並んでみる映画のこと

 お盆になると、いつもの家族が元の家族に戻りながら、また新しい家族を作る時間が訪れる。うまく波に乗らないと、あれ、私ってどんな人だったんだか?と自分のままでその場に行ってしまい、途方もなく苦労をする。だからこそ、下準備というのが家族に戻って家族を作るって作業には必要だ。
 今回は、家に向かう途中にあまりにも好みの音楽を聴きすぎたことが影響したようで、ぼんやりしたまま、頭が遠くの方を浮遊してしまっていて戻ってこなかった。このキャラクターでは、上手くいくわけがないとわかっているのに、家について、こんばんは。と挨拶しても、私が一向に喋らない。
 全くしゃべろうとしない自分に、いい加減喋れや。面白い話しろや。と心の中でもう1人の自分が、私の両肩を両腕でつかんで、ブルブル揺らすが、軽快なおしゃべりが全く出てこない。困ったのだ。
 キャラクター崩壊してるって。なんか落ち込んでない?って聞かれちゃうよ。と、多分感じているのは私だけなのだけど、義理の家族の中、私はうまく返せずにうすらぼんやりとしたまま、宙を漂ってしまっている。
 こんなに正直になれたのはいつぶりだろう。とか感じながら、高級牛タンをもぐもぐ口に運んでいる場合ではない。そういう事を感じるタイミングでは、おそらく今は全くないのだ。
 幽体離脱したまま、締めのケーキを食べ終えた頃、義理の姉の娘たちに、あ!と思いついて、彼女たちの好きなアイドルの話をしてみた。
 すると彼女たちは黄色い歓声をあげて、わいわい言いながら、そのアイドルの曲を楽しげに聴き始めたのだった。
 入り口見つけた瞬間。
 そこからは、彼女たちに最近のアイドル事情を聞いて、一緒に動画を眺めて、自分が好きなタイプについて熱く語った。
 自分のまま、役割もすっかり抜け落ちているが、うまいこと空気に溶け込んだ。危ない危ないと胸を撫で下ろしながら、大騒ぎしていたら、普通に義理の祖母に子供たちと一緒に怒られた。
 改めて周辺を眺めてみると、私はちゃんとちょっと浮いていた。
 20個以上歳の離れた子ども達と同じテンションは流石に違かったのかもしれない。だけど、とても楽しかった。そしていつもこうなんだよな。とがっくりとくる。
 子供とただ好きな話を思い切りしている方が楽しくて、大人が相手だと緊張してしまう。大人というより、大人っぽい人に緊張してしまう。
 そしていつも、私はなんで大人に普通になれないのか。と悩んでみてしまう。
 一晩眠っても、やっぱり子供と一緒にいる方が落ち着くので、もうどうにでもなってしまえと子供達と歯を磨き、子供達のやるゲームを眺め、子供達とダイエット機器で対決をして、子供達と映画に行くことにした。
 クレヨンしんちゃんの映画には空気階段が出ていて、途中で気が付いた私のテンションはすごく上がった。
 子供達はポップコーンを食べながら、炭酸ジュースを飲んで、静かに映画に見入っている。照らされた横顔を眺めていると、すごく幸せな気持ちに自分が包まれているのに気が付いて、しかもぐぐぐとお腹の底から感動が込み上げてきて、泣きそうになった。
 子供と観れる映画を作ってくれている人って素敵すぎるな。と波は更にまたやってくる。内容だって、ただただ面白かったね。と席を立てちゃうような内容じゃない。しっかり腹の底にずしんと来るのだ。
 おい、何やってんだ。お前。と冷水をバケツでぶっかけられたくらい、衝撃があった。
 夢を与えようとする。嘘をつかないで。その背中で夢を語る。そんな事が私も出来たい。
 エンドロール。サンボマスターが歌っていて、それを並んで聴いている。それぞれの目線で、それぞれがいろんな事を感じているっぽい。
 音楽が終わって、2024年の予告がどどんと流れる。こんな感じに期待させるんかよ。となるほどね。みたいな気持ちでいると、子供達は一斉にこちらを観て、来年の内容に期待を膨らませて、一緒に行かない選択肢なんてある訳ないよね?位に目をキラキラとさせる。
 眩しさでまた込み上げてくる。
 ずっと変わらずに続いているものがある事がどれだけ、人を癒やしたり、励まし、繋げたりするのか。ちょっとだけ驚きながら、急ぎ足でトイレに向かった。込み上げてきたのは涙だけでなくて尿意もだった。
 しんちゃんが友達だった頃があった私は、体が大きくなって、自分で出来ることも少し増えて、大人になったつもりだったけれど、憧れていた大人には全然なれていないのだった。
 それじゃあ、憧れた大人ってなんだ?
 思えば、大人になりたくなかったのかもしれないし、なり方も分からなかったのかもしれない。
 だから、ただ歳を重ねて大人に見えているだけで、私はまだ大人じゃなかったのか。
 そりゃ大人と話が合わないに決まっている。大人が大人になるために大切にするものを一つとして大切にしようとしなかったし、明日の事を検討する。という機能も著しく低かった。
 これから、私は大人になってみたい。定年退職というやつまであと20年ほどある。成人してから、仕事はいくつかやってきて、今が1番好きな会社に属せている。結婚しようと思った人と結婚して、時間をかけて仲良くなった。積み上げたというほど、大した功績は何一つないけれど、探してたし、見つけたものとは自分なりにしっかり向き合ったから良い20年だった。
 私は自分なりに、成長する。決めた。
 
 


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