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革を磨く。革製品のコバ処理と経年変化

コバとは?

我々の言う「コバ 」とは革製品の断面を指す言葉で、
品物の印象を決定付けるのが「コバの処理」です。
コバ仕上げの美しさによって、品物の最終的なクオリティが決まります。

そのため、我々職人や革製品を愛する方々の間では、特別な思いを持って語られる部分でもあります。
革にあまり詳しくない方でもコバ仕上げの丁寧さを見るだけで、ある程度その品物の良し悪しがわかるかと思います。
今回はコバについて少し解説させていただきます。

3パターンのコバ処理方法

一般に、コバの処理方法は以下の3パターンに分けられます。

・”塗り物”と呼ばれる樹脂系の塗料を使った「顔料仕上げ」
・革の端を内側に折り返す「ヘリ返し」
・革そのものを磨き込んで仕上げる「切目本磨き」

ghoeで主に行うのは3つ目の「磨き」による仕上げ。
品物のつくり的に有利であれば「ヘリ返し」も行いますが、「塗り物」は全く使いません。

なぜ使わないかというと、コバに塗られた顔料の被膜が数年の使用で剥げ落ちて、みすぼらしい状態になっているのをよく目にするからです。
上手に処理すれば少しは長く保つとはいえ、顔料はペンキのようにコバの上に乗っかっているだけなので、使用による剥がれは避けられないのです。

「磨き」の処理であれば、剥げ落ちるというのは構造的に起こりえず、余程のダメージでない限り、磨き直せば元どおり美しく復活します。
新品時の美しさだけでなく「使い込むとどういう状態になるか?」を考えると「磨き」のコバには利点が多いのです。

逆に、デメリットを挙げるならば「圧倒的に時間がかかる」「任意の色にならない」という2点でしょうか。
時間については私共つくり手側の話なので問題になりませんが、色味が選べることでのデザインの自由度は「塗り物」のコバに軍配が上がります。(フランスのH社などはそういった理由から「塗り物」でコバ処理をしていると聞きます)

と、悩ましい部分もありますが、「長く美しく使えるように」「傷んだら補修できるように」
そして「丁寧に仕上げたコバの美しさをご覧いただきたい」という思いもあり、ghoeの品物はコバを「磨いて」仕上げております。

ghoeでのコバ磨きについて

実際に行っているコバ磨きの工程をご紹介。
今回は製作途中のベルトを例にいたします。

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まずはこちらが、裁断したままの状態。
ここから鉋(カンナ)で形を整えます。

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角を落として丸みを持たせることで、使用によるダメージを受けにくいコバを目指します。
どういう形のコバにするかは職人によって好みが分かれるところ。もっこりドーム型にする職人さんもいらっしゃいますが、私は「見た目には直線的だけど実はカマボコ型のコバ」が好き。
と言いつつも どんなコバが合うかは、革の種類や品物によります。

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鉋をかけ大体の形が仕上がると、次は紙やすりで表面を整えていきます。
荒い番手から細かい番手へと移り、断面の凸凹を無くしていきます。

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次に、コバに染料を少しずつ入れます。
先述したように、革の上に乗っかる「顔料」ではなく、革自体に色が染み込む「染料」であることがポイント。
「塗り」ではなく「染め」なのです。

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色を入れたら、「布海苔」という海草を溶かした液体で磨きます。

磨くと粗が浮き彫りになるので、また紙やすりで表面を整えます。
紙やすり→布海苔での磨きを何度も繰り返すと、だんだんと自然な光沢を帯びてきます。

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コバの表面が仕上がると、蜜蝋を塗り、熱した玉ネン(ふちネンとも呼ばれます)でコバを圧縮します。
蜜蝋をコバに溶かし込み、コバを締めることで強度を上げつつ、コバとステッチとの間にラインを一本入れることで品物全体がグッと引き締まった表情になります。

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ネンをひく前と後では印象が大きく変わります。無意識に美しいと感じさせる重要な意匠です。
ちなみにネンも、自分で鉄を削って好みの形状にしております。これについてもまたいつか詳しく書きたいと思います。

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ネンを引くと微妙にコバが荒れるので、また何度か磨き直して完成です!

ちなみに今回紹介したベルト1本のコバを仕上げるには平均4時間近くかかります。
時間をかければ良いというものでもありませんが・・・いかがです、綺麗でしょう?

革によって最適な磨き方が変わるため、革の様子を伺いながらの作業が求められます。
固くてしっかりした革は割と磨きやすいのですが、クロム鞣しの柔らかい革なんかは磨きにくい傾向にあります。

さらに、貼り合わせたパーツのコバ処理は、一枚革より難易度が高くなります。
コバ処理がしやすいよう逆算して型紙をつくる場合も多く、接着の精度もとても重要になります。
このへんが「塗り」や「ヘリ返し」には無い、「磨き」のコバの大変なところですね。
全体の一部ながら、気の抜けない重要な工程です。

使い込んだコバ

最後に、実際に4年近くズボンのポケットでお使いいただいた財布のコバをご覧ください。

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革の表面と同じようにコバも経年変化を起こしていることがわかります。磨き直すと新品同様に復活しますが、これはこれで綺麗です。
オーナーのO様からもお褒めの言葉をいただきました。

今回、コバについてまとめていて、昔、先生の磨いたコバを拝見して「なんでこんなに綺麗なんですか?」と訊ねた時のことを思い出しました。
先生の返答は「綺麗になるまでやるから。」
美しさに近道は無いということでしょうね。


ちなみにghoeの製品は、無償でコバの磨き直しをさせていただいております。
遠方からの場合は往復の送料のみご負担ください。

(過去のブログ記事に加筆して公開)

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