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良い偶然を起こす人/起こせない人

私は35年間グローバル人材の育成の仕事に携わってきた。そして、一昨年2000年に創業したグローバル・エデュケーションの代表を退任し、今は主にワークショップの講師やプログラムの開発に時間を費やしている。

そして、昨年から、このブログにも何度か書いている「gALf(grit- Able-Like-foresight)」と名付けた「成功するためのキャリア論」のワークショップ講師や講演の仕事が増えてきている。

gALfに関しては、現在執筆中で、あと数ヶ月で出版できるめどがついてきた。そして、この本を書きながら、そしてワークショップでご参加者と対話を深める中で、改めて確信してきた事は、世の中には2種類の人間がいると言うことである。

それが、「良い偶然を起こす人/起こせない人」なのである。

20代30代の頃は、個人間の能力にはそれほど大きな差異はないだろう。
特に日本のように、弱まりつつあるとは言え、終身雇用、年功序列が基盤となる社会においては、周囲からの同調圧力も強く、必要十分な能力を持っている事、あるいは組織の中で、中の下以下は好ましくないが、中の中以上のポジショニングは居心地が良いこともあり、さらに上を目指す気持ちも見出せない。それで十分に幸せだった。先進国においてはごく普通の社員間の健全な競争を曖昧にする社会(例えば年功序列)においては、スティーブ・ジョブズやイーロンマスクのような異能人材は出現は期待できない。

この社会構造は、今の日本にとって、真剣に取り組むべき課題であると私は思う。そのことについてはまた改めて書かせて頂くことにして、先に進めたい。

ただそんな社会においても、50代60代になってくると、それなりにその人の人生の質に差が出てくる。

人生の質の定義は、人によって異なるであろうし、客観的に見て人の人生の質の高い低いを軽々しく判断してはいけないかもしれない。

ただ、そうはいっても冷静に観察すれば、50代からを経済的にも精神的にも充実して生きる人と100年ライフで寿命が伸び、年金が先細りする中、老後に不安を抱えながら生きていく人がいるのは事実である。

人生/キャリアについての本を執筆するにあたって、私はここ数年、以前とは違った角度で周囲の人たちを観察するようになった。
特に50代以上の人たちの中で、人生の質が高いと思われる人たちは、その人たちの人生のストーリーの中に、「良い偶然」が繰り返し起きていることを発見した。
そしてその逆も然りであった。「悪い偶然」が繰り返し起きて、先が全く見えなくなってしまった50代以上の人も多い。

それでは、どんな人たちに、「良い偶然」が起きるのだろうか。
それをフレームワーク化したものが、gALfなのである。

「gALf」の中核の考え方は、「Able(できること)を大きくする過程で、本物のLike(好きなこと)が出現する」ということである。
AとLが大文字なのは、この2つの関係性が最も重要だからである。

世の中には「Like(好きなこと)を仕事にしたい」と考えている人は、少なからずいる。

好きなことを仕事にしている例としては、野球の大谷 翔平選手がいる。子供の頃から野球が大好きで、いまや押しも押されぬスーパースターである。
スポーツ界だけではなく、実業界においても、同じように好きなことを仕事にしながら輝いている人はメディアに多く登場する。
そして人々は、「いつか大谷選手みたいに、あるいは〜さんのように好きなことを仕事にしたい」と心の中でつぶやく。

ただ私は、大谷選手やセレブリティーに自分を当てはめて、「好きなことを仕事にする」方向性は、冷静かつ注意深く考えるべきだと思うのである。

天才がとてつもない努力を重ねると、大谷選手になるのであって、天才ではない人が、そこそこの努力をして「自分の好き」を仕事にし、充実した人生を送ると言うのは「間違った掛け算」なのではないかと思うのである。

