ローグライクハーフリプレイ『黄昏の騎士』その2
このリプレイは、FT書房から出版されている1人用TRPG『ローグライクハーフ』の基本ルールの1stシナリオ『黄昏の騎士』のリプレイです。
「ローグライクハーフ」を遊ぶにあたって(ライセンス表記その他)
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「ローグライクハーフ」はルールを確認した後に遊ぶゲームです。新ジャンルではありますが、区分するなら「1人用TRPG」にもっとも近いといえます。ルールは下記アドレスで確認することができます(無料)。
ライセンスロゴ
https://ftbooks.xyz/ftnews/article/RLH-100.jpg
https://ftbooks.xyz/ftnews/gamebook/RogueLikeHalf_BasicRuleSet.txt
PDF版は下記アドレスで入手可能です(要BOOTH会員登録)。
https://ftbooks.booth.pm/items/4671946
また、紙の書籍でのルールを入手したい場合には、こちらから購入が可能です。紙の書籍には1stシナリオ『黄昏の騎士』が収録されています。
https://ftbooks.booth.pm/items/4671945
キャラクター
主人公 怪力ゴディ ヒューマン
技量点1 生命点8 筋力点6 従者点7
装備品 打撃両手武器(モール) 板金鎧
食料2つ 金貨3枚+3枚
成り上がる為に冒険者をしている巨軀の若者。
従者
剣士アンドレ 技量点1 生命点1 斬撃片手武器(ノーマルソード)
故郷に病気の妹がいるらしい。
兵士バット 技量点0 生命点1 斬撃片手武器(ノーマルソード)
ゴディの友人。無実の罪で牢獄にいたことがある。
兵士カッシ 技量点0 生命点1 斬撃片手武器(シミター)
同じくゴディの友人。無実の罪で牢獄にいたことがある。
兵士ドラス 技量点0 生命点1 打撃片手武器(モーニングスター)
同じくゴディの友人。無実の罪で牢獄にいたことがある。
兵士エルダ 技量点0 生命点1 打撃片手武器(メイス)
同じくゴディの友人。しっかり者。
ランタン持ちフェズ
同じくゴディの友人。子供の頃の冒険者ごっこからのランタン持ち。
荷物持ちゴーザ
同じく……。お婆さんがまじない師だったらしい。
荷物:治療のポーション
4.さらに迷宮の奥へ
ゴディは黙ったまま真夜中の盗賊たちの腰の袋から金貨を取り出した。
ひとり1枚ずつ。全部で金貨は5枚あった。
「先に進もう」
ゴディはようやく口を開くと、迷宮探索を再開した。
「コイツらの為にも、騎士を倒さなきゃ」
ゴディの呟きは仲間には聞こえていなかった。
暗い迷宮の中を歩く。足音だけが通路に響く。
魔術師セグラスが造ったというこの迷宮に誰も居なくなって何年が経つのだろう。
そして、その誰も居なった迷宮から現れた黄昏の騎士とは何者なのかをゴディは考えていた。
しかし、いくら考えてもわからない。
けして賢いとは言えないゴディの頭には、騎士を倒すということしか浮かばなかった。
通路の先から何か物音がして、仲間の間に緊張が走った。
ジャラ……
鎖を引きずるような音だ。
バットとカッシ、そしてドラスの顔が曇った。聞いたことがある音だった。
3人が無実の罪で牢獄に入っていた時に散々聞いた音。
足枷の鎖を引きずる音だ。
通路の先のドアを慎重に開けると、中には左手には鎖を、右手には鞭を持っている筋肉質の男が歩いている。
湯気のようなものがゆらゆらと身体から出ている。微かに硫黄の臭いもする。
この世のものではない。
「冥界の拷問人……悪魔の一員だ」
アンドレがゴディに耳打ちする。
ゴディは視線を冥界の拷問人から離さずにゆっくりと部屋に入る。
ジャラ……ザリ……ジャラ……
拷問人は部屋に入って来た者たちには目もくれず、鎖で拘束する者を探すように部屋を徘徊していた。
ゴディたちを拘束する気は無さそうだった。
ゴディはしばらく拷問人の動きを見つめて、こちらに気が向いていないことを確認すると、仲間を先に通路に向かわせた。
自分はというと、部屋の片隅に落ちていた杖のようなものを掴むと、仲間のもとに向かった。
「これ何だと思う?」
部屋から出て、通路をしばらく進んでから、ゴディはゴーザにその杖のようなものを見せた。
「……これは換石の杖ですね。広い場所を狭くするんです。魔術師が唱える火球の威力を高めてくれるものですよ」
まじない師の孫だけあり、ゴーザは魔法の品についての知識もあった。
「へえ。よくわかんないや。ゴーザが持ってて」
「わかった」
ゴーザはその換石の杖を背負い袋に括り付けた。
しばらく通路が続き、仲間の緊張感も薄れ始めた頃、部屋のドアが見えてきた。
次はいよいよ騎士がいる部屋かと慎重にドアを開ける。
中には頭が羊の人間型生物がいた。
「ゴートマンだ!」
ゴディは両手のモールを持つ手に力を込めた。故郷でも散々話に聞いてきた悪名高いクリーチャーだ。
《マン・ハンティング》人狩りを楽しむクリーチャーだ。ゴディは問答無用で部屋に飛び込んだ。
