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多彩な料理と明朗爽快な空気を纏う。

「大衆酒場さぶろう」2021年4月22日(木)

良かれ悪しかれ、仕事の集中度が高まれば高まるほどに、昼も夜も食事の時間を削ぎ落とし、睡眠時間も縮まってしまう性格を有しているは否定できない。
この人生の中でも、幾度かその襲来を乗り越えては来たものの、加齢は作業効率や思考判断を鈍らせ、自ずと停滞の悪循環に陥る。
およそこの2ヶ月間は、自らの体力と精神、さらには自己肯定感の喪失さえ覚えるほどであった。
未来は闇しかなく、今は瓦礫で埋もれていた。
けれども、その状態も永遠に続くわけではないことも経験で知悉している。
そんな夜がようやくにして蘇る時、店のネオンは未来への一条の希望に見えてしまうのが不思議でならなかった。

少しずつではあるものの、人影の数が増えたすすきののの片隅ともいうべき場所に引き止められた。
案の定、客の少ない店内に、若いスタッフの溌剌たる声音が陰気な雰囲気を打ち破る。
無人のカウンター席のいちばん奥に座し、飲み放題1時間を告げて、メニューを覗いた。
生ビールが運ばれて来た。
心の何かを洗い流すように、1杯目を一気に飲み干し、再度生ビールを求めた。
アルコールによって沈殿していた寝不足と疲労が炙り出されてきたようだ。
まずは「刺身2点盛り」に本マグロ赤身と〆鯖を選び、さらに「ヨダレ鶏」と「白菜キムチ」を付け加えた。
魚や鶏肉と対峙し、ビールを飲み干す自由の横溢。
あらためて、何か抵抗し難かったものからの解放がさらに生ビールを急かせた。
辣油の効いた「ヨダレ鶏」と歯切れの小気味良い玉ねぎが、さらに溢れ出る食欲と飲酒欲を昂じた。
4杯目の生ビールを飲み干した後、渦巻いていた疲労感がアルコールによって消散してゆく。
ハイボールとともに「きゅうりの一本漬け」と「塩と生姜のザンギ」を使い注文した。
忘れていた日常が蘇る喜悦が漲る。
明日のことに悩まず、今のこの時を愉しむことこそが、ありきたりだがかけがえのない瞬間であるのだ。
「塩と生姜のザンギ」が現れた。
拳大の少し揚げ過ぎ感のあるザンギをハイボールとともに受け入れた。
揚げ過ぎゆえに歯応えはもちろん強烈だが、ハイボールがそれを心優しく了承した。
1時間の飲み放題は、何という短さであろう。
まだまだ寒い札幌の夜にコートは不可欠であった。
が、その寒さを実感できるほど余裕の生まれた夜に喜びを覚えた…

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