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終わってしまうものの只中。

日付が変わる頃に、Mさんから連絡があった。
今から家に来る、という。

「遅くにごめん」
開口一番に言われて、私は首を振る。
「お疲れ様です。何か食べます?今日、蕪のポタージュ作ったんですけど温めましょうか?」
「あ、お願い。寝てた?」

起きてましたよ、とお鍋を混ぜながら答えた。
半分くらいウトウトしてたけれど。

なんだか懐かしいな、と思う。
夫もよく日付の変わる頃に帰ってくる人だった。
だから、消化の良さそうな食事をよく作った。
必然的にスープが多かったな、と思う。

「今日めちゃくちゃ疲れてさ。会いたくなっちゃったんだよね」

疲れると会いたくなる。なるほど面白い方程式だなと思うけれど、おそらく今回の条件下では、だろうとも思う。
私たちは同じ職場だけど、仕事の話はあんまりしない。出来ないっていうのもある。

「コーヒーはやめておこうね」
「俺は飲んでも眠れるよ」
「だめ。良い香りで私まで飲みたくなっちゃう」

シャワーだけ貸してと言うMさんに頷くと勝手知ったるとばかりに用意をしてバスルームに消えていった。
ソファに凭れるように座って、時計を見た。
日付はとうに変わっている。
週間天気予報は今週はずっと雨だった。こめかみの辺りと目の奥がずっと痛い。
昨日、鞄に放り込んだロキソニンはあと4錠しか残ってない。どこかでまた医者へ行かないと。





「ぐぐちゃん」
揺り起こされて目を覚ました。
「寝てた」
「寝てたね。ごめん遅くに来たから」
薄暗い部屋のなかで、ぼんやりとMさんの輪郭を見る。
「ダメ。ねむい」
「ぐぐちゃんは、眠い時すぐわかるよ」
Mさんは少しだけ楽しそうだ。
眠くないのだろうか。疲れすぎてアドレナリン出てるのかもしれない。

「眠いときと酔ったときは敬語がなくなる」

バレてた。

ベッドで寝なよ、と言うMさんを無視してソファで寝てたら、事もあろうに抱きかかえられたのでさすがに目が覚めた。

「自分で歩いてベッドへ行けますから」
「お。起きたね。大丈夫だよ、俺ベンチプレス50キロまで挙げられるから」
「私の体重を推定しないでください」

さすがに失礼だ。
いい大人が、深夜に何してんだろう。



朝、起きて伸びをする。
今日こそ早寝しようと心に誓う。
でも困ったことに、最近は寝る前の日課みたいに楽しい話をしたりして寝るの勿体ないなって思ったりするんだ。

今日も清々しいほど曇天だ。
まとわりつく湿気も、全部、夏前の泡沫みたいで気持ちがいい。


こんな日に元彼に会うのなら、それはお誂え向きかもしれない。


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