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【はじめてのゲストハウスとブーゲンビリア】


いろんなゲストハウスに宿泊してきたけど、ゲストハウスの思い出としてふさわしいところっていつ泊まった、どこのゲストハウスだろうかと思いを巡らせた。

そしてはじめてゲストハウスに行ったあの出来事が、私だけに留めておくのはもったいない記憶のような気がして、ここに書いて共有しようという思いにいたった。


私の20代の頃の旅は、宿を取らないスタイルを貫いていた。

フラっといった旅先の見知らぬ誰かの家に泊まったり。ベンチで野宿したり。知り合いの知り合いの家に泊まったり。

「家以外の場所で寝るにはお金がかかる」というそれまで持っていた自分の規範にチャレンジする試みで、とにかくお金を使わないという創意工夫の実験を旅でしていた。

今思うと必ずしも褒めたことではないけれど、自分に一生懸命な時期も必要で。

そんな一つの経過の中で「泊まる」ということが、自分の中で何かひっかかる出来事だったんだろう。
さて、ついに私がお金を払って宿泊するという事態がおきた。


それがゲストハウスに初めて行った時なのです。


簡単な経緯は、当時お世話になっていたアイヌのシャーマンが沖縄に供養ツアーに行くというので、関心のあった者たちが沖縄について行った。
その中の一人が私だったというもの。一週間程度沖縄に滞在しながら、同行者集団は供養に参加しながら沖縄を楽しみつつ、ゲストハウスに行ったのだった。

同行者はたしか5人。20代〜30代の男女、アイヌに関心のある旅人たち。
同行人の一人は沖縄でサトウキビバイトをしていたから、沖縄で合流したんだけど。

私たちは彼が寝泊まりしているバイトの宿泊場所に泊まったり、彼の沖縄の知り合いの知り合いの家に泊まったりして、3〜4泊は寝る場所を渡り歩いていた。

そしてついに那覇エリアには泊まるツテがないから、安いゲストハウスに宿を取ろうということになった。

たしかその時の私の心境は
「お〜〜ついに寝泊まりにお金を使うのか」的なものがあったかもしれない。
しかし彼が発した
「そのゲストハウスは一泊1300円で泊まれるし、沖縄の中で安くて綺麗だからおすすめだよ」という声に
「一泊1300円@@?!」と私は驚愕した。

「ゲストハウスという場所は、一泊千円程度で泊まれるのか〜〜〜凄い〜〜」
だったら泊まってもいいかな。そんな気持ちになった。

沖縄で働いている同行人がそのゲストハウスまで案内してくれた。レンタカーで向かったゲストハウスはビルの一角を使っていた。

ゲストハウスに着くと女性限定の二階の部屋に案内されて、何台か置いてある2段ベッドの上に荷物を置いた。
初めて入ったゲストハウススタイルに、「こんなに密集して寝れるかな?」とかそんな事を考えていたように思う。

「いったん荷物をおいて、那覇の街にいこっか。」
私たちは那覇の街に繰り出すことにしたのだが、実は私には別件ができていた。

「あ。私国場の交差点で下ろしてもらっていい?」
実はアイヌの出来事と全く関係ない知り合いが、私が沖縄にいる期間と同期間に沖縄本島にきていて、私は彼女と落ち合ってご飯でも食べようという話になっていたのだった。

彼女も車を借りているから帰りはゲストハウスに送ってもらうから、一旦単独行動で、また夜に皆に落ち合うということで国場の交差点で下ろしてもらって、彼女と落ち合った。


彼女と知り合ったのは大学2年のころ。
私の18歳上で、友達でもなく、知り合いでもなく、不思議な関係だったんだけど、行く場所行く場所の旅先が重なっていて、よく旅先で合流して会う人生の先輩だった。

まさか沖縄でも会うなんて。
「あんたひどい疲れた顔してるよ」
会って早々、彼女から心配の声をかけられた。彼女ともいろんな所に旅をしていたから、私の表情の変化もわかる仲なのだ。

ひどい顔の原因は、初めての沖縄、供養やパワースポットへの訪問。そして仕方のない事だろうけど当時若かった同行者達は、目に見えない世界へ対する不謹慎な思いが強かったんだろうと思う。四六時中そんな気持ちの中にいて、心身ともに私は疲れていたのだった。

私も自分が疲弊していることを自覚をしていて、彼女にそれを伝えた。

「あんた今日私の所へきなさい」
彼女は沖縄や南西諸島の地元の知り合いがたくさんいて、今回の沖縄滞在もうちなんちゅうの国場の知り合いの所に泊まっているという。
「これからスーパーに行って、買い出しするから一緒に夜ご飯作って休んだ方がいいよ。」

