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「運転士の居眠り」から見える現実

皆様、こんにちは。
現役鉄道員のKです。

ここのところ、公私にわたって多忙を極めていて更新が滞ってしまいました。
申し訳ありません。
色々落ち着いてきたので、また緩やかに色々と書いていきたいと思います。
引き続きよろしくお願いいたします!

さて、いつものようにスマホを見ていたらこんなニュースが飛び込んできました。

こうした、所謂「運転士の居眠り」については度々ニュースにもなりますし、その度に「けしからん」「ってか、運転士なくして自動運転にしたら?」といった声もよく挙がりますよね…。
その度に私は「違う、そう単純な話じゃないんだよな…」等ともどかしい気持ちになってしまいます。
今回は、こちらのニュースを入り口に鉄道乗務員のおかれている現状の一部をご紹介したいと思います。



・事象の経緯

記事によると、当該運転士は昼過ぎに品川駅~蒲田駅の3駅間で断続的に居眠りをしてしまい、それを見ていた乗客から会社に「寝ていたのでは」との指摘があり、発覚したそうです。
ちなみに京浜東北線はTASC(定位置停止装置)を採用していたため、停止位置を越えるといった事象は起こらなかったそうです。

・なぜ「居眠り」してしまったのか…

当該運転士の聞き取りの内容などは、記事では分からなかったため、ここからは私の経験に基づく「推測」になります。

様々な要因が考えられますが、個人的には鉄道乗務員の勤務体系の「不規則さ」が主要因ではないかと考えます。
皆さんご存じの通り、鉄道は早朝から深夜まで走っています。当然のことながら、乗務員の働き方もそれに合わせたものとなるため、非常に不規則なものになります。
乗務員の勤務体系の基本は、宿泊を伴う「泊り勤務」です。泊り勤務では、睡眠時間はあくまで「仮眠時間」なので、乗務内容にもよりますが、一般的に人間が必要とする睡眠時間よりも遥かに短い時間しか眠ることが出来ません。
私はこれまで、複数の鉄道会社で勤務してきましたが、多くても5,6時間、短いと4時間程度しか所定の仮眠時間はありませんでした。
また、深夜時間帯は電車を終業する「入庫」や場合によっては泥酔者対応、入庫電車の清掃、早朝時間帯は電車を立ち上げる「出庫点検」などをするため、実質眠れる時間はさらに短くなります。
(ちなみにこうした事情から、私は終電担当時に泥酔者がいたら、内心「かなり不機嫌」になっていました…この辺の体験談はまた後日改めて。)

また、泊り勤務の翌日は「明け」となりますが、明けもよくて9時前後、遅い勤務ではお昼前に終了する勤務もあり、4時間程度の仮眠時間を挟んで朝ラッシュの数時間を休憩なしに乗務することなども、ざらにあります。

さらに、近年鉄道会社の多くが(大手も中小も問わずです…)人手不足に悩んでおり、いわゆる「残業」が常態化しています。残業と言っても一般的な社会人の残業とは異なり、電車のスケジュールありきのため、明けから数時間夕方まで引き続き乗務する、数時間のインターバルを挟んで再び泊まり勤務に就く等、その内容は多岐に渡ります。ひどい場合は3日、4日会社で寝泊まりをしていたという話も聞いたことがあります。
仮に今回の当該運転士が、こうした「残業」で乗務していた場合、その健康状態は決していいものではなかったかもしれません。
当然ながら眠気に襲われたとしても…違和感はありません。

・人手不足の現実

こうなると、「そんな健康状態の人間を乗務させていいのか?」という話になるかと思います。それは私自身もっともな意見だと思いますし、プロの乗務員である以上「乗務しない勇気」も必要だとは思います。
しかしながら、こうした際のフォロー体制も危うくなっているのが現状です。

先程人手不足という話をしましたが、以前は「予備乗務員」という勤務があり、一日乗務員事務所で待機し、異常時や乗務員の体調不良時に代わりに乗務する人が常駐していました。
私自身、前職時代に事務所内の事務作業の傍ら、そうした予備乗務員の役割も含めたポジションで勤務をしていたことがありますが、意外と乗務する機会が多かったのを覚えています。

