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野菜とファミコン

夕方、木造の古民家にはファミコンの電子音が響いていた。

赤いレトロなブラウン管に映るのはドット絵のゲーム画面、その前に座っている子供は小学校低学年だろうか。
僕が生まれるずっと前に発売されたファミコンのゲームを、僕よりずっと幼い子が夢中になって遊んでいる。
父親がガヤを入れる。
旅人たちは後ろから和やかに見守った。

2019年秋、僕は山形のとあるゲストハウスに泊まった。
ロングドライブを兼ねて、未訪だった山形県を2泊3日で巡る小さな旅だ。1泊はゲストハウス泊、もう1泊は車中泊の予定だったけれど、到着した居心地の良さそうな家屋を見て、急遽連泊することにした。

その日はちょうど3連休だった。
日本縦断チャリダーやライダーに混じって、小さな子供を2人連れたご家族が泊まっていた。
ゲストハウスと言えばひとり旅の旅人が集まる場所というイメージがあったので、家族で泊まるというのが新鮮に感じた。ご夫婦ともにこういう宿が好きらしい。
近くにある有名な蕎麦屋を教えてもらったので、翌日はそこに行ってみることにした。

このゲストハウスは基本的に放置プレイ。宿の人は受付を終わると仕事に戻ってしまう。
代わりに、台所には朝採れの野菜がコンテナにたくさん入っていた。
お米もある。農家とゲストハウスを兼業しているという。
形が悪く市場には出せないが新鮮で間違いなく美味しいその野菜を使って自炊した。
僕は一品だけ作って、他はほとんど家族連れで来ている奥さんに任せてしまったけど、その分みんなで子守りしたからいいか。
大きな机にたくさんのおかずが並ぶ。宿泊客だけの夕飯、誰が仕切るわけでもなく、ゆるゆると食べ、飲み、それぞれの旅の話が飛び交った。

宴が終わり、子供も寝てファミコンの音もしなくなったころ、宿の人がひょっこり覗きに来た。彼もまた、もちろん旅人。……旅の話はまだまだ続く。

このまま何泊もずっといたい。
そんな余韻に浸りながら、いつの間にか眠りに落ちた。

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場所:山形県 KOMEYAKATA GUESTHOUSE

旅人 中野周平
https://shisokuengine.web.fc2.com/

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