが残りましたね。」
あらそうなんですね、それも全くわからず。外したCが、AとBどちらのお仲間なのかもわからない。

そして続くお言葉で電流が走る。

「実は、最初にお渡しした6個は、仰っていたお好きな香りに近いものを選んでいました。お一つしか残らなかったですね。お客様は、本当に『変わりたい』と思っておられるとわかりました。」

私がずっと求めていたこと

あぁ、そうか。
私、変わりたかったんだ。
自分では全然言語化できていなかったけど、そうなんだ。人に言われてようやく腑に落ちた。
ずっと宙ぶらりんだった心のピースが落ちて、あるべきところにはまるような感覚。
涙が浮かんで、こぼれないように必死でこらえた。

20の歳から17年、私は停滞し続けている。
とんでもない田舎で夢を抱き、必死に勉強して志望校に合格し、進学した東京。そこで私は生きていけなかった。先走る脳に身体も心もついていけなかった。
就職活動はなんとかやって内定はとったものの、ますます体は壊れていった。食べられるものがどんどん減り、最終的にはポカリスウェットと卵ボーロしか受け付けなくなった。172cmの高身長でありながら、体重が40キロ台になった。

もうここでは生きていけないと痛感し、地元に戻った。母の料理が少しずつ食べられるようになり、身体と心もゆっくりゆっくり回復していった。

今は就職もできて、フルタイムで働き、休日を楽しめるようになった。
常に学び続けたい、という思いは消えることなく、私なりに学びを続けている。

事実だけを見たら、回復して順調に生きられるようになったと言えるはずなのに、私はまだ自分を「停滞している」と感じている。それをまざまざと実感した。

思えば、自問自答ファッションにはまったのも、「変わりたい」からだったんだ。「自らの生きざまを決め、ファッションに落とし込む」という一風変わったファッション論。

「服を着て人生が変わるかはわからない。しかし、真剣に服を選んでそれを身に纏えば、人生は必ず変わる」

そんなあきやさんの言葉は、私にとって天啓のようだった。

そうか、そんなに変わりたかったんだね、私。
長い間気づいてあげられなくてごめんね。

香水を選ぶ、ただそれだけの行為で、私の人生は今から変わる。

残った選択肢は2つ

姫は残った2つを、それぞれ右と左の手首に吹きかけてくれた。つけてすぐの香り、数分後の変化、数十分後の変化について説明してくれる。
とんでもない体験をして、「香水を持つならフエギアさんしかない」という思いは確定したけれど、やはり匂いの変化は心配で確かめたい。お礼を言ってお店を出た。

自分の身から、自分の選び抜いた好きな香りがほんのわずかだけど香る。それだけで心が浮き立った。

さて、問題はどちらにするかだ。結論から言うと、その日のうちには決められずGINZA SIX店での購入はできなかった。申し訳ない。いや、申し訳ないというより、あの姫から買いたかったのに買えなかったのがとても残念だ。
つけたてから数十分はBの方が好きで、もう決まりかなと思った。ただ、ラストノートがなんだか違う。数時間後ならAの方が好き。選べない。

そこで公式サイトでAとBを検索し、コンセプトを読む。

A Thays(タイース)

タイースは非常に優れたアーティストであった。彼はアルゼンチン特有の植物をパレット代わりに素晴らしい公園を作り出した。このフレグランスは彼の魅惑的な庭園に繁茂する植物との意外な出遭いを想像させる。緑の公園と咲き乱れるモクセイの香りが漂う。

公式サイトより

私の好きな世界観だ、という驚き。アーティスト、その土地の植物を使った公園、出逢い、というキーワードが響く。「今までの私が好きなもの」と「意外性」が両方あって、最初に選んで最後まで残ったという事実に納得がいく。

B Seda(セダ)

フォルモサの森に漂う万華鏡
昼咲きのジャスミンの雲に
蝶が生まれ、舞い遊び、そして死にゆく

絹の職人が紡ぐ生命の糸

全体的には凄く好きな世界観だけど、「死」にひっかかる。目をそらしてはいけない事だけど、今の私は舞い飛んでいたい。死まで表現した香りはちょっと違う気がする。
…これ、ひょっとして、しっくり来なかったラストノートがコンセプトで言う「死」なのかな。だとしたら香りの好みと言葉の好みが連動している。
あと、昼より夕暮れが好き。

結論

どちらか一つには選べなかった。数時間後に戻ってもう一度姫と話ができたら決まったかもしれないけれど、日程的に叶わず。しかし、今の私の香りはきっとこの2つのどちらかなのは間違いない。両方買って、「今の私」を香りで記録しよう。これから私が変わっていったら、求める香りが変わりそうだから少ない量にしておこう。

FUEGUIA 1833、絶対また行く。同じ姫に会ってお話できるといいな。
悔やまれるのが、お名前を伺わなかったことと、あまり目を見てお話できなかったこと。もともと人の目を見て話をするのが苦手。でも、プロフェッショナルである彼女の表情の変化はもっと見ていたかった。
私が人の目を見れない一番の理由は、きっと自分が見つめられるのが怖いから。自信のなさ故。これ、変えていきたいな。

振り返って思うこと

衝撃から2日たって思うことがある。姫には「変わりたいんですね」といわれてすごく納得したけれど、改めて考えるとニュアンスが少しだけ違った。

「変わりたい」より「変わっていきたい」。

これまでの自分を否定して変化を求めるのではなく、見つめて、受け入れて、学んで、考えて、行動していく。そうして、変わっていく自分を楽しみたい。今はそう思う。

私は私を纏って生きていくよ。ありがとう。



おまけ1
タイトルおよび文章内の、店員さん=「姫」表記は、あきやさんの「試着は外交、店員さんは隣国のお姫様」という名言から拝借しました。しかしフエギア国のお姫様は、ガチの外交官だった。外交(会話や観察)によりこちらの国(私)を分析し、最適な交易品(香水)を提案する。お姫様のパワーで、鎖国状態だった我が国(私の意識)は、何ひとつ強制されていないのに勝手に開国した。

おまけ2
自問自答ガールズ(自問自答ファッションを実践する人たちをこう呼ぶ)のフエギア体験記、ほかの方の記事もとっても興味深いです。私も全てを追えていないので、これから読んでいきます。リンクを貼らせて頂くかもしれません。

おまけ3
Sedaのコンセプトにある「フォルモサ(=ポルトガル語で“美しい”)」を調べると、「台湾」と「アルゼンチンの市」が出てくる。これがどちらなのかわからない。フエギアが誕生したのがアルゼンチンだからそちらかなと思うけど、ジャスミンと言われると台湾でもありそうな…?正解を知りたいから、サポートセンター的なメールアドレスがあったら聞いてみようかな。


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