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ビジュアル系男子に教えられた琴【毎週ショートショートnote裏お題】

学園祭に向けて作った即興バンドのメンバーと共に私は黒いバンに乗っていた。ヴォーカルのV系男子の家で練習するためだ。

一時間あまり走った後、車から降りると目の前にあったのは古びた洋館、ではなくて茅葺かやぶきの平屋。しかも、あたり一面は田んぼで、カエルの合唱が響き渡っている。

ああ、きっと彼はこんな田舎を嫌悪しているからこそ、V系に走るのか。普段の彼の様子と実家とのギャップに妙に納得できた。

家に入ると、何処からともなく弦を弾く音が聞こえてくる。それもザ・和楽という感じの。運転手を務めてくれた兄に導かれ、奥に進むとその音は次第に大きくなっていった。そして、案内された部屋の扉を開けると、V系男子が一張の琴を弾いている最中だった。

私たちの来訪に気づいたV系男子は、弦に目を落としたままで言う。

「目指しているんだ。お琴の先生になるのを」

そして現在、私は女性だけの和楽V系バンドで琴を担当し、満員御礼のステージの上、Quántiānxiàを弾いている。


(410字)

たらはかに(田原にか)さまの企画に参加させて頂きました。

参考:權御天下は実在する曲です。

琴による演奏も人気です。


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