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Episode.1 5月の入学式

 5月21日。とうとう待ちに待った入学式。だが、入学前に校舎に入ったため嬉しさが半減した。学校側は『分散登校』を出して、午前と午後に偶数、奇数に分けて登校させることにしたらしい。私は奇数番号で午前に登校することが多かった。
 5月25日。実力テストの数学、英語が終わった。なぜ、実力テストの日を挟んでクラス会をするのだろうか。II組は視聴覚室集合だった。私たち1年生の教室があるのは、4階である。
 管理棟4階、視聴覚室。私が入室すると、すでに何人かの生徒がいた。中には、奥には映画館にでもありそうな巨大なスクリーンがあり、3列の机と椅子があり最大で5人は座れそうだった。中央の列の最後尾に座席表があった。私が指定席に向かっていると、
「ねぇねぇ、あの知ってる?」
「え? なんか噂があるの?」
「祭りの日に漏らして、不登校になった娘」
「えーマジ!」
私と同じ中学校出身者だろうか。私に聞こえる声量で黒歴史を掘り返してくる。私の目から涙が溢れ落ちそうになった。その時
ーードン!
机を強く叩きつける音が聞こえた。それと同時に立ち上がったのは、見るからに暗い男子生徒。髪が長くて、手が小さい。そして栄養失調とも言えるぐらい痩せている体型だった。
「てめぇら……」
男子生徒は初対面のクラスメイトに『てめぇら』と呼ぶ。
「何?」
私の黒歴史を掘り返した女子生徒の1人が男子生徒に目を向ける。
「今、陰口言っていただろう……」
男子生徒は腰にラノベサイズの本を抱えていた。
「だから何?」
女子生徒が問いかける。
「やめろよ……聞いてて胸糞悪いんだよ」
男子生徒は猫並みの聴力をお持ちのようだ。
「別に、あなたに関係ないでしょう?」
女子生徒は部外者だと男子生徒に言う。すると、男子生徒は顔を上げる。男子生徒は二重瞼でまつ毛が長い。
「じゃあ、逆にさ俺が君の陰口言っていたらどう思う?」
と。笑顔で問いかける。私は分かる。その男子生徒は笑っているのではない。激怒している。目が笑っていないから。
「それは、嫌だし聞いている方も嫌な気持ちになる」
女子生徒は嫌だと言った。
「そうだよな? 君たちはさ、今まさにその嫌な気持ちを俺にさせたし、あの娘を泣かした! 気持ちを理解したなら、陰口とか悪口を今後わ二度と口にするな!」
男子生徒はそう言い、指定席に腰を下ろし、ラノベらしき本を開いた。
《ににゃが、泣いていることがなぜ分かったの?》
私は、男嫌いだがお礼がしたくてその男子生徒の席の前に立ち
「あ……ありがとうございます」
と。言ったが
「……」
その男子生徒は私に目を向けず、猫並みの聴力すら無くなったように無視した。
《これだから、男は嫌いなの!》
私は男嫌いは生理的に無理なところまで達した。その男子生徒は他者紹介で源侑久みなもとゆきひさと知った。

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