ローグライクハーフリプレイ『黄昏の騎士』その4


AIイラストくんで作成

このリプレイは、FT書房から出版されている1人用TRPG『ローグライクハーフ』の基本ルールの1stシナリオ『黄昏の騎士』のリプレイです。


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「ローグライクハーフ」を遊ぶにあたって(ライセンス表記その他)
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 「ローグライクハーフ」はルールを確認した後に遊ぶゲームです。新ジャンルではありますが、区分するなら「1人用TRPG」にもっとも近いといえます。ルールは下記アドレスで確認することができます(無料)。

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https://ftbooks.xyz/ftnews/article/RLH-100.jpg

https://ftbooks.xyz/ftnews/gamebook/RogueLikeHalf_BasicRuleSet.txt

 PDF版は下記アドレスで入手可能です(要BOOTH会員登録)。

https://ftbooks.booth.pm/items/4671946

 また、紙の書籍でのルールを入手したい場合には、こちらから購入が可能です。紙の書籍には1stシナリオ『黄昏の騎士』が収録されています。

https://ftbooks.booth.pm/items/4671945

キャラクター

主人公 怪力ゴディ ヒューマン
技量点1  生命点8  筋力点6→7  従者点8
装備品 魔法の打撃両手武器(モール) 板金鎧
食料2つ 金貨42枚 治療のポーション

成り上がる為に冒険者をしている巨躯の青年。

兵士バット 技量点0 生命点1 斬撃片手武器(ノーマルソード)
ゴディの友人。無実の罪で牢獄にいたことがある。

兵士カッシ 技量点0 生命点1 斬撃片手武器(シミター)
同じくゴディの友人。無実の罪で牢獄にいたことがある。

兵士ドラス ゴディの友人。前回の冒険で毒煙により死亡。

兵士エルダ ゴディの友人。前回の冒険で毒煙により死亡。

ランタン持ちフェズ ゴディの友人。前回の冒険で毒煙により死亡。

荷物持ちゴーザ ゴディの友人。前回の冒険で毒煙により死亡。

弓兵ハッピー 技量点0 生命点1 弓矢、斬撃軽い武器(ダガー)
前回から仲間になった弓兵。軽いのは武器だけではなく態度も口も軽い。

剣士イアン 技量点1 生命点1 斬撃片手武器(ノーマルソード)
口数が少ない暗い剣士。

剣士ジェイコブ 技量点1 生命点1  斬撃片手武器(ノーマルソード)
今回から仲間になった剣士。

剣士キラ 技量点1 生命点1 斬撃片手武器(ノーマルソード)
今回から仲間になった剣士。

ランタン持ちリロ
今回から仲間になったランタン持ち。ミロの双子の兄

荷物持ちミロ
今回から仲間になった荷物持ち。リロの双子の弟。

9.魔術師との出会い

アンデッドと化した黄昏の騎士を倒した後、聖フランチェスコ市に行き、ゴディは〈パンと赤ワイン亭〉でワインを飲んでいた。

最初に聖フランチェスコ市に着いた時は故郷から連れてきた友人が居た。しかし、2度の迷宮での冒険で、半数以上の友人を失った。

剣士アンドレ、兵士ドラス、兵士エルダ、ランタン持ちフェズ、荷物持ちゴーザ。

アンドレ以外は皆幼馴染の友人だった。

冒険には危険が伴う。しかし、あまりにも大き過ぎる代償だった。

ほんの数日前、この〈パンと赤ワイン亭〉で公示人から聞いたハイホロウ村の危機を救う為に迷宮に入った時の友人はもう居ない。

死と隣り合わせの危険な冒険になんの意味があるのか、それをゴディは考えていた。

腰にぶら下げている〈治療のポーション〉の瓶を指でなぞる。

アンデッドと化した黄昏の騎士と戦った時に致命傷を受けたゴディはポーションの力で回復し、騎士を討ち取った。その経験から、謎の彫像を売った金で新たに買ったものだ。

毒煙に倒れた兵士エルダと喧嘩してまで持ち帰った巨大な彫像は金貨30枚になった。

他に手に入れた金貨や、アンデッドと化した黄昏の騎士がいた部屋から持ち出した魔法の笛を売ると、金貨100枚を超えていた。その中から〈治療のポーション〉の代金を支払い、残りは金貨50枚とちょっと。

