ローグライクハーフリプレイ『黄昏の騎士』その3


AIイラストくんで作成

このリプレイは、FT書房から出版されている1人用TRPG『ローグライクハーフ』の基本ルールの1stシナリオ『黄昏の騎士』のリプレイです。


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「ローグライクハーフ」を遊ぶにあたって(ライセンス表記その他)
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 「ローグライクハーフ」はルールを確認した後に遊ぶゲームです。新ジャンルではありますが、区分するなら「1人用TRPG」にもっとも近いといえます。ルールは下記アドレスで確認することができます(無料)。

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https://ftbooks.xyz/ftnews/article/RLH-100.jpg

https://ftbooks.xyz/ftnews/gamebook/RogueLikeHalf_BasicRuleSet.txt

 PDF版は下記アドレスで入手可能です(要BOOTH会員登録)。

https://ftbooks.booth.pm/items/4671946

 また、紙の書籍でのルールを入手したい場合には、こちらから購入が可能です。紙の書籍には1stシナリオ『黄昏の騎士』が収録されています。

https://ftbooks.booth.pm/items/4671945

キャラクター

主人公 怪力ゴディ ヒューマン
技量点1  生命点8  筋力点6  従者点7→8
装備品 打撃両手武器(モール) 板金鎧
食料2つ 金貨14枚

成り上がる為に冒険者をしている巨軀の若者。

従者
剣士アンドレ 技量点1 生命点1 斬撃片手武器(ノーマルソード)
故郷に病気の妹がいるらしい。前回の冒険でゴートマンに倒される。

兵士バット 技量点0 生命点1 斬撃片手武器(ノーマルソード)
ゴディの友人。無実の罪で牢獄にいたことがある。

兵士カッシ 技量点0 生命点1 斬撃片手武器(シミター)
同じくゴディの友人。無実の罪で牢獄にいたことがある。

兵士ドラス 技量点0 生命点1 打撃片手武器(モーニングスター)
同じくゴディの友人。無実の罪で牢獄にいたことがある。

兵士エルダ 技量点0 生命点1 打撃片手武器(メイス)
同じくゴディの友人。しっかり者。

ランタン持ちフェズ 
同じくゴディの友人。子供の頃の冒険者ごっこからのランタン持ち。

荷物持ちゴーザ 
同じく……。お婆さんがまじない師だったらしい。
荷物:治療のポーション、換石の杖

弓兵ハッピー 今回から冒険に参加する弓兵。

剣士イアン 今回から冒険に参加する剣士。


6.聖フランチェスコ

ゴディたちはハイホロウ村を一旦離れ、新たな従者を探しに聖フランチェスコ市に戻ってきた。

酒場で新たな従者となる者がいないか声をかけて回る。

ゴディは人懐っこい顔で酒場にいる者に従者の話をしていく。その笑顔は人を引き付ける。
笑顔の魅力がさらに増しているように見えた。様々な経験をしたことによるものだろう。

