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【虎に翼】寅子とよね

 年度替わり。職場が変わり生活リズムも変化した。そのおかげで連続テレビ小説が見られるようになった。
 そして、この春スタートした「虎に翼」の沼にまんまとハマってしまった。今では毎日の楽しみになっている。

あらすじ

 舞台は昭和6年の東京。女学校に通う猪爪寅子(ともこ)は両親にお見合いを勧められる日々を過ごしていた。女学校を出たら結婚し、子供を産み、家庭を守るのが当然という時代だった。しかし、寅子は納得できずにいた。
 ある日、下宿人・優三に弁当を届けるため寅子は大学へと向かう。授業中の教室から聞こえてきたのは「女性は無能力者」という言葉だった。そこで教授の穂高と出会い、明律大学女子部への進学を勧められることになる。
 紆余曲折ありながらもなんとか母親を説得することに成功し、寅子は女子部へ入学する。
 現代ほど女性の権利が認められていなかった時代に、世の中を変えようと立ち上がった女性たちの物語である。

 自身も女性なので、このドラマには入り込みやすい。でも、それだけではない。ロマンシスやシスターフッドを好んでいる方にも楽しめる作品なのではないかと思う。

 念願かなって女子部に入学し、やる気に胸躍らせる寅子。そんな寅子に同級生の山田よねは「うっとうしい」と言い放つのであった……。
 この山田よね、終始仏頂面で、思ったことをはっきりと言う性格のきつい人物である。しかし、婚約解消した男女の裁判を傍聴した際、女性が弱い立場に置かれていることに強い怒りを感じ涙するという優しく正義感の強い一面もある。
 明るく前向きな寅子とリアリストのよねは対照的であるため、意見が対立することもしばしばある。
 しかし、寅子はよねを「私、よねさんのこと割と好きよ? 勉強熱心だし、はっきり物事を言うところは私に似てるし、男装姿は似合ってるし。何より、知らない誰かのために涙して憤慨するあなたはとっても素敵!」と評価している。
 そう言われたよねが言葉を失い、「……アホか!」と吐き捨てて去るところが堪らない。この褒められ慣れていなさそうなところがかわいらしい。

 そして、今日放送された15話。
 「自分で決めたことなのだから弱音を吐くな」と言うよねに、「自分で決めたことだって弱音を吐いていい。それを受け止められる人でありたい」と言う寅子。
 心に閉じ込めた弱音を皆が次々と口にしていく中で、張り詰めた空気がほどけていく。
 寅子はよねに「よねさんはそのまま、嫌な感じのままでいいから。怒り続けることも弱音を吐くのと同じくらい大事。だから私たちの前では好きなだけ嫌な感じでいて」と言う。面食らったような表情をしてよねは去っていく。
 翌日、登校するや否やよねは寅子に歩み寄り三陰交を押す。三陰交は生理痛を和らげるツボである。生理痛の重い寅子のために、よねはバイト先の女性に三陰交について聞いてきたのだ。
 このよねの行動について、考えられる理由は二つある。
 一つ目は寅子への反抗だ。『嫌な感じのままでいて』という寅子の指図に応じるようで、いつも通り振る舞うのは癪だったのだろう。
 それで親切にしたところ寅子は喜び、「私にも教えて!」と他の同級生まで集まってくる始末。
 寅子を困らせるために親切を演じたのに、かえって喜ばせることになってしまった。そうだとすると、このひねくれ加減も魅力的ではないだろうか。
 二つ目は誤解を解くためだ。よねはいつも思ったことを言っているだけで、嫌な感じに振る舞っているつもりはなかった。そのため、寅子の発言に「私って嫌な感じに見られてるんだ......」とショックを受けた。そこで、悪意がないことを示すために寅子に三陰交について教えたのではないだろうか。
 どちらにしても、よねの意地っ張りなところや不器用さがかわいらしいと思う。

 よねは貧しい生まれで、壮絶な過去を経験している。
 『自分で決めたことなのだから弱音を吐くな』という言葉は、よねが自分自身にぶつけてきた言葉なのかもしれない。自分に発破をかけるために。または、弱音をこぼせるような人が周りにいなかったのかもしれない。
 そして、壮絶な過去があるからこそ、寅子はじめ他の学生がお気楽に、遊び半分で女子部に来ているように見えてしまう。
 自分に厳しいよねは周りにも厳しい。もっと自分に優しくしていいんだよ、と言ってあげたくなる。寅子と一緒にいることで、いつかよねがそのことに気づけたらいいと思う。

 寅子とよねは生まれの上でも対照的と言える。
 「この世の中を変えたい!」という思いは同じでありながら何かと対照的なこの二人が、なんとなく意識し合ってくれていたら個人的にはとても嬉しく思う。
 ご興味があればぜひ。


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