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Making of MOMENTum

KAPPESの代表作とも言えるMOMENTumについて書いてみようと思う。

ミラノサローネサテリテ

MONGOOSE STUDIOの時から存在は知りつつもなかなか関わったことがないミラノサローネ。プロダクトデザインやインテリアの文脈で何か発表するわけじゃなくても、いや、だからこそ気になるところで、ぜひ参加してみたいと思っていた。知り合ったばかりのwe+の林さん、安藤さん、協業して仕事をよくやっていたnomenaの武井さんを誘い、ミラノサローネにトライしてみようという話になった。皆、知ってはいるけどトライしたことはないという感じで、同じ感覚。ガチのプロダクトデザイナーではないので、ジャンル違いという感じもある(今やそんなことないかな)が、気になるなーという感じ。

サローネに初トライということなので、まずはサテリテだろうと思った。若手のデザイナーのためのエリアで、本会場の奥の奥にある展示。ブースを借りてそこに展示するというフォーマット。多くのデザイナーがサテリテを経て有名になっていたりするので登竜門的に気になる場所だ。

公式ページ

キックオフ、即日エントリー

まず、キックオフ的に集まった。最初は林、安藤、武井、松山の4人。まずは、エントリーしないとねってことで、エントリーについて調べてみた。と、なんとその時9月頃だったかで、エントリーの締め切りの2日前だった。。。何も知らずに「サローネいいねー」とか言ってた自分たちが馬鹿みたいに思えたが、まだ間に合う!それぞれの過去仕事や作品を使ってエントリーしようと決め、エントリーシートを送った。

その後、隔週とかで集まってブレストしてたけど、まずはお互いのスタンスやアイデアの導き方をすり合わせるとかからなので(初の座組み)、なかなかプランにまで落ちなかった。

自分としては、グループで何かを作るのは慣れているので、序盤はこういう感じでもなんとかなるだろうと安心して考えるようにしてたが、アイデアの出し方がそれぞれ違うので、そこのすり合わせが難しかった。

最初は椅子を作るかとか、照明を作るかとか話してたわけだが、やっぱり目的は目立って来ることであって、せっかく他ジャンル的なところに挑むわけだから、自分たちの特性を出しながら目立つことをやるのがいいだろうと考えていた。

過去作品はこの辺でエントリーしたと思う。

先に審査通過

11月だろうか。審査が通ったとメールが来た。お、まだプランも固まってねーよと思いつつ喜ぶ。過去作品にプロダクトっぽいのが少ないのが不安だったが、なんとか通過でよかった。

ここに来て焦りもあるので、一気にプランを決めたいところ。でもまだぼんやりしてた。それぞれ仕事で忙しくもあるのでなかなか大変だった。そしてなにより、それぞれの個性を把握できてないので難儀する。

とりあえず、決めたこと。

・プロダクト的なものに収まらないインスタレーション的にしたい
・家具じゃなくてもいい
・動く要素をいれる

すべては目立つためだろうか。自分ひとりで作るときはこういうアプローチはしないので、コラボレーションであるので気軽にできるというのもあってか、ある種戦略的な狙いを強くもっているような感じ。

アイデアが決まる

作るものが動くとかだとすると実験しないと分からないことが多い。ならば、プランを決めるというよりは素材やアプローチだけ決めて、スタディしようという話になった。

その時、撥水とかどうですかねと、武井。おー、それはいいねと松山。とにかく撥水使ってなんかやってみようと決まりました。それが12月。

そしてこの頃には、nomenaに松下さんがジョインしたので、ミラノサローネメンバーにもジョインということで、5名に増えた。安藤さん、松下さんと二名の留学経験者が英語面で心強く、そしてなんだかふたりとも段取り系がうまい。良いメンバーに恵まれた。

撥水スタディ

まずは撥水加工を何に施すかというのがポイントになる。松山個人としては、わりと簡単に考えていて、テーブルとして作りその中に撥水加工された面がある。その面が下から押されることで隆起し上にある水が漂う。天板にガラスをのせることで、中が動くという作り。そんなものを妄想してた。この動きが秀逸で、現象が魅力的であれば勝てるんじゃないかと思っていた。

だがスタディしてみて決まったのは、お皿形状。水をチューブで出して撥水加工したおさらに水を出すと、水が螺旋を描いた。きた!これは面白い。

くるくる回る様子も水のメタボール的な表情も最高に魅力的だ。

水を出す仕組みは、自分が過去に流体制御的な作品を作ってきてたので、サクッと作れた。それを使って2月あたりに実験した。これは、すでに勝てるんじゃないかという気配がしていた。でもすでに2月。4月にミラノで展示してることを考えると信じられないペースの遅さ。。

一気に仕上げに

お皿のスタディで方向性が決まったので、もう少しスケールを大きくして作品としてのサイズ感でスタディしようということになった。MDFを積層してCNCで切削してくれる業者があるということで、そこに依頼した。直径600mmだっただろうか。まだ、中心の穴もない。

これでいろいろなことが発見できた。水を連続でだすと、螺旋がものすごくキレイに描ける。中心にたまる水もかなり魅力的。

これで感触がつかめたので、次は中心の穴もつけて外装の形も決めて設計フィックスだと思っていたが、we+が驚きの発言。「直径1000mmはいきたい」

正直、自分としては驚きで、600mmぐらいのサイズ感でちょうどいいと思っていた。現象としても確認できているのが600mmまでなので、これに塗装をしたり仕上げをする作業をイメージしていた。ここにきてサイズを大きくすると現象が再現できるかもわからないし、輸送費も跳ね上がる。ただ、たしかにインスタレーション的な雰囲気を出すには600mmではたりず、1000mmというのは納得はできる。いろいろ不安もあるが、1000mmでトライすることに。本番の制作スケジュール的に後戻りはできないので、恐怖の選択だ。

1000mmバージョン

実は撥水周りで1000mmバージョンで苦労もあったんだが、なんとかなってうまくワークした。そしてノズルも増やし、はじめてのテスト風景。4つから出したところ、これがいきなりできた。強烈にいい!