それでは、天才ではない人が、人生を成功させるにはどうしたら良いのだろうか?
それが今回私が書きたい「良い偶然を起こす」と言うことなのだ。

例外もあるのであろうが、私は20代30代40代と「好きなこと探しの旅」を続けてきた人に「良い偶然が起きた」の見たことがない。

「良い偶然が起きる人」の特徴は、Able(できること)を大きく、深く、広くしていく中で、自分の本物の仕事に出会っている。

わかりにくいと思うので、簡単な例を使って説明したい。

それまでは仕事は仕事であると割り切り、好きでも嫌いでもないが、そのことで対価を得ているプロとして努力し働いてきている人が、ある時クライアントから心から感謝される瞬間に出会う。
あるいは自分の技術が、他の人に比べて圧倒的に高いことに気づき、周囲からも賞賛され始める。
この瞬間に、人はこの仕事は自分にとって天職なのではないかと感じるのだ。
この瞬間までのプロセスは、人によってその期間も努力の量も千差万別である。ただこの瞬間に感じた「感情」は、その人の人生にとってしっかりとした土台になるものだ。

なぜならそのプロセスの中で、紆余曲折もあり、挫折もあり、そこを抜けてきて、どこかの瞬間でそのことに報われる体験をするからだ。
すなわちそこで、その人にとっての本物のLikeが見つかり、さらにその分野で努力をして、LikeがPassion(情熱)に昇華していくのだ。そしてそのPassionは、更なるAbleを大きくする動機になっていく。

この謙虚で人生を前向きに積極的に生きるサイクルが回り始めている人に
、周囲が感動・共感を覚え、人が集まり、良い偶然をもたらせてくれるのだ。

まとめると、今回私が申し上げたい事は、「良い偶然起こす」ためには、自分のできること(Able)を大きくすることを起点にするという考え方だ。
Like(好きなこと)を起点にして、Able(できること)を大きくしていく考え方も否定はしない。

しかし、多くの人たちがその旅路の後半において、20代30代にAbleを磨き本物のLikeに出会った人たちから、大きく遅れをとってしまったことに気づき途方に暮れてしまうのだ。

人生は短い。「光陰矢のごとし」を実感する年齢に私はたどり着いた。

もしあなたが天才で、やりたいことがビビットに頭に浮かんできて、そこに向かってつき動かされるように努力をするタイプではなかったら、「好きなことを仕事にしよう」という甘言に気をつけよう。

私の時代には、Able(できること)を大きくするためには、理不尽なことに耐えたり、もう次の仕事に行ける準備ができているのに、年功序列に阻まれたりしたものだが、今は違う。
知識やスキルは、ネットでコストをかけずに学ぶことができる。社会は才能を求めている。才能を集められない会社、潰す組織は滅びるだろう。

実直、素直、真面目だがパフォーマンスの低い人材が定年まで生き延び、年金をもらって老後を無事に過ごせたのは、高度経済成長期とその残り香が残っている時までだ。
もうそれが終わってしまったことを、私たちは受け入れ、今まで経験をしたこともないようなスピード感にあふれる、変化の激しい時代を楽しみ生き残ることが求められている。

それが、Ableを大きくすることから始める「gALfな生き方」なのだ。

それにしても、私のようなデスクワークの嫌いな人間には天国のような時代が来たものだ。スティーブ・ジョブズのおかげで、このブログも山を見ながら、iPhoneに話しかけて書けてしまう。写真の自撮りもiPhone。一昔前なら、一眼レフのクオリティーだ。

ジョブスもスタンフォード大学の卒業生に向けた言葉で、こんなことを言っている。

Connecting the dots(点と点を繋ぐ)
「将来を予想して、点(知識や経験など)と点をつなぐことはできない。後々の人生で振り返った時にしか、点と点をつなぐことはできない。今やっていることが、将来、自身の役に立つ(点と点がつながる)と信じて取り組みなさい。」

この点こそが、Able(できること)であり、Ableの点をつないでいく人に、良い偶然が起きるのである。



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