ジィジと呼ばれて

今のような状況になる前、パック旅行に行ってきた時のこと。

見知らぬ人たちと一緒の団体旅行は、煩わしい反面あちこち連れて行ってもらえるところが便利でもあった。

旅行の中盤、1日観光した後いったんホテルへ戻ってそこからマイクロバスに数人ずつ分かれて乗り夕食の店へと連れて行ってもらうことになった。

私の乗ったバスには2〜3歳位の小さな女の子がいた。

その子は運転手さんを見て「じいじ!」と言った。

お母さんが慌てて「違うでしょ。やめなさい」と言ったが、女の子はまるで意地になったかのように「じいじ!じいじ!」と何度も連呼した。

お母さんは女の子に対しては「やめなさい」と言い、運転手さんに対しては「すみません」と言って2人の間を交互に何度も言っていた。しかし、それでも女の子は「じいじ!」と言うのを止めなかった。

困りはてたお母さんは「すみません、この子いつも一緒にいるおじいさんがいないから寂しいみたいで…」と言い訳するみたいに言った。

運転手さんは、「いえいえ大丈夫ですよ。だって本当におじいさんですから」と言った。

その後も女の子の「ジィジ!」コールは続き…お母さんが「本当にすみません」ともう何度目かわからない位謝ると、運転手さんは「いやいいんですよ。私本当にもうすぐおじいさんになるんです」と言った。

その瞬間、それまで静かだった車内がざわりとどよめいた。私も声こそ出さなかったが内心ひどくびっくりしていた。その運転手さんは私の目から見たら30代だったからだ。

「えっ、ほんとにおじいさんになるんですか?」とお母さんは言った。

「はい、本当にもうすぐ生まれるんです」と運転手さんは言った。

「運転手さんいったいおいくつなんですか?」とお母さん。

「42歳です」と運転手さん。

再びざわめく車内。

それからは質問タイムが繰り広げられた事は言うまでもない。

長い話を短くまとめて書くと、運転手さんは高校卒業後海外の学校に進学したのだが、行くなり勉強そっちのけで遊んだあげく子供ができてそのまま学校を辞めて子供とお嫁さんを連れて帰国したそうである。(18歳で子供!と声が上がった)それから紆余曲折あって自分で会社を立ち上げて今に至るそうである。今日はたまたま家族のSOSで特別にバスの運転をしているそうであった。

こんなこと話すの初めてです、と運転手さんはしきりにテレていたが、車内は笑いに包まれとてもほんわかと楽しいムードになったのであった。




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