ここから、真夜中の追い込みで、数々の技(パターン)を考えてプログラムに落とし込んでいった。このときのバージョンはMacで動かしていた。

KAPPES設立秘話

サローネ限定のチーム名をKAPPESと決め、もろもろの手続きを進めていく。この作品には作者たち自体がワクワクがあったのだが、どうも周りの人達も巻き込んでいた。当時から仕事を一緒によくやっていたTANGRAMの永倉さんに実験の様子など話していたら、それを聞いた矢吹さんがめっちゃ気に入ったとのことで、なにか関わりたいと申し出てくれた。もともと動画を作ってPRしていく必要があると思っていたので、「少しになると思うけどお金払うから映像とってくださいよ」と頼んだところ、「お金なんていらないから関わらせてくれ」との返事。いやいやそれは申し訳ないということで、だったらKAPPESのメンバーになりませんかということに。メンバーになれば手柄が共有できるので、お金抜きにコミットするということも違和感がなくなる。MOMENTum以降もなにか作るかもと考えると違う職能が増えるのは歓迎しかない。

同様に音楽もほしい。映像にも音がほしいし、会場でも音がほしい。そこでもともと知り合いの高橋琢哉さん(Oyster)を誘った。メンバーとしてコミットしてもらって盛り上がるというフォーマットを気に入ったということもあって、高橋さんを誘い快諾をいただいた。

Saloneに展示する時点では5名でエントリーしていたが、KAPPESとしてはフルメンバー8名ということになったのがこのときだ。

撮影

TANGRAMの助けを得て、告知映像を作ろうということになった。スタジオを手配してもらって撮影。これは正直盛り上がる。

この告知映像、めっちゃしびれる。さすが矢吹さん。そして音楽も最高。さすが高橋さん。

いよいよミラノ

安藤さんの完璧な輸送段取りによって送り出されたMOMENTum。家具でもなんでもない謎の四角いマシーン。ワクワクとドキドキのなか、いざミラノへ。

どう考えても会場に入ってからの日数では不安があったので、一旦ホテルで組み立てることに。ホテルと言ってもウィークリーマンションみたいなところで快適な場所だった。

そして会場へ

KAPPESは全部大文字だよと思いながらも、自分たちの名前があってなんか嬉しい。

なんだかんだの数日で完成。しかもやや前のめりすぎる我々は、サテリテアワードエントリーのために、もう一台完全に同じスケールのものを使ってエントリーしたので、合計2台作った。。。

これがもう一台のMOMENTum

大盛況

すごい多くの人が気に入ってくれたようで、「これはなんだ」という感じで沢山の人が立ち止まってみてくれた。イタリアの人たちはすごく大げさに褒めてくれたりする。「今年のサローネで一番だわ」「おめでとう」とかなんかすごい。うっとりと眺めてくれる人の表情もあり、正直めっちゃ気持ちよかった。

我々のブースは人だかりが続き、これはアワードにも食い込めるのではないか!?とか思っていた。

アワードの結果

結論から言うと、だめだった。。

前評判があまりにも良かったので、運営側に「どうして我々はだめだったんだ」と聞いてみたところ、「あなたたちのはとても人気だし良かったんだけど、家具じゃないから」との解答。おぉ、やはりか。。たしかに家具じゃないしなんでもない。。謎の物体だ。そりゃそうだという気もする。。

収穫

ミラノサローネサテリテに出したことで、数々の得たものがある。

・目立てた
・他のサテリテに参加してる出展者とつながった
・パリのメゾン・エ・オブジェの特設ブースで展示しないかと声がかかった
・同時期開催のパリでの展示に出してくれないかと誘われた
・マルセルワンダースに声をかけられた

はっきり言って興奮しかない。これは来たと思った。

MONGOOSE STUDIOのときは小さいプロダクトとして作品を作っていたが、そのやりかただとせいぜい2~3万の売価でいくことになる。原価が2~3千円の世界だ。それは流石に作りたいものは作れない。利益がでないけど売ってみたこともあるが、本当に利益も出ないしやりがいもない。

一方でKAPPESのやりかたは、MOMENTumは500万以上で売るプロダクトになり得ると思った。仮に500万だとすると20台売れば1億円だ。1億円あれば、開発費に3千万かかって、20台制作に3千万かかったとしても、なんとか回りそうだ(メンテはリスクしかないが)。適当に考えていくと、こっちのほうが勝算があるような気がした。その路線にのれるのではないかと、勘違いするには十分な収穫だった。

さて、ここから先はまた次の機会に。


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