セドナストーン狂想曲


我ながら黒歴史だなと今でも恥ずかしく思うのと同時に、あれは何だったのだろうと釈然としないままの出来事がある。

セドナストーン

現在でも尚高い人気を誇るいわゆる"パワーストーン"の1つである。

2010年頃だろうか?そのセドナストーンを個人で売り捌いている人がいた。ブログで販売予定を予告し、発売日になるとその日だけ開く商品ページが現れる、という仕組みになっていた。

その人は、学生時代に留学したアメリカで、ネイティブアメリカンのお爺さんと出会い交流を深めたとのことで、そのお爺さんが採石して特別な儀式を施したあとのセドナストーンを販売しているという触れ込みだった。

今もそうなのかは分からないが、この頃は不思議現象、幸運パワー、ミラクル体験、など、一昔前の雑誌の後ろの"幸運のペンダント"みたいな魔法の力を秘めたパワーストーンがやたらと人気があって、そうしたものは売り出されるや即完売という状況だった。

私はこの当時非常に苦難に満ちた日々を送っていた。自分が招いたものならまだ打開策もあっただろうが、他人のとばっちりを受けてのことだったので、自分の努力だけではなかなか解決は出来ず絶望した気持ちでやっとのことで息をしていた。だから、こうしたものにすがりたいという弱い心があったのだろう。ブログを熱心に読み(恥)、そこに書かれる驚きの不思議現象の数々を実話と信じて疑わず(恥×2)、この石を手に入れたら今の苦しみから抜け出せるのではないかと本気で思った(恥×3)

しかし、この人が売るセドナストーンは販売されるや秒で完売し全く買えそうになかった。

発売日を心待ちにし、いざ販売が開始されると目の前で選ぶ暇もなく売り切れる、そんなことを繰り返していた時、その人(以降Mさんとお呼びする)が、ずっと買えないでいる人達のために絵葉書をプレゼントしてくれることになった。(ご丁寧に、この葉書からもセドナのパワーがもらえるという触れ込みだった)

応募者全員にもれなくプレゼント、ということだったので、私はMさんに"家にある切手を少しばかり寄付したい"と申し出た。タダより高いものはない、と思っていたので、せめて送料プラスアルファ程度は負担しようと思ったのだ。それに対してMさんからは"お気持ちだけいただきます"というようなお返事が来た。そのお返事を読んで実は小さな違和感を覚えた。

Mさんのブログは石の販売日程も載るが、実はほとんどはネイティブ・アメリカンのお爺さんからのメッセージやセドナストーンにまつわる不思議な話だった。そこに綴られる文章と、切手固辞の文章にはかなりの文体の違いがあり、落差があった。同じ人が書いたとは思えなくて、なんだろうこの小さな違和感は…とは思ったが、その時はあまり気にしなかった。そして無料で絵葉書を貰ってしまった。

しばらく経つと、Mさんのアンチ派が現れ、様々な事を言ってくるようになった。

例えば

セドナストーンは採掘が禁止されているはずである、なのになぜ堂々と販売しているのか?

というような。

これに対してMさんは、お爺さんはネイティブ・アメリカンのため一般人が立ち入りを禁止されている所へも行くことが出来るし、採掘も許されている。何より、大地と会話して採石をして良い物だけいただいて正式な儀式を行なっている。そして、売り上げは全てセドナの自然保護のために寄付をしており、お爺さんも自分もお金を懐には入れていない、と反論した。

(ちなみに、いつどこへいくら寄付したのか、という報告は一度も掲載されなかった)

また、Mさんがお爺さんの写真をブログで紹介された時も、すぐに"無料画像サイトに載ってた写真ですよね"(これは事実だった)とか、"その服はお爺さんの部族のものでなく●●族のものですが何故ですか?"(これも事実だった)などの指摘が寄せられた。Mさんはそれについては何も語らず写真は削除された。

そんなこんなで一年が過ぎる頃だろうか、セドナストーンが売り出され、私も試しに買ってみたら、いつもは買えないのにスルスルと買えてしまった。私だけではない。あまりにも人気があって秒で売れてしまうので、"どれどれ、買えるかどうかいっちょやってみよう"という好奇心で参戦してまぐれで買えてしまう人が結構いたのである。そういうブログをいくつも見かけた。

