ごあいさつと書きたいこと

 皆様はじめまして。
 このクリエイターページでは鉄道や軌道について、しかし趣味的な要素から少し離れた“固い”話題を、取り上げていこうと思ってきます。
 具体的には社会政策や150年余にわたる歴史の面から、日本の鉄道・軌道をめぐる全体的な動向を、ご紹介していくつもりです。
 かねてよりわが国では、鉄道や軌道事業の赤字、並びに存廃が問題視されてきました。
 国鉄改革や、昭和30年代以降の中小私鉄の相次いだ廃線、そして近年では平成28(2016)年にJR北海道が、単独維持が困難な路線を発表、コロナ禍により他のJR各社もこれに追従したことなど、枚挙にいとまがありません。
しかし、鉄軌道の根本的な性質を無視して、赤字の巨額さに驚かされていても、あまり生産的な議論はできません。
 鉄軌道が車両や線路など、インフラにかけている固定費は非常に高く、「装置産業」の代表格といわれます。ゆえに初期費用が高く、単独の企業が新規に路線を敷設・維持することはリスクが高いのです。そこで新幹線(特に整備新幹線)や都市鉄道(ニュータウン鉄道など)でさえ、建設に公金が投入されてきました。赤字問題というとローカル線の印象が先行しがちですが、実はそれに限らず、ひろく採算性の確保が容易ではない側面が鉄軌道にはあります。多くの鉄軌道において、建設費用の工面や返済に、並みならぬ困難や紆余曲折があったのです。
 固定費の高さゆえ市場原理が通用しないことから、公共性の高さを名目に、どうしても特別の保護をしなければならない部分があります。しかも適切に、まちづくりと鉄軌道の運営を関連させれば、移動の利便性向上などにより沿線地域にもたらす外部経済効果・社会的便益が高くつきます。このため鉄道・軌道事業単独では収支が補えなくとも、地域全体でみれば黒字といえる社会資本としても側面もあります。
 その価値を認め、まとまった公的支援を以て施設を刷新することにより、多くの利用を呼び込める可能性もあります。
 これにより、事業者の自前では儲からないから新たな工事やサービス充実のための投資ができなくなる、よって利用が敬遠され、さらに経営がボロボロになってしまう……との悪循環を解消できるわけです。
 なぜ鉄軌道は本質的に赤字になりやすいのか。赤字であればその鉄軌道は本当に、役目を終えたといえるのか。外部より支援をしてでも存続・再生させる手立てはないのか。あるいはもう一度利用を回復させ、その赤字を解消することはできないのか。
 このあたりを基本から抑えておくことで、感情論や極端な主張に惑わされず、改正地域公共交通活性化・再生法などに関する時事問題にも接していけると私は捉えています。
 たしかに「赤字路線」のすべてを存続すべきかは、再検証がもとめられると私も思います。よほど利用も少なく、回復の見込みも立たないなら、維持する費用が無駄になるのですから、廃線も選択のうちでありましょう。
 一方、すでに全国各地に廃線の危機に瀕したものの、そこから沿線地域の出資と共同で再生計画を立てるなどの尽力により、見事復活を遂げた路線がいくつもあります。公共交通や観光資源としての価値が、再び発揮されるようになった事例もあるわけです。それを踏まえると、損失額の数字だけを見て、即廃止や建設反対を唱えるのは性急が過ぎるのではないでしょうか。
 「勝ちに不思議の勝あり……」という言葉もあります。なるほどそうした事例では、時期的・地理的な幸運や、関係者のとっさの機転などにより、存続・再生あるいは新規開業という勝ちを得たとの解釈もできうるでしょう。
 しかし所定の努力を怠れば、そうした勝つか負けるかの、偶然的な決め所に到達さえできないと私は考えています。
 ではその所定の努力とは、具体的にどのようなものなのか。これまでの成功事例を見ていくと、一定の成功の要素、本質が見出されてきます。

 こうした事項を、これからいくつかの記事に分け、深掘りしていこうと思っています。
 一介の鉄道マニアが、我ながら身の程知らずに専門家気取りで、文献調査や文章の編集などを進めてまいりました。
 どうぞこれから拙稿にお付き合いのほど、よろしくお願いいたします。

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