【2023.1.14】 好きなものを意識する

 コロナの緊急事態宣言明けにどうしても食べたくなって買いに行ったものがミスタードーナツのハニーディップだった。特に自分の好物であった覚えも、深い思い出があった記憶もなかったので、食べたくなった事に当の本人
が1番驚いた。
 願いを叶えるべく、ドーナツを買いに行きながら、人間の味を覚えた熊は人間しか食べなくなるらしい。と言うエピソードを思い出した。夫が一時期何故か熊に興味を持っており、熊が起こした事件の本を読み漁っていたのだった。彼はとても表情豊かに、熊が起こした凄惨な事件の話をしてくれた。そうなんだ〜。と相槌を打ちながら、なぜ熊なのか?と私は彼の顔を眺めていた。
 のんびり歩いて20分くらいの距離にミスタードーナツがある事に感謝しつつ、夫と2人久しぶりの外の空気を満喫する。人気のない場所ではマスクを外して空気を吸う。久しぶりだとやけにありがたい感じがして、空気に味があるような気もした。
 見慣れた看板というのは嬉しいもんだなぁ。と店のドアを開けるとショーケースに並ぶドーナッツ達。ふわふわした甘い香り。1家族あたり1名のみの来店だったので私が代表になり、トングとトレイを手に夫のいつものやつと私のハニーディップとその他気になるものを素早く選ぶ。
 家を出る時は、ハニーデップだけ食べられたらこんな日は幸せなんです。と思っていたのに、10点ほど購入していた。
 店の外で待つ夫にお待たせ。と言うと、私の顔を見た夫は、ポンデライオンって自分のたてがみ食べて生きてるんだってさ。と言ったのだった。
 ホラーすぎる事実だった。しかも食べ尽くすと尻尾が膨らみ、それを再びたてがみにすることができるらしい。これはあまりにも怖すぎる。たてがみ目当てに近づいてくる人がいるに違いないし、考えれば考えるほどその生態は謎に包まれ過ぎている。
 家に着いてコーヒーを入れ、お昼ご飯にドーナッツを食べる。ここからまた日常に戻っていくのだろうな〜。となんとなく考えていた2020年5月末から、コロナはまだ続いていて、もう2023年に突入してしまった。
 私は東京での暮らしを手放した。歩いて行ける距離にもうミスタードーナツはない。やかましい街の音に悩まされることもなく、静かな日々に清々している感じもあるのに、どんよりとした雲がずっと頭の上にある。
 ドーナツを見つけると雲の切れ間から一瞬光が差し込むような気がする。
 最近有名な熊が居るんだけど知ってる?と夫が言った。
 コードネーム、OSO18は謎が多いらしい。人目に触れず、襲った獲物を食べない事もあるところから、ハンティングをただ楽しんでいるだけの可能性もあるらしく、人間の作る罠も見破る学習能力が高い熊らしい。
 ただ一時期熊が流行っていたわけではなくて、好きだったのか。と言う驚き。
 OSO18も人間を食べた事がある熊も。
 獲物を見つけると雲の切れ間から一瞬光が差し込むような気がするのだろうか。
 そして夫も熊の生態を知るたびに光を浴びているのだろうか。
 恐怖の対象だったポンデライオンが、なんだか尊い生き物のように感じられてきた。
 

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