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つれづれ 其之一


表では雷様が鳴っている。こんちは、凡生庵です。
暑うございます、突っ立っているだけで汗が流れます。どうぞ皆様水分塩分補給お忘れなく。
決まった方針が今のところ無いので取り敢えず思い付きでやって参ります。


このくそ暑い中、多層構造の葛の葉ジャングルでありんこも働いておる。


この時期は虫も鳥も忙しない。食ったり食われたり生まれたり死んだり、とにかく忙しい。
草木も同様、信じられないスピードで繁茂する。
お天道様に憚って下ばかり向いて歩いていると、公園や緑道なんかではことに葛が目につく。
昔はこの葛の根っこを臼でパンパンと突いて、水に晒して澱粉質を採った。
くず餅、くず湯、餡かけ、夏の時期なら見た目に涼しいくずきりやくず饅頭なんかで、くず粉は年中活躍する。
但し現在スーパーなんかで「くず粉」と銘打ってあるのはほぼ別の澱粉質で、今手本にある「久寿湯」の箱の裏っかわには馬鈴薯澱粉が主と書いてある。

本草綱目を紐解いてみると、吉野葛などは葉一枚の大きさが一尺(30cmくらい)を超えるという。マジか、見てみたい。蔓は藤蔓などと同じく編んでうつわものなどにし「フヂゴウリ」と呼んだらしいが、今も産業的に作られているとは思えない。また、蔓の繊維を織り上げた葛布は、掛川の特産品として作り続けられている。
興味のある人はグーグル先生にお尋ね下さい。

そんなふうにあっちこっちで頼りにされたり邪魔にされたりする葛、古くから親しまれ多くの歌に詠まれて来た。万葉集にも二十一首あるらしい。
けどもサブカル界隈で一際有名なのはこれじゃなかろうか。

恋しくば尋ね来て見よ和泉なる信太の森のうらみ葛の葉

浄瑠璃「蘆屋道満大内鑑」の中で葛の葉という女性が詠む歌である。
歌を知らなくとも道満と来れば宿命のライバルとして連想されましょう、葛の葉とはみんな大好き安倍晴明のお母ちゃんの名前。彼女は伝承では信太の森に住む白狐であったとされる。

歌は庭先の菊に見惚れていた葛の葉がうっかり尻尾を出していたところを幼き日の清明、童子丸に見られ、出て行かざるを得なくなった母子別れの悲しいシーンで詠まれる。詳しい解説は他に沢山あるので省く。

葛は蔓部と同じく葉っぱの裏側が繊毛で覆われており、風が吹くと翻り、白っぽい裏側がひらひらと見え隠れする。
故に葛はうらみぐさ(裏見草)などとも呼ばれる。
放っておけばジャングルになるんじゃなかろかとも思われる元気いっぱいの植物だが、葛を目にするたび「裏見」が「うらみ」に掛かった、このなんとも切ない歌が思い出され何となく寂しい。

だって菊がきれいに咲いていたんだコン。


ところで本日七月七日は七夕様、笹は飾ったか。短冊に願いをしたためたか。
ここぞとばかりに私利私欲を銀河の彼方に向かって掲げよう。
牽牛と織女のお話もこれまた切ない伝説ですが、暗いばかりじゃイヤンなので景気良く(?)一陽斎豊国の三枚続きでお別れ。


 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1313357


天の川を渡って「モー疲れた」な顔で休む牛が可愛らしいのう。
年に一度の逢瀬を楽しむ二人…の横に誰このデバガメじみた変なおっさん。

ごちゅうし〜ん!ごちゅうし〜ん!

その名も「夜這い星」。なるほど、それでこんな下卑た顔。
…と、変な合点が行ったところですが、夜這い星とは流れ星のことなんですって。こちらは歌舞伎の「夜這い星」、後に改題して現在は「流星」という愉快な演目を表した絵だそうで。
演目について詳しいことはネットに聞いてくれ。

それにしたってこの「夜這い星」君の扱い。物欲しそうなこの表情よ。
こういう風に生きていたいもんだ。
ちゅうことで今回はこの辺で。
どちらさんもどうぞ雷様におへそ取られませんように。くわばら、くわばら。


令和六年七月七日  凡生庵


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