松本市美術館の企画展『北欧の神秘』感想とよもやま話
長野県の松本市美術館で『北欧の神秘』展を鑑賞してきました
こちらの企画展は6月末まで東京都のSOMPO美術館で開催されていたのですが、嬉しいことに自分の住まいの長野県に巡回してくれたのです
企画展の会場となる松本市美術館は、同市出身の草間彌生さんの作品も多く収蔵され、外観には特色となる水玉のモチーフのデザインが描かれ、入り口近くにもオブジェが飾られている、華やかな建物です
今回の企画展は、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド各国の美術館が全面的に協力し開催されたもので、日本では東京都から長野県、今後は静岡県と滋賀県に巡回の予定だそうです
北欧のものって、食器であったり家具であったり、音楽や童話、神話などは日本でも大変人気がありますが、美術となるとなかなかイメージがわきにくいと思われます というか自分がそうなんですが
だからこそ絵画で北欧の文化に触れてみたかったので、今回の企画展はとてもありがたいものでした
展示されていた作品は一部を除いて、ほぼ撮影が可能だったのでたくさん写真を撮らせてもらいました
その中からとりわけ気になったり惹かれたりした作品をご紹介させて頂きます
ストックホルム宮殿はバルト海に通じる河川に面した立地で、ノーベル賞の授賞式展なども行われる華やかな場所ですが、こちらの絵画ではそうした雰囲気よりは北欧の深い夜の静けさや、その中に響く雪を踏む馬の蹄音を感じます
雪の轍の跡や月夜の濃い影が長く延びているところに、堅実な生活の中にある美しさが描かれているなあとほのぼのする絵です
写真ではやや分かりにくいのですが、中央を旋回するもやのようなものは数多くの妖精がより合わさった姿で、極めて不吉な気配のする絵画です
絵画の解説には妖精についての具体的な記述は無かったのですが、死者を導いて運ぶとか、死者がこの姿に変じたとか、そうした黄泉の道筋を描いているのでは? とぞくぞくします
同行したひとは、「この絵こわい」と言ってました それが良いのにな
北欧らしいのどかな風景…とも思いつつ、どこか自分の住まいの長野県に通じる風景にも似てる気がしてほっこりした作品です
中信(長野県の真ん中へんの意)の標高高い地域の風景っぽさがありますね
ごく穏やかな河川の様子の絵で、描かれるものに一見したところはっきりとした特色はありません
しかし不審に思って絵を眺めていると、河の流れのぬらぬらとした輝きと波紋の波打つ様子に異様な写実性があってたまらなく惹かれてしまいました
様々な意匠がたっぷりと描き込まれた作品ですが、心なしかとっても官能的な印象を受けました
美しさと毒々しさのさじ加減が絶妙だからでしょうか
こちらにも白樺の木が登場していますが、まったく違う印象です
毒を持つ花の名のタイトルにもドキドキします
ノルウェーと言えば、『叫び』などの作品で知られるムンクさんの故郷であり、この作品のニコライ・アストルプ氏もムンクさんとの類似を指摘された画家さんだそうですが、自分はこちらの方が好きですね!
ほんとに、ほぼ雲だけを大胆に描いている…
白夜の空とか、星空でもなく、ただの雲
しかも遠景の茶色い山とか下の河川の感じとか、自分の住まいの町にそっくりで、さっきも似てる絵があったなあ、長野県は北欧なのか(暴論)なんて思いました
習作ってことは、何かを描くための試作というか練習というか、そうした絵なわけで
雲から何を描こうとしたんだろう それとも普通の雲マニアだったんだろうか
かわいい、おやゆび姫との類似の民話でしょうか
でも、生えてるキノコ🍄は毒だし蝶も毒蛾のような柄だし、小さなお姫様はその表情が伺えない、こわい
こういうのが好きです
かわいい~! すきです
もふもふの羽毛のみっしりした質感に、こちらへのしのし歩いてきてくれたワシミミズクの足取りがみえるようですし、瞳の輝きに目が離せません
やはり動物の絵はいいですね
『名誉を得し者オースムン』の連作
ガーラル・ムンテ
ノルウェー国立美術館
オームスンの物語の元になった“バラッド”は、古くからの民話などを歌の形式で伝えている物語のジャンルですが、それこそファンタジー小説やゲームなどに登場する吟遊詩人が歌ってるアレですね
この物語はごくシンプルで、王に請われた若者のオースムンがトロールを退治して姫君を救出して凱旋する、という内容です ほぼドラクエ1ですね
(だからドラクエ1は古式ゆかしいバラッドを新たなメディアで紡ぎ直された物語ということですね)
それにしてもこの絵柄なんですが、色合いといいゼルダの伝説シリーズのことも思い出しました
ゼルダシリーズもまた、現代のバラッドなんですね
こちらは『リティ・シャシュティ』という少女を題材にしたバラッドが元になっており、山の王に誘惑され子を成したシャシュティが人里での記憶を失わせるための薬を飲まされている場面だそうです
ギリシャ神話のペルセポネの冥府降り(ハデスによる略奪)の話にも通じる気がしますが、普通に犯罪です
こちらは刺繍によるタピストリーの写しです
凄く大胆なデザインで、天体(惑星?)の表現と独特なタッチがかっこ良すぎる
平面な絵だけど、鳥の羽ばたきをはっきり感じるのが素晴らしいです やっぱり動物の絵っていいですね
なんとこちらは羊毛のタピスリーだそうです
もこもこでさふさふとしてそうで、そして線画はとっても大胆、そばを飛ぶカラスもいい味だしてます
でもオーディンの愛馬のスレイプニルって6本足(あるいは8本足)じゃなかったっけ?