しかし、人手不足の影響で、通常の勤務を回すために「予備乗務員」の枠をなくしている会社も出てきています。そうなると、乗務中に体調を崩したとしても代わりに乗る人がいないということになります。
また、人手不足であることは乗務員自身が一番理解しているため、「突発的に休む」ことがどれだけ「迷惑をかけてしまう」ことかと思ってしまう心理も働き、「多少の無理をしてでも乗務する」という結論に達してしまう…これが現状です。

私たちの仕事は、毎日必要な定数を確保することが前提の職場です。そのため、休むことで自分が穴をあけることに対するプレッシャーが元々強い上に、いざという時のフォロー体制も脆くなっているため、乗務員にとっては非常に心理的に不安な環境であるといえます。

・なぜ「人手不足」が起きているのか ~私の持論~

ここまで読んでいただいた方の中には、「鉄道業界なんて志望する人も多そうだし、人手不足な訳あるか」と思う方もいるかもしれません。しかしながら、それに対する回答は「否」です。

近年、働き方の多様化や価値観の変化から「泊りを伴う勤務体系」を忌み嫌う方も増えています。(実際、鉄道会社に入ってから「泊まり勤務が耐えられない!」という方もいます…)
また、金銭面でも決して恵まれた体制ではありません。
(詳しくは後日記事にしようと思います…需要があればですが(笑))
福利厚生も年々悪くなっています。
(私は1社目で5年ほど勤務していましたが、その間に「加入していた福利厚生プログラムの終了」「家族乗車券の廃止」等を経験しました。)
正直、他の業界と比較したときに魅力があるかと言われると何とも言えないのが現状です…。はっきり言って「憧れ」を搾取している面があるのは否めないと思います。

加えて、私が個人的に主要因に考えるのは「働く環境」です。
とりわけ「お客」(敢えて「様」を抜いて書きました…)の乗務員に対する態度が、この職業に就きたいという気持ちそのものを削いでいるように感じます。
今回の件、発覚したのはお客様からの通報でした。当然お客様を乗せている以上、居眠りをするなど許される行為ではありませんし、それを正当化するつもりは私もありません。
一方で、過去にもこうした事象がニュースになる際に、その様子を動画で撮影してSNSに「晒される」事例も多くありました。また、過去には撮り鉄を制した駅員ともめる様子等がYouTubeで生々しくアップロードされていることもありました。
これはあくまでも個人的な主観ではあり、素朴な疑問なのではありますが、わざわざ「晒す」必要があるのでしょうか?
「晒す」ことで正義を執行した気にでもなっているのでしょうか?

SNS等の情報発信ツールの怖さは、時に発信者に対して「歪んだ正義の執行者」という気持ちを抱かせてしまう点にあると個人的に思います。
SNSが普及し、誰もが情報の「受け手」から「発信者」となれる時代において、こうした怖さが時に暴走する危険性があります。
しかるべき通報窓口(お客様センターなど)があっても、そこを避けてSNSで「晒す」ことで世に出すという行為に対して、一種の気持ち悪さを個人的には感じてしまいます。

近年、いわゆる「カスハラ」対策を打ち出す社局も出てきましたが、まだまだ道半ばだと思います。
(カスハラについては、以前投稿したこちらの記事もご覧いただけますと幸いです…。)

とりわけ、乗務員や駅係員の中には「撮られる」ことがストレスに感じている人も多くいます。
皆さんも逆の立場で考えてほしいのですが、仕事している様子を赤の他人に「撮影」されて「晒される」ことをどう思いますか?
残念ながら、現代社会ではこうしたことに思い至らない方が多いように感じます。そしてこうした方が突っかかってくる以上、働く環境として選択しない人が増えても仕方ないと思います。
その結果人手不足になり、減便したとしても私としては「自業自得」でしかないと思ってしまうのです。
お客の利便性をお客自身が「損なっている」事実を、今一度考えてもらえればと思います。

・最後に

何だか今回もまとまりのない駄文になってしまい、申し訳ありませんでした。乗務員を取り巻く環境の一端について皆様に知ってもらえたら幸いです。
今後も不定期ではありますが、更新できればと思いますのでよろしくお願いいたします。

☆私のページでは、こうした鉄道業界を巡る時事問題や、私の体験談といった鉄道業界の裏事情、さらには鉄道業界を目指す方向けのお話などを順次掲載したいと思っています。
 もし、「こんな話題を聞いてみたい!」というテーマがありましたら、ぜひコメント欄で教えてください!よろしくお願いいたします。


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