「お前の好きな色は何や?」 反抗

幸彦はその後もしばらく学生時代の記憶を旅していた。そのおかげでモーニングルーチンであるヨガをする時間がなくなってしまったが、そんなの些細なことだ。あえてやらない日を作るというルーチンにしようか、などとぼんやり考えながら、寒さを紛らわすためにあえて布団を思いきり蹴飛ばし、起き上がった。

幸彦は人と比べてよく頭が回る方だ。これは幸彦自身がそう思っているだけだが、あながち間違いではない。幸彦は幼い頃から本を読むのが好きだった。国語の教科書は、どうしてこんなに字が大きいんだろう。読みづらい。家に小説がたくさんあった小学生の幸彦にとって、国語の授業はひどく退屈だった。音読の時なんて、みんな平気で読み間違える。そう読み間違えたら意味が全く異なるのに、何でみんな変に感じないんだろう。読むのも遅い。もうふたつ前の出席番号のあいつが読むまでに、2周目に入ってしまった。幸彦は活字を読むのが得意だった。本を流し読みすれば、大体の流れは掴める。このセリフは誰が言ったか、何故言ったかなんて全て書いてある。幸彦は中学校の国語のテストで、90点以下は一度も取らなかった。むしろ50分間も設けられた長すぎる制限時間をどのように潰すかをずっと考えていた。そんな幸彦は一度99点を取った。3回見直したのに間違いがあったなんて。間違えたところに目をやると、『小さい「い」が少し大きい。』そんな理由で減点されていた。幸彦は苛立ちを隠せなかったが、面と向かって教師と口論できるほど勇ましくはなかった。それから幸彦は、テストで回答を全て埋めた後、試験監督が見ている目の前で全て消し、余った時間でもう一度、至極丁寧にゆっくりと答えを埋めた。それが幸彦にとっての復讐だった。幸彦にとっての復讐の成功は、相手が実際にダメージを負うのを見ることなどではなかった。彼はいつも自分の中の敵に対して反抗し、それによって幸彦自身の反抗欲が満たされたのをもって成功としていた。きっとその教師は何とも思っていなかっただろう。しかし、それで良かったのだ。幸彦は常に自分の気持ちを優先した。そのため、幸彦はこれまで変に喧嘩を売られることもなかった。

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