「私は、墓であり、墓守である」

「つらい」
「くるしい」
「しにたい」
「たすけてくれ」
「ころしてくれ」
「すくってくれ」
「ゆるしてくれ」
「あいしてくれ」
「あいしてくれ」
「あいしてくれ」

 愛していたから、誰にも本当のことが言えなかった。愛している人間の中で、私はいつも穏やかに笑っていたかった。私は、私のことで誰も不安にさせたくなかった。それは、すべて私の独り善がりの愛だった。そんな愛し方しか知らなかった。
 そして、私は孤独になった。

 散らばった言葉を、両手いっぱいにかき集める。胸に抱く。鮮度の落ちたそれらが放つかび臭いにおいを、胸いっぱいに吸い込んだ。
 私だけが知っている私の言葉たちよ、さようなら!
 私は、あなたたちが腐って、もっとひどい言葉に変わってしまう前に、あなたたちを葬らなければならない。それが、報われなかったあなたたちに、私が出来るせめてもの救済だった。

 私は、ぽっかり空いていた心の隙間に、その言葉を詰め込んだ。詰め込んで、詰め込んで、息苦しくなるまで詰め込んで、そうして十字架と花の刺青を彫った肉で蓋をした。

 私は、私自身の言葉の墓であり、墓守だ。
 でも、いつかこの役目を終えることが出来たら、日向の下で眩しさに目を細めながら、その暖かさに微笑むただの人間として生きてみたい。

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