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【人生最期の食事を求めて】大混雑の仙台牛たんの代表格に挑む正午。

2024年4月15日(月)
たんや善治郎仙台駅前本店(宮城県仙台市青葉区)

昨日の昼に食したマーボー焼きそば。
それはそれとして宮城県屈指のご当地グルメとして名高い。
けれどもその時、あまりの行列で断念した牛たんへの振り払いがたい誘引は、起床早々から私につきまとうばかりだった。

思えば本格的な牛たんを食べた記憶は、知り得るかぎり2005年と記憶する。
その際の地を転覆するかのような衝撃と感動。
そして予期せぬ仙台での暮らしとともに深まりゆく牛たんの奥義の探求。
きっと私の人生のテーマの一側面である【人生最期の食事を求めて】にふさわしいといって良い。

仙台駅

この日も仙台の空は晴れ渡り、日向に身を置くと日焼けしそうなほど強い陽光だった。
仙台駅前は平日ということもありスーツ姿が目立ったが、それ以上に同じようなスーツケース、同じようなファッションスタイル、時によっては同じTシャツやバッグを持つ若い女性の姿が顕著だった。
どうやらいわゆる“推し活”の類いらしい。

たんや善治郎仙台駅前本店

10時頃に向かった。
開店は11時だが、店の入口に置かれた発券機で整理券を確保するためだ。
いつしか置かれた整理券というシステムも、この店の人気具合が容易に窺える。
そこにも“推し活女子”らしい2人組が券売機の前で整理券を手にしていた。
次は私だった。
10番目の整理券を受け取り、とりあえず私はその場から去った。

店の近くのコーヒーチェーンでコーヒーを飲みながら、あれやこれやと整理して店からの連絡を待った。
10時55分頃、まもなく入店できるショートメッセージの受信とともに店に向かった。
コーヒーチェーンからはものの2分程で到着する。

強い直射日光で白む仙台駅前から仄暗い店の前に向かうと、奥には長蛇の列がビルの2階を占拠するように蠢いている。
整理券を受け取ったことに大いなる安堵を覚えながら待つことにした。
その間にも次々と客が訪れる。
その中でも“推し活女子”は群を抜く人数のように思われる。
「えっ、50組以上待ってるよ! どうしよう?」と友人に発しながらも、その黄色味を帯びた声音はどことなく溌剌として初々しい。

声の高い女性スタッフが店から出てくるや否や番号を叫んだ。
が、一気に客を入れる気配はない。
外からはカウンター席の空席が見えるのだが、一向に客を入れる気配を感じられない。
「10番の番号の方、10番の方、いらっしゃいますか?」
私は入口に歩み寄った。
時刻はすでに11時30分を過ぎていた。

カウンター席に通された。
それは慣れ親しんだ席だった。
仙台で暮らしていた頃、特別な想いや自分への報酬としてこの店で食した記憶が蘇る。
水が運ばれて来たタイミングで「ランチ牛たん極太・牛ハラミ焼定食」(2,200円)と「ランチとろろ」(165円)を告げた。

目前の調理場で時折、大きな炎を燃え上がらせながら牛たんが次々と焼かれてゆく。
牛たんは待つ時間が短いのも利点だ。
すると、案の定さほど待つことなくやって来る。
まずは麦めし、ランチとろろ、そしてテールスープが運ばれてきた。
そして、牛たんと牛ハラミと牛たんソーセージが盛り付けられた皿が訪れた。

ランチ牛たん極太・牛ハラミ焼定食(2,200円)、ランチとろろ(165円)


焦げ茶色と赤色とが抱き合うように静かに横たわっている。
テールスープは濃すぎず薄すぎない味わいで出迎えると、まずは牛ハラミに挑む。
箸で持っただけでその柔和な肉付きが手に伝わる。
それは口内に運んでも同じで、麦めしを促して止まなかった。
この調子でいくと、牛ソーセージや牛たんに至るならばどれほど麦めしを欲することだろう。
その懸念は見事に的中する。
牛たんソーセージ、極太と言って相応の牛たんから迸る肉汁は、麦めしを費消して止まない。
すかさず麦めしをもう1杯求め、味の付いたランチとろろを注ぐ。
白菜の漬物とテールスープで小休止も束の間、牛ハラミ、牛たんソーセージ、牛たんというローテーションを組み、仙台みそ南蛮を付けながら追い込みを入れた。

この地を訪れたならば、やはり牛たんは欠くことのできない逸品であることを完食するたびに自覚する。
“青春は繰り返す”と言ったのは、私の記憶の中ではゲーテのはずだ。
希望と失望、希求と喪失、再起と諦念という生の繰り返しの中で、次回の仙台牛たんの探訪を夢見るばかりだった。……


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