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ショートショート_神と悪魔

神と悪魔は、静かに対峙していた。宇宙の果てに広がる暗闇の中、二人の声だけが響き渡る。人間の存亡を巡る議論は、長く、激しいものだった。だが、今はその結末が近づいていた。

「お前は何度も同じ過ちを繰り返している。」悪魔は冷ややかな声で言った。「人間という存在は欲望に満ち、自己中心的で、決して成長しない。彼らは俺の領域に属しているんだ。愛や善意で世界を救えると思うのは、お前の幻想に過ぎない。」

神は静かにそれを聞きながら、目を閉じていた。そして、やがてゆっくりと口を開いた。「確かに、人間は多くの過ちを犯してきた。彼らは迷い、欲望に流され、時に互いを傷つけ合う存在だ。だが、彼らには一つだけ、お前には理解できないものがある。それは成長だ。」

悪魔は鼻で笑った。「成長だと?そんなものがこの世界に何の意味を持つ?彼らが何かを学んでも、結局はまた同じ過ちを繰り返すだけだ。お前がいくら彼らに期待しても、無駄なことだ。」

神は首を振った。「違う。彼らは過ちを繰り返すが、その度に学び、進化する。それが人間の本質だ。彼らは何度でも倒れて、また立ち上がる。それが、彼らが持つ唯一無二の力だ。過ちの中で愛し、希望を抱き続ける。お前の望むような完全な存在ではないが、それこそが彼らの価値だ。」

悪魔は言い返すことができなかった。神の言葉には、深い確信があった。悪魔は何度も人間の愚かさを見てきたが、その根底にある成長の力を、軽視していたのかもしれない。

神は続けた。「私は、彼らを見捨てない。彼らには未来がある。愛や希望、そして絶え間ない成長が、彼らを新たな世界へと導く。」

沈黙が訪れた。悪魔は不機嫌そうに顔をしかめ、言葉を探していたが、もはや議論の余地はなかった。神が勝ったのだ。

やがて二人は立ち上がり、その首に繋がれていた鎖が引っ張られた。鎖の先には人間がいた。彼らは神と悪魔をそれぞれ引っ張っていた。

神を引っ張っていた人間が、退屈そうにため息をついて口を開いた。

「またありきたりの議論しやがって。つまんねぇんだよ。ま、今回は神が勝つ方に賭けてたからいいんだけどよ。」

彼は神の鎖を少し強めに引きながら、ぼんやりと前を見つめていた。神もその言葉に反応することなく、ただ静かに歩き続けた。

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