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伝書鳩パーティー

その国では古来から
鳩は神の使いとされてきました
世界が闇に堕ちるとき
神は伝書鳩たちを
救世主たちの下に遣わすのです

休日の朝

コツコツコツ、コツコツコツ……

頭から布団を被っても、その音はしつこく聞こえてくる。堪りかねて起き上がると、部屋の中はもうすっかり明るくなっていた。

ボンヤリした意識で部屋の中を見回してみる。耳障りな音のする方に歩いていき薄っぺらいカーテンを開けると、そこには一匹のハトがいた。こいつが窓を叩いている。

バン!バン!バン!

乱暴に窓を叩いても、まるでハトは逃げようとしない。軽く舌打ちをして、ハンディモップを手に少しだけ窓を開ける。するとハトは、待ってましたとばかりに部屋の中に入ろうとした。絶対に入れてなどやるものか。窓の隙間からモップの柄を出して振り回したが、ハトにはなかなか当たらない。

五分、いや、それ以上か?そんなことをし続けていた。やがてハトは入室を諦め、代わりに自分の脚を気にしだす。結び付けられている何かを外して欲しかったのか?それなら他を当たってくれ。

まあ、しかし、これで一応は静かになった。冷蔵庫には何が入っていたっけか?ベランダの戸を閉め鍵を掛け、ついでにカーテンも閉じる。すっかり目が覚めてしまったので、俺は朝食ブランチを摂ることにした。

ベランダの落とし物

東灘佐助様

謹啓
 薄暑の候、貴殿におかれましては、ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。このたびは、貴殿を伝書鳩パーティーに是非ご招待いたしたく、お手紙を差し上げました。
 ご多忙のところ、誠に恐縮ではございますが貴殿のご助力を賜りたく、謹んでお願い申し上げます。

伝書鳩パーティーへの招待状から冒頭

ハトが置いていったらしい紙切れを開いてみると、パーティーの招待状のようだった。伝書鳩の愛好会か何かだろうか?そういえば何週間か前に動物愛護団体(?)の署名に協力して、住所と氏名を書いてしまった気がする。

そんなことより洗濯物を干さなければ。クシャッと紙切れを握りつぶして床に放り、ハンガーに手を伸ばす。妙な愛好会に構っている暇などない。冷蔵庫に貼ってあるメモを思うと、ため息が出てしまう。

  • 書留郵便の受け取り

  • 支払い

    1. 住民税

    2. 水道代

    3. 電気料金

  • 買い物

    1. スーパー:たまご、ニンジン、しめじ、納豆、乾燥わかめ

    2. 薬局:トイレットペーパー、歯ブラシ、シャンプー

  • 自転車のパンク修理

  • 散髪

休日なのに、何故こんなにやることが多いんだ?

Tシャツをハンガーにかけている途中で、スマホが鳴った。

今日の夕方シフトに入る子が風邪ひいちゃって、今から来れない?

ああッ!なんで今日に限って!だが断る……わけにも行かなかった。いつか、自分が偉いと思っているやつの頼みを『NO』と断ってやりたいが、それは今ではない。嫌々ながら返信する。

分かりました。今から一時間後でも大丈夫ですか?

ありがとう!助かるよ。できるだけ早く来てね。

はぁ、これでパンク修理はまた来週に延期だ。それに何時になったら、このボサボサの髪の毛を切れるのだろうか?

突然の来客

高校時代のジャージから大急ぎでシャツとジーンズに着替え、買い物用の手提げに各種料金の払込票を放り込む。書留の受け取りだけは出勤前に済ませたい。

かかとが潰れて泥で汚れたスニーカーを履いて、玄関のドアを開ける。危うく、目の前に現れた女性とぶつかりそうになった。

「あ、どうもすみま……」

「何度もご連絡を差し上げているのに、どうしてお返事を下さらないのですか?!」

ハァ?まず謝れよ?

「東灘佐助様、もう時間がありません。今すぐわたくしと共に来て、伝書鳩パーティーの一員となってください!」

女に手を掴まれた瞬間、周囲の景色が真っ青な大空へと変わる。真下に広がっているのは……緑色をしているが恐らく畑だ。

ヤバイ、死ぬ。

掴まれた手の方を向いてみると、女の背後に水平線が見えた。


(1,575文字) たらはかに(田原にか)様の企画に参加しています。


某所で「小説を書く時に、noteのエディタの引用や箇条書きを使ってみては?」と提案したので、私自身も書いてみました。

色々な機能を使う関係上、410字前後の文字数目安は無視せざるを得ませんでした。使ったエディタの機能は

  • 中央揃え

  • 大見出し

  • 太字強調

  • 取り消し線

  • 引用

  • 右詰め

  • ルビ

です。

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