こちらの絵画は解説によると14世紀のアイスランドに伝わるサガ(叙事詩)を元にした作品で、英雄フリチョフが思いをかける姫を奪った老王を殺すかどうか逡巡している場面だそうです
モノトーンのような重く暗い、しかし精密で美麗な夜の森の風景ですが、自分には老王と駆け落ちしてるフリチョフに見えたのでした だって膝枕してるし
テオドール・キッテルセン
『ソリア・モリア城―アスケラッドの物語』の連作
ノルウェー国立美術館
テオドール・キッテルセンの『トロールのシラミ取りをする姫』という作品は以前から知っていてとても好きで、思い入れのある作品の原画に初めて対面する、という感慨深さがありました
『アスケラッドの物語』というキッテルセン氏の創作の中の挿絵であったとは知らず、その物語の内容も意外なものでした
会場にあった解説によると、黄金の城ソリア・モリア城を目指して旅をする少年アスケラッドは、道中で熊、キツネ、オオカミに出会いながら城へとたどり着き、黄金に輝く鳥に魅せられ、トロールと暮らす姫から怪力の薬と大剣を受け取りトロールを討ち、黄金城の財宝と姫を手に入れる…という物語です
アスケラッドが様々な動物と出会ったり、オームスンと同じようにトロールを討伐して姫と結ばれる話なので、筋書きはシンプルだなあと思ったのですが…
『トロールのシラミ取りをする姫』を以前から見ていた人間からすると
これって姫とトロールの異類婚姻譚じゃないの!?
トロールは普通に討伐対象なの!?
ということにめちゃくちゃびっくりして面食らいました
美術展に出かけたらなるべく図録の購入はするようにしていますが、こちらの企画展でも購入させて頂きました
あと、素朴な柄のトートバッグとムーミンに登場するキャラクターのモランのブックマーカーも買いました
それにしても、こんな可愛い絵でも再現されてる『トロールのシラミ取りをする姫』がトロール退治の前フリの絵画だったとは、驚くというかショックでした
姫様は城に現れたアスケラッドに
「キリスト教徒がこんなところまで来るなんて! トロールが起きたらあなたは食べられてしまうわ
この薬を飲めば部屋のすみに置かれている大剣でも扱えるようになります それでトロールの首を落としなさい」
と、助言をするのですが…英雄に神秘の力と剣をさずける姫様、という図式は定番です
正当なおとぎ話ってこうですよね
でも自分は、トロールと姫様こそが結ばれて仲良く暮らしている絵だとばかり思ってたのですよ…
だいたい、トロールは何か悪いことしてたんでしょうか? 姫様にシラミ取ってもらって暮らしてただけでは? 大人しく姫様に頭を差し出していたトロール、とってもかわいい、いい子じゃないですか
実はこの話、裏があったりしないかなあ…と美術館を出てからぐるぐると考えてしまって
このアスケラッドの物語は、英雄による怪物退治に一見見えるけど、実はノルウェーに過去にあったキリスト教の流入による土着文化の衰退への対抗運動の物語なのではないか?
侵略者たるキリスト教徒(アスケラッド)に薬を飲ませて呪いをかけ、トロールの首を落とさせる事でその魂と肉体を奪った…というのが真相では?
アスケラッドの物語の最後の場面の、アスケラッドと姫様の婚礼は、実は人間の姿に転生して流入するキリスト教徒を取り込んだトロールと土着の信仰を守った姫様の婚礼だったのではないだろうか…!!
と、いう話を美術館を出た後の喫茶店で同行していた母に話したら「もっと普通に鑑賞しなさい」とたしなめられました 駄目かなあ
なお、この企画展では写真撮影がほぼ許可されていたため、展示作品写真だけをまとめた記事も作りました
よろしければご覧ください
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