6体いるゴートマンはすでにゴディたちを待ち構えていて、飛び込んだゴディより先に動いた。
持ち手から鎖が伸び、その先にトゲ付きの鉄球が付いている凶悪な武器フレイルを振るわれるが、ゴディ以下兵士の4人はなんとか躱す。
しかし、剣士アンドレはその武器に慣れていない様子で注意が逸れた。
「あぶない!」
ゴディがアンドレの前に出るが、鉄球は確実にアンドレの頭、致命傷を与えるに十分な場所に叩きつけられた。
「う」
一言唸ったきり、アンドレは倒れた。頭から流れた血が地面を汚していく。
「よくも!」
ゴディは兵士の仲間と共に2ラウンドでゴートマンを打ち倒し、戦闘後にアンドレを介抱しようとしたが、すでにこと切れていた。
迷宮で死んだ者は迷宮に還る。死体を持ち帰ることは勿論、弔うこともできず、せめて持ち物だけでもとアンドレの装備を解いていると、一枚の羊皮紙が見つかった。
文字が読めないゴディは、その羊皮紙をエルダに渡して読んでもらうことにした。
「これを読んでいるということは、私は死んでいるだろう」
羊皮紙には、故郷にいる妹を思うアンドレの気持ちが書いてあった。ゴディに雇われたのも治療代を稼ぐ目的であったとも。
そして、自分がもし死んだら、故郷の妹にそれを伝えて欲しいと書いてあった。
「“アンドレ”の故郷は?」
「ゴープよ。北にある混沌の地」
「そうか」
ゴディの故郷でも子供を叱るときに、「そんな悪さをしていると、混沌に取り込まれるぞ」などと使われている“混沌”が蔓延るゴープ出身だとゴディは初めて知った。
金で雇った剣士だったが、仲間がこうして死んでいくのはゴディは初めての経験だった。
ゴディは泣かなかった。いや、泣けなかった。
「この冒険が終わったら、ゴープに行ってみるか」
ゴディはわざと明るくそう言った。
「そうね」
エルダも無理に笑って言った。
ゴートマンの宝物の宝石を見つけると、暗い感情を抑えるように、アンドレの遺体には目もくれず、
ゴディたちは部屋を出ていく。
ただ、最後尾の荷物持ちのゴーザだけは、少しだけ後ろを振り向いて、「ゴディは最後は、あんたの名前をちゃんと呼んだよ」と呟いた。
5.黄昏の騎士
そこから、最奥と思われる部屋は近かった。
ゴディはフッと息を吐くと、ランタン持ちのフェズ越しにドアを開けた。
中には思っていた通り、金色の鎧を着込んだゴディと同じくらい体躯の良い男がいた。
「黄昏の騎士だな!」
ゴディはモールを手に突っ込んでいく。
勢いに任せた一撃は、【全力攻撃】を使ってさえ空を切っただけだった。その後のバット、カッシ、ドラスの攻撃も騎士の堅い鎧でダメージを与えていない。
「全くだらしがないね!」
エルダはフェイントなど戦技を駆使して、黄昏の騎士の装甲が薄い部分にメイスを当て、手応えがあった。
巨躯が揺らぐ。その後の黄昏の騎士はその攻撃が効いたのと、ゴディの【全力防御】で2回の攻撃は掠めただけだった。
2ラウンド目のゴディたちの攻撃はゴディのモールが【全力攻撃】で当たり、バットのノーマルソードが騎士の戦技で受け流された以外は、モールで吹き飛んだ鎧の隙間をカッシがシミターで切りつけ、ふらついた所にドラスのモーニングスターが騎士の頭をぶち抜き、決着がついた。
部屋には雑多なものに混じって大盾があり、ゴーザが「魔法の大盾だ!」と小躍りして喜んだ。
「他のやつは価値がないよ。この大盾を持っていかない手はないさ!」
ゴーザの見立てでは、この魔法の大盾は弓矢など飛び道具を弾いてくれる魔法がかけられているという。しかし、持っている者ではなく、他の誰かを守るという。
「わかった。これはオイラが持とう。バット、カッシ、ドラス、エルダを弓矢から守るみたいだから」
宝物を手に入れたゴディたちは、黄昏の騎士を倒した証として金色の兜を持ち、意気揚々とハイホロウ村へ帰還した。
村長へ黄昏の騎士を倒した報告をすると、村長の家でささやかな祝宴となった。
「いやあ、さすがは冒険者様だ」
「違うね、オイラが怪力ゴディだからさ」
「いやはや正しく、怪力ゴディ様でこそですよ」
村長や騎士が倒されたと聞いてお礼に駆けつけた村人たちから感謝され、ゴディは仲間と共に村の歓待を心ゆくまで味わった。
庭先では子どもたちがブカブカの黄昏の騎士の兜を被り、「ゴディにやられた〜」と何度も黄昏の騎士を倒す場面を繰り返して笑っている。
これでようやくハイホロウ村に平穏が訪れたと思われたが、数日後、村を出ようとしたゴディたちは、ある者を見た。
村長らに見送られて聖フランチェスコへ続く道へ現れた者。それは倒したはずの黄昏の騎士だった。
「我はまだ死なぬ。地獄から蘇りし我に恭順せよ!」
「……地獄から蘇ったって?ふん……何度でもお前を倒してやる!何度でも何度でも。お前が蘇らなくなるまで何度だって!」
ゴディは静かに激怒していた。自分でもこんな怒りがあるのだと、血が滾るというのはこういうことなんだと思った。初めてのことだった。
兜はなく、止めを刺した頭の傷は腐敗し、骨が見え、蛆がボトボトと落ちている。
アンデッドと化した黄昏の騎士を倒すべく、ゴディは再び迷宮に挑む覚悟を決めた。
その3へ続く。
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