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創作怪談

【いつもどおりに】

駅の改札を抜けてコンビニに寄るか、軽くスロットを打つか迷ったが冷蔵庫に缶ビールと唐揚げが入ってることを思い出すと同時に、スロット店の入り口から渋い顔をしたおじさんが財布を覗きながら出てきたのでまっすぐ帰ることにした。住んでるアパートまで徒歩でだいたい20分前後かな。今の時間は21時を少し過ぎた頃。駅から自宅まで往復はいつも同じ道を利用している。いつも通り、姿勢を少しばかり猫背気味にして歩く私は前からすれ違う人や、後ろから追い抜いていく足元の邪魔にならない様に家路につく。

がちゃり。とドアのカギを回して開錠しドアノブを左手で軽く引くと人1人は通れる分だけドアを開いてスルリと自分自身を潜り込ませ、後ろ手でドアを閉めてから振り向いて施錠してからチェーンを掛ける。
ただいま。と内心で思って靴を脱いで入ると、1LDKの室内は当たり前だが暗いままで私を迎えてくれた。
明かりを付けると、ソファに荷物を置いてため息をつく。今日はなんか疲れたなぁ。とか、有給申請をいつしようか。なんて思いながらも着替えを準備してシャワーに向かう。浴槽に浸かった方が疲れは取れるらしいが、シャワーで早めに済ませて部屋でのんびりしたいのだ。

シャワーが済んでタオルで頭を洗いながらリビングに戻ると、ソファ正面のテーブルには、わりばしと温められた唐揚げが添え物のパセリやレモンと皿に盛りつけられており、キンキンに冷えたコップと同じくキンキンに冷えた未開封の缶ビール。どちらの下にもコースターが敷かれている。
ソファに座ると勝手にTVが付いて楽しそうな笑い声が流れ、部屋の雰囲気が和らぐ。

ソファに座り、テーブルに準備されたモノを見つめながら、いつから一人暮らしの私の家にこう言う現象が起こったのか。思い返してみる。
婚約者が私に一方的な思いを寄せていた面識は無い同じ職場の女性にめった刺しで殺されたときだろうか?
逮捕されたその女性が獄中で自殺した時からだろうか?
周囲の同情と哀れみや好奇心、事件への興味を持ちながら近づいてくるような視線に耐えられずその場所や地位。人との関りを全て断ちたくて逃げる様に・・、いや。逃げ出してこの土地に来た時からだろうか?
思い出そうとするが、なぜか思い出してはいけない様に頭に霧が掛かった状態になる。この事ばかりではない。過去に関する事を思い出そうとしてもだ。

いただきます。は言わず、脳に入ってこない目に映るだけのTVを見て私は唐揚げを食べて、缶ビールを開けてコップに注ぐとグビリと飲み干した。
考えちゃいけない。理解しちゃいけいない。

今日も何事もない一日の終わりだ。いつものように。

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