購入した石はレポート用紙にぎっしり一枚分書かれたメッセージと共に届いた。その内容は私にはかなり響くものがあった。

しかし、ここでものすごい重大な事があった。

絵葉書プレゼントを申し込んだ時、応募者の住所や名前は発送後に削除します、ということだった。私は引っ越しをしたので葉書を申し込んだ時の住所と石を購入した時の住所は違っていた。にも関わらず、石は古い住所宛てになっていたのである。つまり、Mさんは絵葉書プレゼントで集めた住所を削除するどころか名簿にしてパソコンに保管していたようなのだ。そして、Mさんの住所も絵葉書プレゼントの時と石購入の時とで違っていたのである。これは一体どういう事だろう?私が切手寄付の申し出をして断られたのは、その住所では届かないからではなかったのかと疑いたくなる。

実は恥ずかしい話だが、その後もう一度セドナストーンを購入したのである。あれだけ疑惑満載なのに何故?と思われるだろうが、石英入りの物が欲しいという気持ちがあり、この当時は他に扱っているお店もなかったためMさんの所から購入したのだった。

2回目に購入した石もやはり古い住所宛に送ってきた。しかも、この時はMさんの住所は記載されていなかったのである。何かトラブルがあったり返品などは全て宅配業者を通じてすることになっていた。

2つ目の石を購入してから間もなく、次第にMさんは詐欺ではないかという声が大きくなっていった。これまでにMさんがブログにあげた写真はどれも無料画像からの借り物であることも調べ上げられていた。Mさんはもうどんな声にも反応しないしいちいち弁明もしないということを宣言してだんまりを決め込んでいた。正直なところ、私も変だなと思う点はいくつもあった。留学時代の話などから逆算するとどう若く見積もってもMさんは40代と思われるのだが、そのMさんの学生時代のお友達がどう見ても20代(その写真も無料サイトの拝借ということが判明したのだが)、お爺さんも逆算すれば80代になっているはずなのになぜか永遠の60代(笑)、など、その時その時で都合の良いように年齢などが変わる(もちろん身バレを防ぐためにそうしている可能性も否定出来ないのだが)、そして驚いた事には自分の扱うセドナストーンの特性を知らず、浄化には水洗いを推奨していたりもした。セドナストーンは"ストーン"と付いているが厳密には石ではなく砂粒が固まったものである。水洗いなんてしたらバラバラに崩れてしまう。ささいなことだがそうしたことは小さな違和感となってしこりのように残っていくのだ。

Mさんのブログは2018年に唐突に終わっている。特に終わりという宣言もなく、これからも続くようないつもと同じ書き方のまま、ふっと更新が途絶えている。

これはあくまで私の推測でしかないけど、Mさんは最初に決めた金額を稼いだのではないかと思う。多分、億。そしてサッと身を引いたのではないだろうか。もし全てが詐欺だったとしたら、やり方がとても巧妙なので、引き際も実にうまい。

最近気になって少しネット検索をしてみたところ、私と全く同じ体験をされ、Mさんに疑問をぶつけてみた方もいらっしゃったことが分かった。

本当に今となってはあれは一体何だったのだろう?と思う。

もしも詐欺だったとしたら、Mさんがブログで綴っていた膨大な記事の内容はどこからやってきたのだろうか?かなりしっかりした文章で(だからこそ個人的なメールの文体があまりに稚拙でその落差に驚いたのだけど)、内容もスピ好きな人の心をくすぐるような自己啓発的な話が満載である。本当にネイティブアメリカンの長老が言いそうな事も沢山載っている。石について来た説明もなかなか読ませるものがあった。それでも、住所の検索といい、写真の捏造といい、腑に落ちない点は多々ある。肝心の石も本物のセドナストーンかは定かではなく、また、本物だったとしても販売価格は相場よりゼロが1つ多い。

月に2回販売、一度に約30個、お値段3万前後、それを約8年。(一回で大体100万の売り上げという感じかなと思う)

当たり前と言えば当たり前だが、

私が買った2つのセドナストーンは全くなにも不思議現象など起こさず、ミラクルなことも身に起きず、ただの砂の塊として部屋の隅に転がっていただけだった。実感としては"ああ、騙されてしまった"という感じだ。購入した方々のブログも探して読んでみたが、やはり途中から何か変だと思うようになり、騙されたと感じる人は多いようだった。

でも、結局は真相は藪の中である。


追記

この話を書きながら一つ思い出したことがある。

2014年頃だったか正確な年を思い出せないのだが、偶然とあるブログ記事を目にした。

「セドナストーン売ります」というタイトルがついていた。

そのブログを読んでみると、Mさんから購入した漬物石みたいに大きなセドナストーンを手放したいので購入希望者を募ります、というようなことが書いてあった。この頃にはMさんの扱うセドナストーンは本物かどうか疑わしく、ただの石ころではないか?との声が非常に大きくなっていた。

以下そのブログ主さんのお話など、どうでも良いことを記録として書いておきます。不思議な話は出てきませんが、後日談の一つとして興味のある方のみお付き合いいただけたらと思います。

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