この金貨を皆で分けて故郷に帰ろうか、ゴディはそんなことを考えていた。

ハッピーはその軽口を店の客に披露していて、テーブル周りは賑やかだ。剣士イアンは相変わらずテーブルの隅で静かに一人の時間を過ごしている。

「どうした、ゴディ」

兵士バットが喧騒から抜け出して、声をかけてきた。

ハッピーのくだらない話に、客が笑っている。

「いや……」

「ゴディらしくもない」

兵士カッシもゴディの側に寄ってきた。

「仲間を失うのは、辛いな」

バットが木のジョッキに並々と注がれたワインをゴクリと飲んだ。

ゴディもそれに合わせて一気にワインを胃に流し込んだ。芳醇なワインが今はあまり味がしない。

「……この冒険に、意味があるのかって」

ゴディはそう呟いた。

呟いて、バットとカッシの顔を見る。

ハッピーがいる場所から笑いの渦が起きた。

「ハイホロウの村を救ったろ?黄昏の騎士を倒して」

カッシが川魚の小麦粉揚げを頬張った。

「黄昏の騎士は倒した。他になにがある?」

ゴディは苛立ちを覚えていた。一度目の黄昏の騎士を倒した時のような祝宴は、アンデッドと化した黄昏の騎士を倒しても開かれなかった。

祝宴が無いのが悔しい訳では無い。迷宮で死んだ仲間を弔えないという悔しさと、用済みになった冒険者は出ていってくれという言葉にならない圧を感じていた。

「騎士は倒した。もう冒険は終わりだ」

ゴディは立ち上がった。

「おい、どこへ」

ゴディはその声を無視して、店を出た。外の空気を吸いたかった。

店の喧騒から抜け出し、夜の空気を吸う。目の前には運河がある。

ゴディは初めて聖フランチェスコ市に来た数日前、ゴンドラの上に立ち上がり、運河に落ちた。

ずぶ濡れで仲間に助けられ、くしゃみをして目を開けた先にあったのが〈パンと赤ワイン亭〉だ。

数日前までは冒険者で成り上がろうとしていたが、現実は厳しかった。確かに魔法の武器やポーションを持ち、今までみたことがない量の金貨も袋に入っている。

しかし、失った仲間は、幼馴染はこの金貨では帰ってこない。

ゴディはぼんやりと運河の水面を見ていると、静かだった水面に波が立った。

ぞわりと鳥肌が立つ感覚になり、ゴディは身構えた。

水面に誰かが立っている。

身体から湯気のような揺らぎを纏ったローブを着た人物が水面に立っている。

「誰だ!」

ゴディが身構えた。ローブの人物が低く笑う。

「我は……セグラス。かつてこの地を治めし者」

枯れた乾いた声が辺りに響いた。その声を聞いた夜鳥が甲高い声で鳴いて飛び立った。

「薄暮の魔術師と呼ばれている」

「薄暮の……」

ゴディの弱い頭でも、「黄昏の」騎士との関係性がその二つ名でわかった。

「お前が、黄昏の騎士を?」

「ほう。思ったより賢い……如何にも。黄昏の騎士を使って村を我が手に入れようとしたが、不覚にも倒されてしまった。……そう、お前によってな」

魔術師セグラスの身体から、怒りを含んだ気配が湯気のように立ち上った。

「2度もだ。お前は私の計画を壊した。あの村を我が手にしたあと、次はこの聖フランチェスコをと思っていたのだが……しかし、私はようやく力を取り戻した。計画を壊した、“お前”によってな」

魔術師は低く笑った。

「あの忌まわしき像を、お前が迷宮から運び出したてくれたお陰で、私の力が復活したのだよ」

ゴディはその言葉を聞いて、血の気が引くのを感じた。

あの不思議な像には魔術師を封印する力があったのだ。

「こうして私がここに出てこれたのは、お前のお陰だ。しかし、2度も計画を打ち壊したのは許しはせんぞ。……お前の一生苦しむ姿を見てやる。あの村を手に入れるのはやめだ。……ハイホロウの村を滅ぼし、聖フランチェスコを我が配下に入れてやる」

