贈れなかったクリスマス・プレゼントに罪はない
この本は元職場の若いイケメンから買い上げた。もうずいぶんと古い話である。
経緯はこうだ。クリスマスが近いある日、彼から私は相談を受けた。
彼女に送るクリスマスプレゼントについてどんなものがいいかアドバイスがほしいと。
私は、最初、あるブランドの手袋がいいだろうと提案した。
手袋ならそれほど値段も高くはないだろうと予測したのである。
だが、それは思ったより高価だった。ブランドを変えようか、いや、あのブランドでなければならない。それは、女心をときめかせるのに充分な響きをもっていたから。
いろいろ考えた末に、このKIRAZの画集に落ち着いた。
確か、イケメンが今はなき渋谷パルコのブックセンターで買ったのだった。
だが、結局、クリスマスを待たずにして、二人は別れた。付き合ってみたものの、どうも、しっくりいかないというのが彼女の本音のようだった。
その後、彼女は新しい相手の男性を見つけ付き合うようになった。
どんな男だ、私は老婆心ながらイケメンに尋ねた。
「ボクより、もっとマメな男らしいです」と遠くを見つめながら彼は答えた。
捨てようかと思ったのですがと、彼は、用済みのこの本を私にくれるといった。プレゼント包装のままのそれを。
私はそれを定価で買い取った。
KIRAZに罪はない。
「これで美味しいものでも食べますわ」と彼は言ったっけ。
きっと、女性にマメな男は、彼女に贈るクリスマスプレゼントのことなど他の人になど相談しないのだろう。
ブルー・クリスマス、その年のイケメンの思いの百分の一ほどのチクリとした感傷をいまだに憶えている。
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