「アンドレの時もああだったよな」

バットが懐かしむようにカッシとドラスに話す。

「俺等はゴディとは幼馴染だからな。でも、あんまり覚えちゃいないが、俺等とゴディの最初の出会いってどんなだった?」

「あら、忘れたの?アタシは覚えてるわ」
 
「へえ、エルダは覚えてるんだ?」

「忘れるもんですか!あれは最悪な出会いだった」  

そんな話をしていると、ゴディは新たな仲間を連れてテーブルにやってきた。

「弓兵のハッピーで〜す!よろしくぅ!」

「イアンだ……剣士をしている……」

陰と陽の対局にあるようなふたりだった。

「7人から8人になりましたね」

荷物持ちのゴーザが人数を数えた。

「ああ。声を掛けたら付いていきたいって言われてね」

前回の冒険で得たのはお金だけではなかった。ゴディの人を従える魅力が増していた。

お金と言えば、金貨では11枚、他に宝石を換金したもので金貨41枚になっていた。

換石の杖はあまり使いようがないから売ってしまった方が良い、というゴーザの意見を取り入れ、魔法屋に売ったところ、金貨60枚になった。

101枚の金貨から弓兵ハッピーと剣士イアンにお金を支払い、残りからゴディの両手武器モールを魔法のものに変え、残りは金貨14枚となった。

新たな仲間を連れ、ひと時の安らぎを街で過ごしたゴディたちは、アンデッドと化した黄昏の騎士を倒すべく、ハイホロウ村近くの森の地下迷宮へと再び向かった。

7.2回目の迷宮探索

「あれ?通路が……」

ランタン持ちのフェズがランタンを照らしながら首を傾げた。

ゴディもその違和感に気が付いた。

数日前の迷宮と様子が変わっている。

真っ直ぐだった通路が行き止まりになっていて、新たに右に道ができている。

前回と同じ迷宮のはずだが、どうやら迷宮は変化するようだ。

「みんな気をつけろ。前回と同じ場所にはいかないようだ」

ゴディは手に持つ魔法のモールに力を込めた。

前回よりも長い通路を進み、ドアに行き当たった。慎重にドアを開けると、中には彫像が置いてあった。

「これは、どんな意味があるのかしらね」  

その像は、たしかに人間を模してはいたが、斬新すぎる姿勢を形どったものだった。

「これはサイコーにサイキデリック!」

弓兵のハッピーがその姿勢を真似して叫んだ。

「うるさい!なんかよくわからない像ね」

「オイラは気に入った」

「嘘!?本気で言ってる?」

ゴディは何度も頷き、顔を紅潮させて興奮を隠せない様子だ。

持って行く、持って行かないの一悶着があり、結局ゴディはその彫像を持って行くことにした。

「そんなもの持ちながら戦えないじゃい!」

エルダは最後まで持って行くのは反対だった。

かなりの重さと大きさがあり、2人の人間を運ぶのと変わりがなかったが、ゴディの体格からは軽々と運んでいるように見える。しかし、戦闘時にその彫像があることは邪魔でしかない。

そこまでして持って帰りたくなるほど、ゴディはこの彫像に魅了されていた。

そこから程なくして、ドアのない広間に出た。そこには、宝箱がひとつ置かれてある。

「開くのかな?」

ゴディは無警戒にその宝箱を開けようとした。

「危険ですよ!」

荷物持ちのゴーザが窘めるが、ゴディは気にも止めない。

カチリと嫌な音がするが、ゴディは器用に宝箱を開けた。

中に入っていたのは、古代の金貨1枚だ。

「ゴーザ、これは価値がある?」

「……古い時代のではありますが、金貨1枚の価値ですよ」

どんな年代のものであっても、金貨1枚は金貨1枚の価値なのだ。

「そうか」

ゴディは少し残念そうに金貨を腰の袋にしまうと、部屋を出た。

また長い通路を進む。
ランタンが無ければ暗い迷宮の中を歩くのかと思うと、ゴディはランタン持ちのフェズの小さな背中が頼もしく見えた。

気を取られていたゴディは、通路に仕掛けられた罠に気付くのが一瞬遅かった。

「危なっ!」

それでも野生の勘とも言うべき反応の良さでゴディは足元に張られた糸を避けた。

糸はゴディの肩のあたりにある壺と繋がっていた。

ゴディは罠を避けると、その壺の中身を見た。
油が入っていた。

もし罠に掛かっていたら、身体が油まみれになっていたところだった。

ランタン持ちのフェズが罠に掛かっていたら、頭から油まみれになり、しかも手に持つランタンから火が移り、大火傷では済まなかっただろう。

ゴディはフェズの頭を軽く撫でると、「ごめん、今度からは気をつけるよ」と笑った。

通路は以前見たことがある部屋の前に繋がっていた。

あの、“真夜中の盗賊”を名乗る者たちがいた部屋だ。

部屋に入ると、待ち構えていた6人の盗賊たちが、ゴディの新しく買った魔法のモールを奪おうと群がった。

「やめろ!」

ゴディも抵抗したが、多勢に無勢で魔法のモールは盗賊に奪われてしまった。

「俺たちは真夜中の盗賊だ!」

前回よりは迫力を増した盗賊達が腰に下げたノーマルソードを抜く。

「くそっ!」

ゴディは重い彫像を置くと、魔法のモール無しに戦う姿勢を取った。

盗賊は俊敏な動きで弓兵ハッピーの矢を躱し、陰気な剣士のノーマルソードを受け流した。

戦いに慣れてきた兵士バットとカッシが3人の盗賊の命を奪い、盗賊は3人になった。

半数になったが、盗賊達は士気が落ちない。死ぬまで戦う気だ。

ゴディの徒手空拳では身のこなしが素早い盗賊にダメージを与えることが出来ず、また盗賊達はゴディの板金鎧でダメージを与えることができないという攻防が続き、ようやく陰気な剣士イアンの2連撃とエルダのメイスが盗賊達の息の根を止めた。