そう言うと、セグラスはパチンと指を鳴らした。

途端に辺りが炎に包まれる。

迷宮から怪物が次々に現れ、ハイホロウの村を焼き尽くし、村人を蹂躙していく。

“幻影”だ。しかし、それは“予言”でもあった。

「村を救えんかった悪夢を一生見るがいい!」

フッとセグラスの姿が消えると、その幻影も消えた。

ゴディはその場に立ち尽くしていた。頬にはハイホロウの村を焼き尽くしている幻影の炎の熱さが残っていた。

夜半の運河での幻影を見たのはゴディだけでは無かった。

聖フランチェスコの警備兵の数人も目撃しており、その幻影の話は市を統括する議会にまですぐに伝わった。

ハイホロウの村へ伝令が走り、村人が聖フランチェスコ市へと避難を開始したのは、翌日のうちのことだった。


10.3度目の迷宮

魔術師に出会った夜の翌日、聖フランチェスコ市の市議会に招集され、魔術師セグラスに関する報告を済ませたゴディは、その足で新たに剣士2人を雇い、ランタン持ちと荷物持ちも仲間にした。

剣士ジェイコブ、剣士キラは傭兵組合から紹介された腕利きの2人だ。
ランタン持ちのリロと荷物持ちのミロは双子だ。こちらは冒険者組合から紹介された。

ハッピーがその軽口で新たな仲間ともすでに打ち解けている。バットとカッシもそれなりにうまくやっているようだ。唯一人、剣士イアンだけは仲間の輪には入っていない。

ゴディも新たな仲間と打ち解けようとせず、あくまで雇用主という態度で接していた。

それは、仲間を失うということを味わいたくないという思いからだった。

市議会からは、改めてハイホロウ村の窮地を救うべく魔術師セグラスを打ち倒すようにとの指令があった。

公示人に伝えた時以上の報酬の話はなく、迷宮で手に入れたものはすべてゴディのものになるというのは変わらなかった。

それでも良いとゴディは思っていた。

冒険に出ることの意味を失っていたゴディには、“幻影”であり“予言”であった、ハイホロウ村が焼き討ちに遭うのを防ぐこともそうだが、仲間の仇を取ること以外に魔術師セグラスを倒す意味を欲してはいなかった。

仲間を失った元凶の魔術師セグラスを倒す。それがゴディを三たび迷宮に向かわせる目的になった。

村へと続く細い道を進んでいくと、夕べ遅くに避難の命令が下り避難する村人達と行き交う。皆、下を向いて黙って歩いていた。その顔には疲れ以外の表情はない。
ある家族の娘がゴディ達を見て、不思議そうに首を傾げた。

