誌『ある少年』
少年は自分を特別だと思っていた。
周囲との見えるものが違って思えたから。
周囲との感じるものが違って思えたから。
それは良くないことだと周囲に言われた。
お前は普通のものを見て普通の感性を持つべきだと。
はみ出すことは良くない。
違うことは良くない。
けれども少年は周囲に従えなかった。
自分は特別だと思うことしかできなかった。
違うことの代償を、支払う事への警戒などなかった。
自由でありたかった。
様々な価値と交わり、刺激を常に受けていたかった。
様々な人と交わり、自分が何処にいるのか知りたかった。
現にそうしてきた。
溢れかえる、血と、肉と、言葉と、音の中で。
自分は確かに特別だろう。
自分自身を生きることは他に誰にもできないからだ。
他の誰にも代替不可能なもの。
どうか私の人生は私に任せてください。
どうか私の感性は私に任せてください。
ふと同時に少年は思った。
自分は何者でもなかった。
違うことを受け入れると、代償を支払い続ければならない。
何となくは気付いていた。
違いの溝、虚ろな、欠如の交換を楽しむことには、孤独をより、深く受け入れてしまう事に署名が必要だった。
いつの間にか署名をしていた。
確かに、署名をしたのだ。
少年は同じ署名をしたであろう人達を求めた。
孤独に耐えきれずに。
けれどもその署名は、そもそも誰にも辿り着けることができない契約への署名だった。
あの、記憶の彼方にあった、特別だと思っていた孤独な少年の目に憧憬として映った光は、自由であり孤独であると同時に消失へ巡り合ったのだ。
光、音、声、文字、血、肉、骨、物質、思惟、動作、存在
消失の感覚は孤独への加速度を高め、自らの存在意識を脅かした。
自分は自由だか何者でもない。
何者でもないのに自由である意味はいずこ。
少年は焦っていたし、急いでいた。
早く自由に任せて世界を手に入れたかったのだ。
自由であり続けることに拘り続け、自らを自由で縛っていたのだ。
自由と孤独から自分を守り切ることができなくなった。
消失。
消失にすら見放されそうになった少年は、初めて頭を垂れた。
助けてください。
まさに、その時、少年は師と出会い、倫理と出会った。
少年は青年になっていた。