夢の中で。

水族館。
何も考えてないふりをするクラゲたち。
一匹の魚に恨みがあるのか、素早く追いかけ回す亀。
近づいたら餌が貰えると勘違いして口をパクパクあける金魚。
衣食住の全てが監視状態のペンギンたち。
黒い絨毯が靡くように泳ぐ大きなエイ。

はじの水槽にいる見向きもされない、名前も知らない魚。
「綺麗だね。透明だ。」
君はその魚に唯一足を止めていた。
「ね。ここ、人、来ないからずっと見てられる。」
私はその魚を見る君の横顔に惹きつけられてしまっていた。
周りのザワザワとうるさい音が遠くなってく。
私たち2人だけの、切り離された空間。
嬉しい。
君の隣にいるってことをこんなにも実感できてる。
鼓動が速くなる。
速くなりすぎて止まりそう。
本当に好き。
本当に大好きだよ。

「ねぇ。なんで私と一緒にいるの?」

分かってた。
これは全部夢だって。
君は先月結婚した。
君の、人を包み込むような優しい笑顔と花が咲くように暖かな笑顔の結婚相手。
それと、一言。
結婚しました。
インスタに載せてるその写真は私に取り憑いていた呪いを一瞬で祓った。
好きっていう呪いが、何年も取り憑いていたこの呪いが。

覚めて欲しくなかった。
これが一生続くなら、全てがフィクションでも、夢の中ででもいいから、君をもう一度見たかった。
もう一度会いたかった。
夢なんかもう見せないで。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?