「あの人たち村に向かっているよ。なぜ?」

女の子の質問に親は黙っていた。

ハイホロウ村の村人と反対に、ゴディ達は細い道をハイホロウ村へと向かった。

数日前と変わらない迷宮の入り口に立つゴディはランタン持ちのリロが照らす明かりの先がまた変化しているのがわかっていた。

迷宮は入るたびに姿を変える。それは2度、迷宮に挑んだ経験からゴディは学んでいた。

「覚悟はできているか?」

ゴディは仲間の士気を高める為にそう口にした。

迷宮に入ると、やはり通路が変わっていた。右への通路が岩盤で塞がれ、左に通路が続いている。

通路を進んでいくと、ユラユラと浮遊する何かをランタンの明かりが映し出した。

小さい姿でローブを着て、その身体に合わない大鎌を持っている。

「低級霊だ」

剣士イアンが呟いた。

「こちらから仕掛けなければ、むこうから襲ったりはしない」

ゴディは無益な戦いは避けたかった為、イアンの言葉に従い、様子を見ていた。

新しく仲間にした剣士ふたりも同意のようで武器を構えたりしていない。

ゴディが低級霊の様子を見ていると、低級霊は何かを示すように右手で道の先を指した。「右へ進め」の合図に見えた。

低級霊はそのままスッと消えた。

通路の先は左右に分かれていて、ゴディは低級霊の指し示した右へと進んだ。

その部屋には何もなく、ゴディはがっかりしたが、敵がいないことでホッともしていた。

低級霊が何を伝えたかったのかはわからなかったが、ゴディ達はなにもない部屋で一息付くと、迷宮の先を進んだ。

次の部屋に入ると、巨大なネズミの集団がいた。丸々と太ったネズミ達を見るに、何を食べてそこまで太ったのかを想像すると胸がむかついた。
巨大で太ったネズミは動きが鈍く、8匹いるネズミのその汚い歯での噛みつきをなんなく躱し、ゴディ、イアン、ジェイコブ、キラ剣士3人と兵士のバット、カッシの攻撃が面白いようにネズミを倒し、半数以上のネズミが動かなくなると、残りは逃げていった。

それぞれ武器を収めると、互いに目配せをした。ゴディ達は新しい仲間の実力が確かめられ、また新しい仲間はこの一行の戦力を確かめるのにちょうどよい戦闘だった。


11.魔術師との最終決戦

通路から部屋の中をリロがランタンで照らすと、真夜中の盗賊達がいる部屋だった。

「旦那、あの者たちは怪物には見えませんが」

リロがゴディに疑問を投げる。

「ハイホロウの村の者たちだよ。黄昏の騎士に誘拐され、この迷宮に連れてこられた村人の成れの果てさ」

ゴディはそのことに気がついた仲間だった兵士エルダを思い出した。

元は村人だった者を倒すのは心が痛むが、2度の対戦で、彼らは死ぬまで戦うのを知っている。彼らがこちらの命を奪うのが目的であるなら、こちらとしてはそれを果たさせることは出来ない。

「相手は村人だけど、手加減はしないでいい」

ゴディは仲間にそう言うと、手に持った魔法のモールを握りしめ、部屋に入った。

真夜中の盗賊達は最初にゴディの持っている武器を奪うと知っていたが、ゴディはやはり多勢に無勢の中、魔法のモールを奪われてしまった。

「俺たちは真夜中の盗賊だ!」

今までのぎこちない名乗りではなく、もう覚悟を決めた者の名乗りだった。

その中には、アンデッド化前の黄昏の騎士を倒した時に祝宴を挙げた輪の中で見かけた者が数人いた。

ゴディはその見たことがある者たちを見て動揺し、【全力防御】をするのも忘れ、真夜中の盗賊達から、3度もゴディの板金鎧の隙を突く攻撃を受けた。

「旦那!大丈夫っすか!!」

弓兵のハッピーが弓矢でひとりを倒すと、それを皮切りに、兵士のカッシの攻撃が空を切った以外、武器を失ったゴディの拳、剣士3人と兵士バットの攻撃が次々に盗賊達の命を奪った。

今までの真夜中の盗賊達と違い、盗賊の一人が大きな宝石を持っていた。この迷宮のどこかで見つけたのかもしれないし、村でも裕福な者だったのかもしれない。

物言わぬ死体になったその者から事情を聞けるわけもなく、ゴディは何とも言えない後味の悪さを感じながらその宝石を自分の腰袋にしまった。

ゴディはここまでの戦闘などで新しい剣士達の高い実力、戦闘慣れした仲間の上達ぶりを感じていたが、“だいぶ運が良い”とも感じていた。

“運が良い”のも実力のうちだろうが、“良すぎる運”というのも不吉な感じがした。

「気を引き締めて行こう」

ゴディは奪い返した魔法のモールを手にし、仲間に伝えた。

ランタンの明かりだけで進む通路で、ゴディはランタン持ちのフェズを思い出していた。新たなランタン持ちのリロはフェズと同じような背丈で、ゴディの視界を邪魔しない。小さなその背中を眺めていると、何か音を聞いた。

