夢を見る。時々。(10)

 久しぶりに友人に会った。最近の変化について話をすると、彼女はその話がとても不愉快そうだった。
 彼女はどんな気持ちで、その話を聞いていたんだろう?
 彼女のその様子に胸が痛くなって、まるで薄汚い人間に自分が成り下がったような気がして、とても悲しい気持ちでその日、別れた。
 自分を肯定しようなんて気持ちは会う前から全くなくて、ただ、友人として彼女に話を聞いてもらいたい気持ち。この人は、私を見てくれるのでは。と期待がいつもあって、それに応えてもらっていたのだ。というのもそこで当たり前でもないのか。とふと我にかえった。
 彼女は、私の話に興味が無いようだった。他の何かに気を取られているような様子で、心の落ち着かない様子にこちらまで心が散漫した。
 出てくる言葉、出てくる言葉がとてもとても冷たくて、遠くて、私はふとふとその言葉に凍りついてしまった。
 目線に私は、居なかった。
 このままでは壊れるぞ。と目線に入ることを辞めて、私は心を、パタンと閉じた。
 彼女の話に話を合わせるだけで精一杯の心地で、何かに怯えた様子の彼女に、私の心まで頑なになってしまいそうで、彼女の心に溢れている恐怖が、私の中にも入ってくるようだった。
 語りかける言葉の何一つも、彼女の心には届かない。というより、あえて届かないように、彼女はしていた。
 この変化は、潮時。
 と不思議と会う前から知っている感覚を、偽物であって欲しいと信じたくて私は今ここに来たのか。と彼女の美しい横顔を眺める。
 残念な事に、予感はいつもだいたい本物なのだ。
 どんなに今まで通りを期待しても、バランスはちょっとの事で崩れてしまう。少しだけその時間を先送りにする事が出来るだけで、離れてしまう未来しかないのが、不思議とわかる気配を前に、私はどうすることも出来ないし、どうかしようともしない。
 自分の人生のお話でないと、なんとなくわかるし、自分の人生を進んで行って欲しいと感じるから。
 ずっと後できっと彼女は、選んだことに気がつく。
 私の不在にその時あれ?と不思議さを感じたりするかもしれない。
 けれど、彼女はその世界で生きていく。もう迷いたくない事が、彼女の願いならば、私はその場から姿を消さなければ。
 私は迷うし、彼女がいらない事を、これからも言い続けてしまうし、不器用にしか生きていく事も出来ないし、そうやっていつも自分の心と向き合いたい。
 それが生きる中で、私にとっては最大の幸せで、美しさだとわかったから。
 彼女は美しかった。それは答えだ。
 誰かが決めてくれた様々な常識、教えだの、世の中には色々とあるけれど、私はあなたと話がしたかった。
 あなたの話が聞きたい。だから、あなたが話すのを辞めるならば、私も何も話さない。自分で考えるのを辞めるのならば、私はその邪魔をしない。
 あまりのショックにぼうっとして、駅前のビルの中のエスカレーターで意味もなく上の階を目指して、見つけた本屋をふらついた。
 目の前にある本棚の文字が一つも頭に入ってこない。本を眺めながら、考えているふりを続けて、何か予定があるようなふりを続けた。
 さっきもらったプレゼントを、投げ捨ててしまいたいような気持ちに駆られながら、トイレに行って、さっき食べた昼食を排泄する。
 もらったものは、コロナの影響で世の中に浸透した誰かにとっての必須品だった。私は持ち歩く習慣すら、結局一切身に付かなかった。
 身を守る事で美しくなる人も居るし、磨かないと美しくなれない人も居る気がした。私は磨かないと、美しくならないだけ。それだけのような気がした。
 私は誰と話していたんだっけ?
 美しい彼女はもう私の知らない人だ。
 知っていると思いあがれば感じてしまう違和感を私は捨てて、彼女を静かに忘れていく。
 私が変わったのだ。けれど、私たちの根本は一切変わってもいない。
 また、新しくいつでも始められるように、私は全部忘れていく。
 そしてまた都度選択をする。
 知りたいことと知らないことで世の中は作られている。
 
 

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