私達は買い出しを終えて国場のその家に向かった。玄関の入り口にブーゲンビリアのアーチがかかっていて。今でもその光景を思い出すことがある。とてもきれいだった。

アーチをくぐった瞬間にそれまでの浮ついてごちゃごちゃしていた気持ちがスーッと落ち着いた。清浄な空気が流れた。

国場で私たちを向かい入れてくれた嘉数さんは70代ぐらいの小柄な男性で、夜はいつも近くのスナックに飲みに行くという。
お酒ばかりじゃ体に悪いから今日はご飯を作って家で食べようと、彼女が提案して私たちは食卓を囲んでご飯を食べた。

ご飯を食べてゆっくりしているうちに、私はこの家に泊めてもらうことになっていた。
お布団も干してあって、いい匂いがして。

12月の沖縄はまだあったかくて。
窓を開けて寝ると、いい風が入ってきた。
いまでもその風をありありと思い出す。

初めて沖縄に行って。
土地に根付いた血を持つ人の空間に泊めてもらうことのありがたさを身に染みて感じていた。
沖縄に滞在して初めてゆっくりした時間を過ごした。

そう、私は初めて入ったゲストハウスには泊まらなかったのだ。
ゲストハウスの思い出を綴るという企画に、泊まらなかったエピソードって相応しいのか考えてみたんだけど。
「予約した場所に行かないという選択肢をとる」という自分の幅が広がったのは、その経験があるからだと思う。

決めてしまったことって、変更することが難しくなる。
決めてしまった仕事、決めてしまった大学、決めてしまったetc…
決めてしまったことだからって、自分の気持ちに耳を傾けないってこと。結構ある。

「自宅以外で寝るにはお金がかかる」という自分の決め事を確かめていた私は、「泊まると決めても泊まらない使い方もある」ということをゲストハウスからその時教えていただいた。

旅の選択肢がまた増えた瞬間だった。
それからの私は決めてしまったことを優先するのではなく、それ以外の要因や感情を含めて考える習慣がついたように思う。

もともとそんな風に決めてしまわない人にとって、私が体験したささいな変化はピンとこないかもしれない。
「自分のしたいようにすればいい」
って、今の私ならズバッと決めてしまえるかもしれない。

でも、安価な値段で泊まれるゲストハウスという空間があったから。
私は予約した場所に行かないという経験をさせてもらうことができた。
私たちの経験の幅は色んな場所や値段があるという、そんな豊かさに彩られている。

規範や価値観が変化する機会に恵まれるということは。
そんな出会いを支えてくれる何かがあるから体験できるのだ。

私にとっては無料で泊めてくれた方達が、私を受け入れてくださったことや。
安価な値段で宿泊出来るゲストハウスの存在が、そんな出会いをつくってくれた。

国場であった彼女とは沖縄で別れ、そして数日後京都でも会い。
そのまま車で茨城県の大洗ターミナルまで送ってもらって。
私は当時住んでいた北海道へフェリーで帰った。

そんな感じで彼女とは本当に北から南まで様々な所にいった。
私の旅の記憶の多くは、彼女と共にある。

ここからは少し後日談。
あれから10数年経ち。
私を国場に連れて行ってくれた彼女が今年の春先に亡くなる出来事がおきた。
原因は癌の全身転移。

亡くなる前まで必ずまた沖縄に行こうって話していた。
私は彼女と一緒に出会った方に連絡しなければと思い、久しぶりに沖縄の嘉数さんに電話をした。
嘉数さんは元気な彼女しか印象になかったみたいで。突然の訃報に言葉をなくしていた。

「彼女の写真も部屋にあるからさ〜
それを飾って、線香をあげるね〜
線香を彼女の住んでいた所にむけて焚くからね〜」
って何度も繰り返していた。

沖縄は祈りの習慣が強い。
フッと出る本土とは異なる生活を垣間見せていただく、そんな機会を今も彼女からもらっているように感じた。

「また沖縄に来たときは必ず会おうね〜〜〜また連絡するんだよ〜絶対よ〜」
今度沖縄に行くときは近くのゲストハウスを予約して、嘉数さんに会いにいこう。
そして次の出会いや別れを経験しよう。

場所や土地、経験を与えてくれる全てに敬意を払いながら。
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日時:2007年12月
場所:沖縄本島
ゲストハウス:「おさるのおやど」沖縄県那覇市若狭3-23-21 現在閉店
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執筆者
岡田裕子/もみじ
2006年、京都精華大学芸術学部ストーリーマンガコースを卒業。07年、北海道アイヌ民族と生活を送る。08年、知床ナチュラリスト協会に勤務。16年、鍼灸師/柔道整復師の資格を取得。17年、京都大学人間・環境学研究科入学。社会学修士号。博士過程在籍。

現在鎌倉で「旅する!もみじ鍼灸院」を経営しながら、出会いを旅のような体験にする「であうたび」を展開。https://mangaramomiji.wixsite.com/tabimomiji
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もみじさんPhoto

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