戦いを終え、ゴディは魔法のモールを奪い返すと安堵のため息を付いた。

真夜中の盗賊達の中には、ハイホロウ村で見かけた者もいて、前回エルダが指摘した「ハイホロウ村の者が盗賊になっている」というのは当たっているように思えた。

ゴディはやりきれない気持ちを抱えながら盗賊の腰袋を探り、金貨3枚を手に入れた。

やりきれない気持ちばかりが増え、実入りは少ない戦闘になった。

つぎの部屋はうねうねと曲がりくねった通路の先にあった。以前の迷宮の様子と違うせいもあり、ゴディは自分が迷宮のどの場所にいるのかわからなくなっていた。

通路がいつの間にか広間になっていることすら気が付かず、その罠に気づいた時にはすでに遅かった。

入口がガコンと音を立てて何かの装置がして岩盤がせり出してくる。それと同時に、シューという何かが吹き出す音が聞こえて来た。

「毒だ!」

最初に叫んだゴーザがまともにその毒煙を吸い込み、昏倒する。ゴディもその毒を吸い込んで激しく咳き込みながら、「早く、出るんだ!」と後ろも振り向かずにゴディは走った。

「あんた達!早く!」

向こう側の通路に繋がっている部屋の出口が丸い岩盤で塞がれようとしている。その岩盤が閉まらないようにエルダが体で食い止めていた。

ゴディが先に通路に出て、彫像で岩盤を抑えたが、彫像はみるみる変形していく。ゴディもエルダと一緒に岩盤を抑えた。

兵士バット、カッシ、剣士イアン、弓兵ハッピーがその隙に通路に出た。しかし、兵士ドラスが部屋の中で倒れた。

「フェズ!あんたがいないと明かりが無くなる!」

ランタン持ちのフェズが倒れそうになるのをエルダが助けに行くが、「ゴディ、ごめん……」と言い残してフェズが倒れた。

「エルダ!早く!」

しかし、エルダも部屋を出る体力が残ってはいなかった。

座り込み、泣いているのか笑っているのがわからない顔をしながら、「ここでお別れだよ、ゴディ」と言う。

「馬鹿な!早く!」

彫像が嫌な音を立てながら変形していく。

「像をどけな!持って帰るんだろ、それを」

ゴディは首を振る。

「持っていかない!こんなものいらない!エルダ!早く!」

エルダは血を吐きながら笑った。

「このまんまじゃみんな死ぬよ。騎士を倒すんだろ?それはゴディにしかできないことだ。早く行きな」

彫像が変形して通路に押し出される。ゴディはそれでも岩盤を身体で止めていた。

「エルダ!」

「騎士を倒すんだろ!それに、あんたとは最悪な出会いだったんだから、こんな最悪な別れもいいさ」

エルダが崩れた。

「エルダ!」

ゴディの力も及ばず、岩盤は閉まり、二度と開かなかった。

迷宮での仲間との別れはいつだって突然だ。故郷から一緒に来た幼馴染を4人も失った。

兵士ドラス、エルダ、ランタン持ちフェズ、荷物持ちゴーザ。

ゴディは岩盤に頭を打ち付け、拳を叩きつけた。

「うぉぉぉ!」

子どもの頃から人前では泣くなと教えられてきたゴディが、初めて人前で泣いた。


8.悲しみを越えて

ゴディは黙ったままだ。変形して余計に謎になった彫像を背負い、明かりの無い迷宮に目を凝らしてゆっくり歩を進める。

ランタン持ちが居なくなったのは迷宮探索では命取りになる。

ゆっくりゆっくりと迷宮の壁に手を添わせ、暗い中を歩を進める。

ポッと通路の先に明かりが見えた。ほんの小さな火種を思わせる火だ。

そして、何かが近づいてきた。
目を凝らす。手に火種を灯したゴブリンが目を見開きながら、「おうさま、バンザーイ!!」と叫びながらこちらに走ってくるのが見える。

「何かを持っているぞ!……爆弾だ!」

兵士バットが、走ってくるゴブリンの手に爆弾が抱えられているのに気がついた。
ゴブリンは様々なものを作る。その中には、火薬も含まれていた。
導火線に火が付いた、火薬を筒に詰めた爆弾を手にして、ゴブリンが通路を走ってくる。

