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シベリアからインドネシアへのスープカレー逃避行。

「ラマイ 札幌中央店」2021年1月9日(土)

決まって休日の夕刻に訪れる空腹は、身近な旅へといざなう。
その足取りはどこか不確かで、寄る辺なく頼りない。
薄気味の悪い街中の静寂、
足底から下半身、そして全身を覆う冷たさ。
北国の極寒は、シベリア抑留の捕虜の心境を想った。
まさかシベリアへの旅を目指したわけでもなかろうに。

寒さによる麻痺に耐えて歩いても、これといった店に出会えない。
気がつくと街中を離れていた。
そこに黄色い看板の光が辺りを眩く照らしていた。

それは、北海道の内外にその名を轟かせるスープカレー店であった。
一見するに営業している否かは、重厚な扉を開けてみなければ見当がつかない。

店内に入ると、どうやら営業しているような風情だ。
レジ前に立つスタッフによって店の奥底へと案内された。
店内の雰囲気はアジアンテイストに彩られていて、
高い壁によって各々のテーブル席は、どこか怪しげなアジトのようであった。
案内されたテーブル席は狭いおひとり様専用席らしく、どこか心が落ち着いた。
「ポーク」の辛さ10、ターメリックライスはMサイズ(300g)、さらに空腹に任せて「目玉焼き」をトッピングに選んだ。
スープカレーは、本来的に長い待機時間を要する。
が、それは永遠ではないとしても、もどかしいほどに長く感じられもした。
とはいえ、アジアを旅する気分に浸っていると思えば、それも苦ではない。


『お待たせいたしました』というスタッフの声とともに、
近づいてきたかと思うと、カレーの香りが辺りを支配した。
目玉焼きと蓮根、かぼちゃとアスパラが浮遊するその奥底で、
キャベツや人参、うずらの玉子、そして牛角煮の塊が静かに待ち構えていた。
辛さ10とはいえ至ってマイルドで、目玉焼きとの融合によってまろやかな味わいに包まれた。
具材を噛み締めてはライス、スープをすすってはライス、というスープカレーの循環の末に、
4分の1ほど残したターメリックライスを、具材のなくなったスープに投じ、
リゾット風にしてスープカレーにおける締めの流儀に入ってゆく。
“人が旅をするのは、到着するためではない。それは旅が楽しいからである。”
ドイツの大偉人ゲーテの言葉を噛み締めた。
ここは、シベリア抑留から解き放たれたインドネシアだ。
その旅は完食とともに終焉を迎えようとしていた…

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