河原
ある年、ある月の授業参観のさなか、担任の賽河原先生が教室に満員の生徒・父兄の前で失禁、ついで嘔吐した日の帰り、私は石蹴りの石に導かれて、来たことのない河川敷に辿りついた。川縁では、具合の悪そうな子供たちが物悲しげに石を積み上げている。私はこれらの、少年の陰茎のように情けない石塔、および少年たちを、力の限り蹴散らして回った。額をシャツの袖に擦り付けて汗を拭っていると、50mほど川上にある橋梁の上で、両手を後ろ手に縛った賽河原先生が欄干に足をかけているのが見えた。私が驚きの声を漏らすが早いか、「不孝者!」と口々に喚きながら、橋の両側から露店商みたいな浅黒い肌の外国人たちが先生目掛けて詰めかける。「サノバビッチ!」私は50mを5秒で駆け抜けて、橋脚の突き刺さった水面に向かって飛び込んだ。
「サ・ノ・バ・ビッチ、サ・ノ・バ…」亡者の怨嗟の合唱のごとく、水のうねりもだえる音に満ちた水中から、水面を見上げる。揺れながら浮かぶ、心に兆した不安のような影が、粘菌さながらに徐々に広がっていくのを、私は穴があくほど注視する。にわかに粘菌に丸い空色の穴が開く。穴はしばらく口を開いたままだったが、やがてヘラヘラと笑い出した。
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