「なんてクレイジーなやつ!」

弓兵ハッピーが素早い動きで矢をつがえ、弓を構えた。

「3……2……1!」

狙いをつけた弓兵ハッピーの放った矢はゴブリンの眉間に刺さり、一撃で命を奪った。

爆発音が迷宮に響き渡る。しかし、クリーチャーのいる部屋とは距離があると思われる今いる通路での爆発は、他のクリーチャーに聞こえている様子はない。

「いや〜危なかったッすね〜」

ハッピーは普段の飄々とした表情に戻った。これが弓兵としてのハッピーの実力だ。

「ありがとう……」

言葉少なにゴディは弓兵ハッピーに感謝をした。まだ幼馴染との別れが尾を引いている。

「なんだ〜ゴディの旦那暗いッすねー。暗いのは迷宮だけでいいッすよ」

ハッピーの冗談が暗闇に響いた。誰も笑わなかったが、場の雰囲気は少し和らいだ気がした。

長い通路を進んでいくと、明かりが見えてきた。松明が壁に掛けられている部屋が見える。
見覚えがある部屋の様子で、ここが迷宮最奥だとわかった。

ゴディは一旦歩を止め、仲間の顔をひとりひとり見る。

兵士バット、カッシ、弓兵ハッピー、剣士イアン。今朝迷宮に入った時は8人だった仲間が今は4人。
この仲間は絶対に死なせないとゴディは心に決めた。

「行こう」

ゴディの声に皆頷いた。

松明で照らされた部屋に入ると、顔が崩れた黄昏の騎士が前回と同じように待っていた。

弓兵のハッピーが矢をつがえ、黄昏の騎士に狙いを定めると、その動きが止まった。

ハッピーの頭に「お前は支配者になりたくはないか?」という思念が響く。

「お前は支配者になりたくはないか?お前は虐げられてきただろう。俺についてくればそんな人生は終わりだ」

ハッピーは呆けたように口を開けてその“声”を聞いている。

「さあ。俺にすべてを捧げろ。俺に付いてこい。虐げられる人生から、支配者に……」

「ノーだね」

ハッピーはしっかりした言葉を返した。
アンデッドと化した黄昏の騎士の顔に少しだけ焦りの表情が浮かんだ。

黄昏の騎士の“誘惑”は失敗した。ハッピーは弓に矢をつがえ、騎士に放ったがそれは外れた。

「ゴディの旦那!外したのはわざとじゃないっす」

ハッピーは“誘惑”されていないことを示すためにゴディにあえて叫んだ。

ゴディはハッピーの様子を見て、騎士が何かしら魔術的なものを使ったのだろうと思った。

「地獄から蘇った私の力を見よ!」

黄昏の騎士の剣がゴディに迫り、その動きは鋭く、ゴディは【全力防御】で避けることができず、2度もその攻撃を受けた。

鎧の上からも剣の衝撃が伝わり、体の動きが鈍くなった。骨がいくつか折れたようだ。

「この!!」

ゴディは【全力攻撃】で騎士の固い鎧をモールで打ち付ける。騎士もよろめいた。

仲間も連携した動きで騎士に攻撃を当てるも、アンデッドと化した黄昏の騎士はそう簡単には倒れそうにない。

攻防は続き、ゴディは何度目かの骨に響く攻撃を受け、片膝を付いた。

「クソッ!」

薄れる意識でなんとか腰の袋から〈回復のポーション〉を取り出すと、騎士の一瞬の隙をついてそれを飲み干した。

魔法の水はゴディの体力を回復させた。力が漲り、迷宮に入る前と同じ力が戻った。

「これを喰らいな!」

ハッピーが弓から剣に武器を変え、ゴディと並び剣を振るう。そして、バットもそれに加わった。
カッシ、イアンの攻撃は外れたが、攻撃は黄昏の騎士の腐った身体を確実に斬り刻んでいく。

ゴディは残りの力を振り絞り、【全力攻撃】を仕掛け、ついにアンデッドとなった黄昏の騎士に二度目の“死”を与えた。

「ぐぉぉぉ……」

声にならない声を漏らし、アンデッドは崩れ落ちた。

「……勝った」

ゴディは深いため息を吐いた。

勝利を喜ぶには代償が大きすぎ、ゴディはどんな感情を出して良いかわからないでいた。

「旦那、帰りましょう」

ハッピーの声にゴディは頷くと、部屋にあった笛を戦利品に手に取ると彫像を担いだ。

その4へ続く

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