見出し画像

打ち砕かれた美味の旅、そして軌道修正のための企み。

「酒肴日和 アテニヨル」2020年12月19日(土)

列車に乗って地方で味わう美味の旅。
この寂寥感を醸しつつも、かけがえのない企みは、遣る瀬ない忙しなさに襲われる12月を乗り切るための原動力のはずだった。
しかし、この日の北国は、身震いが止まらないほどの寒波と豪雪に襲われた。
列車が動くか否か、札幌駅に向かって確かめるほかなかった。
改札口付近に置かれた看板は、その企みをいともたやすく拒絶した。
改札口の上に取り付けられているモニターには、12月の観測史上最高積雪に襲われている岩見沢駅の現状を放映していた。
無駄とは思いつつ、駅員に尋ねた。
“上下線とも運休です”
そこに感情もなく、抑揚もない、まるで機械仕掛けのような返答とともに、改札口を配する空気は冷酷に感じられて仕方なかった。
つまり、列車に乗って地方で味わう美味の旅は、完全に打ち砕かれた。

このまま引き下がるにしろ、旅の軌道修正をしなければならない。
軌道修正のための新たな企みを模索すべく、札幌駅の高架下にある店に入った。

札幌都心部に点在するこの店は、そのネーミングやロゴマークからして、ターゲットを絞り込んだコンセプチャルな店であるように見受けられた。
まだ15時頃だというのに、若い客層が日本酒を思い思いに語らっている。
目的は、この店で食を完結することではない。
あくまでも旅の軌道修正の企みなのだ。
まずは、「ほろ酔いセット」を選んだ。
11時から飲めるそのセットは、日本社会の働き方の変容から生まれた形式であるのかもしれない。
ビールで体を慣らしていると、「アテ盛り5種」が登場した。
多様多彩な5種のアテは、どれもさりげなく美しく、しかも美味であった。
それらに促されて、日本酒3種を選ぶ。
豊富な日本酒ラインナップは決断の迷路の入口である。
だが、あくまでも軌道修正の企みのひとときである以上、思いつくがままに「モダン仙禽」、「南部美人」、「ニ世古」を指名した。
それぞれの特徴の微細は、語るほど理解はできない。
ただ、アテとの相性は絶妙である。
頭上から降り注ぐ列車の擦過音。
それは、なおさら列車に乗って地方で味わう美味の旅への断念という現実を突きつけるとともに、急拵えの企みを急かした。
アテの勢いに身を預けて長居することを自らに禁じなければならない。
アテが消え、そして日本酒が消える。
夕刻であった。
豪雪に影響されず、かつてない地帯へ求めて店を後にした…

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?