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アマチュアがMー1グランプリ1回戦を勝つためには

M−1グランプリは毎年、1回戦のみ地方予選が行われる。中でも名古屋予選は毎年2日間の日程が組まれており、1日あたり約200組のエントリーがある。多い。そしてその多くが人前で漫才をやるのが初めて、またはMー1でしか漫才をしない人たちだ。これまでも色々な人を見てきた。

あるときは、雑誌から飛び出してきたようなギャル男の2人組が、センターマイクに登場。しかし、いつもの一気コールのテンションはどこへやら、薄暗い会話を繰り広げパキパキにスベる。帰りのエレベーターで室内をなわばりにするかのごとく香水をバッシャバシャにふった彼女(メイクは2時間)に慰められる。

またあるときは、さっきまでスプラトゥーンに興じていたであろう小学生の2人組が登場。おそらく大人が作ったであろうやけにかしこまった台本を一生懸命なぞるも、「違うだろ!」というツッコミが空に放たれた直後、完全に真っ白になってしまう日焼けした少年と隣で「女教師…女教師…」と恐らくは次のセリフをうわごとのように繰り返すメガネの少年。頑張れ!と見守る観客の母性がジャッバジャバに溢れた所でタイムオーバーの爆発音が舞台を赤く染める。

そしてまたあるときは、受かる気ゼロの理系大学生コンビが恐らく飲みの席でバカウケしたであろう下ネタブリッジを挟んだショートコントを披露し、女性客の口を完全に閉ざす。これは3年連続で見た。

彼ら1人1人にドラマがあり、また同時に1人1人に敗因がある。せっかくなのだから是非1回戦を勝ち上がって貰いたいものだ。そこで今回は、一応過去のM-1での経験や観客として見た感覚をたよりに、「アマチュアがどうすれば1回戦を突破出来るか?」を考えてみたいと思う。この場合のアマチュアは、舞台経験がほぼゼロ、または過去のM-1のみ、という事にしてみる。
断っておくがこれはもちろん私個人のただの仮説であり、結果を保証するものではない。ただ、非プロの漫才師の中ではM−1に対する情熱は高い方だという自負はある。
もうラストイヤー終わったし別にいいじゃんね。

①出場する上での心構え
まず「自分の事など誰も興味がないのだ」という事実を受け入れよう。
1回戦を見ているのは「お目当てのプロを見に来たお笑いファン」「Mー1自体が好きなお笑いマニア」「出場するアマチュアの身内」「自分の出番前に調査に来たプロ芸人とその周辺スタッフ」「審査員(200組近く見るためヘトヘト)」だいたいこれくらいに分類される。残酷な事実だが、あなた達の話を最初から前のめりに聞こうとする人は、ゼロなのだ。ひどい話かもしれないが、あなたもきっと過去に、駅前の路上ミュージシャンを素通りして行った事はあるだろう。他者に対する興味なんてそんなもんなのだ。ある種当たり前のこの前提を置いてけぼりにするアマチュアは非常に多い。

②経験者だと思わせる
漫才には「上手い」という価値基準が確かに存在する。観客として100組以上の漫才師を見てみると大体最初の10秒で「漫才の経験があるかどうか」がほぼ間違いなくわかる。「客席に届く声量か?」「コンビ名がちゃんと聞き取れるか?」「マイクの前の2人の距離が離れすぎていないか?」「立ち姿がフラフラしていないか?」これらの判断基準を満たしていないコンビは「素人」と判断され、よっぽど台本そのものが面白くないと合格するのはとても難しい。
まず真っ先に声をデカくしよう。この場合のデカくというのはギャーギャー叫べ、という意味ではない。ベースとなる喋りのボリュームを上げる、それもなるべく自然に。まず声が出ていれば観客、ひいては審査員はそのコンビの漫才を見る気になるだろう。それが出来ないならマイクに声を飛ばすやり方を心がける。いわゆるサンパチマイクはとても性能が良いので、マイクに近付かなくてもある程度の音は拾ってくれる。

③ネタの内容について
こればっかりは「面白いネタを作ってね」としか言いようが無いのだが、作るために何をすべきか、を考えてみよう。

・自身の面白さを知る
あまりにも自分からかけ離れたキャラクターを演じるのは凄く難しい。自然に演じられる役割を心がけよう。普段、自分がどんな方法で友人などを笑わせているか?友人が自分のどんな所を面白いと思っているか?しっかり分析しよう。見た目、性格、境遇、様々な要素から自分の面白さを抽出しよう。注意したいのは、客観的な目線を忘れない事。まわりにハゲとイジられていても他人から見ると思ったよりハゲて無かったりする事は結構ある。
自分の面白さを活かすためにどのような設定、テーマが相応しいかを考えると良いと思う。

・ニュアンスボケをしない
本当に新しいものは「何だか解らないけど面白い」の先にあるのだろうが、シンプルに合格だけを突き詰めるならそれは遠回りだ。「何がどう面白いか?」を言語化できるネタだけを採用しよう。仲間内でテッパンのくだりなども、ちゃんと細分化して言語化出来るのなら採用しても良いが、相当な客観視が必要だ。

・流行りを取り入れない
賞レースの1回戦は、安易な時事ネタのオンパレードだ。とてつもない数のネタ被りが発生する。「マッチングアプリ」「ブレイキングダウン」という言葉を聞くだけでうんざりする。よっぽど斬新な切り口が無い限りハードルを越える事はない。まぁ流行ってるしなぁ、ぐらいで取り入れるのはやめよう。

・一言一句こだわる
台本を仕上げたらまず練習しよう。ある程度覚えたら、動画に撮って自分たちで見返して、無駄な部分を省こう。出来るだけ短い文章で、伝えたい事が伝わるのがベストだ。語順や接続詞などは本当にそれが正解か?を考え尽くそう。注意したいのは台本の文字ではなく、聞こえた印象を優先する事。「せんせい」だけだと「先生」「先制」「宣誓」なのかはわからない。文脈で判断できるような気遣いは必要だ。

④とにかく人に見せる
ネタが出来たら練習して、可能な限り人に見せよう。友人でもいいが、やはり自分たちの事を知らない人に見せるのが一番だ。今はアマチュアが出られるフリーエントリーのライブも結構あるし、アマチュア同士のネタ見せ会なんかも調べれば出てくる。何度も人に見せて、反応が良かった所は残し、悪かった所はどう改善すべきかを考えよう。もしかすると全てをリセットしないといけない場合もあるが、仕方ない。
そして、人前に立つ事でどんどんネタが体に馴染んでくる。馴染めば馴染むほど「台本を読んでいる感」「やらされている感」が薄まるので是非頑張ってほしい。経験値ゼロで結果を出せるのは一部の天才だけだ。

⑤1回戦を見に行く
1回戦の雰囲気や合格ラインは見てみるのが手っ取り早い。当日券500円で満席になる事はほぼないので気軽に見に行ける。是非一度、自分たちが参加する地獄を客観的に見ておこう。学べる事はたくさんあるはずだ。

⑥当日の心構え
いざ、本番。どうしたって緊張するし期待もする。ただ「基本的にウケない」と思っておいた方がいい。狙った所で100%笑いが取れるなんて事はまず無いだろう。それでも練習通り「一生懸命やる」事が大切だ。200組もいる中から目立つには「強烈なキャラクター」か「話を聞いてくれという情熱」のどちらかが不可欠だ。職場やクラスで強烈キャラでお馴染みだとしても、いざ舞台で見ると大したこと無い場合がほとんどだ。消去法で情熱で勝負するしかない。


以上。私で良ければどなたでもネタの相談に応じますよ。是非是非。

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