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小出さんの思い出 1

まだ新潟住みであった頃の話。
3月11日の夜であった。新潟に帰省していたブルースギタリストの小出さんにお会いした。
東京へ帰る前、駅前のファミレスで四方山話。時間も時間なのでメシを食いながらということで、「オムライス」を注文した。愛想が良く、非常に好感の持てる学生アルバイトともお見受けした店員さんが「かしこまりました!少々お待ちください!」と注文を受けて行った。小出さんはドリンクバーへ。俺1人席についてると先ほどの店員さんが慌てて来て、「申し訳ありません!本日オムライス切らしておりまして…」とあまりにも申し訳なさげ、今にも泣きそうな顔で言うものだから、「大丈夫ですよ。決まったらまた呼びますので」と。小出さんが席に戻り事情を話し再度メニューを決め店員さんを呼ぶ。注文確認で繰り返すのも噛み噛みながら、一生懸命さが伝わり、小出さんとも「ああいう娘は悪い男になんかに引っかからないで、幸せになってもらいたい」などと話していた。

食事も終わりコーヒーも飲み終える頃、「お冷のおかわりはいかがですか?」とまたあの店員がやって来た。しかし、その言葉は俺と対面して、俺に向けられており、俺が「お願いします」と言って完結してしまったところ、
「僕には聞いてくれないの?」
と小出さん。店員さんも交え、ちょいとした笑いの瞬間。プチっと嫉妬、拗ねた物言いが可愛らしい還暦越えの小出さんでありました。

そんな小出さんと震災の日ということで、話は必然的に震災にまつわる話に。

震災直後にシンディ・ローパーの日本公演が予定されていた。折しも、ブルースのカヴァーアルバムが出た直後のプロモートも兼ねた日本公演だったそうだ。このアルバムの日本盤ライナーを執筆したのが小出さんだったそうで、小出さんも招待を受けていたので行く予定であったそうだ。

未曾有の震災が起こり、中止も選択肢に検討されたが予定通りに決行。小出さんも聴きに。

その中で印象的な1曲として挙げたのが「Just Your Fool」。シンディが取り上げてから、女性シンガーがシンディの歌い回しなどを模した感じでこぞって取り上げたことが印象に残る一因とのことであった。そんな話を聞き、俺が
「そうやって取り上げた人達の多くってリトル・ウォルターを知らずして、シンディが元になってるわけですよね?」
と。
俺は「リトル・ウォルターを知らずして…」というのは、「原曲を知らずして…」の意味で小出さんに問いかけたのだが、その意を汲んで「シンディが元になってる」部分は肯定しつつも、
「実はあれリトル・ウォルターがオリジナルじゃないんだよ」
と。
小出さん曰く、53年にバディ・ジョンソンというジャンプ系のミュージシャンが書いたもので、彼の楽団でエラ・ジョンソンという女性シンガーが歌ったのがオリジナルとのこと。リトル・ウォルターはそれをモチーフに60年に録音したものだと。

リトル・ウォルターの例に限らず、バディ・ジョンソンの他の曲を名うてのブルースミュージシャンがカヴァーしている例は結構あるらしく、当時、バディ・ジョンソンはブルースとジャズの中間的な小洒落た感じの、ある意味先駆的な曲を書いていたので、それらをブルースミュージシャンが取り上げるといった一つのトレンドがあったのではとのこと。

さっき、「僕には聞いてくれないの」と
拗ねてみせた小出さんの本来のお姿に接し、恐れ入ったのだが、
「まぁこれで娘の背がちょっと伸びてるからね」
と、やはり茶目っ気のある小出さんであった。

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