その小さな音は、狭い通路の壁が開いて、武器で狙えるような隙間ができた音だった。

「危ない!」

ゴディと兵士カッシを狙った矢は外れ、ゴディ達は開いた隙間に武器を差し込んで反撃しようとしたが、弓矢で攻撃を仕掛けてきた何者かは、すでに逃げ出したあとだった。

「矢狭間か」

剣士のジェイコブが顔をその隙間に差し込んで確認すると、通路に沿って迷宮の怪物が移動できる別の通路があり、弓矢で攻撃をするための矢狭間になっていた。

剣士キラは撃たれた矢を回収し、矢尻を見る。

「逃げられましたね。恐らくは人型生物のナニカでしょう」

「矢には毒などは塗られてないようですね」

傭兵組合からの紹介だけあり、ジェイコブとキラは冒険に慣れているようだった。

優秀な剣士を雇えたことをゴディは嬉しがったが、あまり無茶なことはしないで欲しいとも願った。

「ふたりともありがとう。でも、僕が指示するまで勝手な振る舞いはしないで欲しい。……仲間を失いたくないから」

ゴディのその言葉に、ジェイコブとキラは頷いた。

その後は長い通路が続き、壁に松明がさしてある、見慣れた部屋に行き着いた。

迷宮の最奥、黄昏の騎士がいた部屋だ。

「ここが最後の部屋だ。魔術師セグラスがいるだろう。ヤツを絶対に……倒す!」

ゴディの意気込みに仲間達の士気は高まった。

「遂に来たか。お前達に最後の通達をしてやる。黄昏の騎士のかわりに、生きて私の下僕になるか、さもなくば……死ぬかだ!!」

魔術師が枯れた声を荒げた。

「下僕などならない!そして、死ぬのはお前だ!」

ゴディは魔法のモールを頭上で振り回すと、雄叫びを上げた。

その雄叫びに応ずるように魔術師は呪文を唱えた。

「……この者たちの意識を失わせよ!」

【気絶】の呪文は剣士イアン、ジェイコブ、キラの意識を一瞬にして奪い、3人はその場に膝から崩れ落ちた。

ゴディのあの不吉な感じはここに来て形を成した。しかし、戦力を半分失ったゴディ達は苦戦を強いられることはなく、魔術師セグラスの【氷槍】がゴディの体力を大きく奪った以外は、ゴディの【全力攻撃】と兵士バット、兵士カッシの攻撃で魔術師セグラスは断末魔もなく、その邪悪な命が果てた。

戦闘が終わると意識を取り戻した剣士3人、イアン、ジェイコブ、キラはセグラスの死体を見て、「もう、終わったのか」と呟いた。

「旦那、面白いものがありますよ」

荷物持ちのミロが部屋に人形のようなものを見つけた。

「ウォードールですね」

その人形は命令で戦うことができる自動人形だった。

「みんな、ありがとう。……帰るとしようか」

今後の冒険に役立つものを手に入れたゴディ達は迷宮を去った。

実に呆気ない魔術師セグラスとの戦いだった。


12.英雄として

迷宮から聖フランチェスコ市に戻ったゴディ達は、議会で魔術師セグラスを倒した報告をすると、町中にまたたくまに公示人のよく通る声でゴディ達の偉業が広まり、市は宴の様相を示した。

〈パンと赤ワイン亭〉を中心とした宴は夜中まで続いた。

明け方、皆が酔いつぶれてテーブルや床で寝ている中、ゴディは起き上がると、白み始めた空の下を歩き、運河の側に腰を掛けた。

朝の空気が気持ちが良い。ゴディは運河まで降りると、運河の水で顔を洗った。

顔を上げると、目の前に女の子がいた。

ゴディはその女の子に見覚えがあった。
魔術師セグラスを倒しに聖フランチェスコ市とハイホロウ村を結ぶ道を歩いていた時に見かけたあの女の子だ。

女の子は少し離れた場所にいる母親の顔を不安そうにみたり、ゴディの顔を恥ずかしそうに見たりしていたが、後ろに抱えていた野の花の花束を差し出した。

「村を救ってくれてありがとう。英雄ゴディ」

女の子はそう言うと、小走りに母親の元に駆け寄った。母親は穏やかな表情でゴディを見ている。

ゴディは立ち上がると、空を見上げた。

「英雄、ゴディか……悪くないね」

ゴディはまた冒険に出てみても良いなと思い始めていた。

了。











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