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中心静脈カテーテルのキットについて

はじめに

 私はなんちゃって総合内科医として市中病院で働いておりますので、中心静脈カテーテルを挿入する機会が多くあります。市中病院に来て、こんなにも中心静脈カテーテルを挿入するとは思っていませんでした。

大学にいる頃もそれなりにやっていたつもりでしたが、今の環境に来てから中心静脈カテーテルについて学ぶことが多々ありました。皆様の役に立つかどうかはわかりませんが、自分の知識の整理もかねて書いていきたいと思います。

今回は中心静脈カテーテルのキットについてです。「弘法筆を選ばず」、という言葉ある通り、キットなんてどれでも一緒だろ?と思われるかもしれません。

確かに、どのキットであれ挿入することはできるでしょう。問題はより安全に、より確実に挿入できるかどうかです。キットによって細かい部分が異なりますが、重要なのは穿刺針とガイドワイヤーの2つです。

穿刺針

 重要なのは「太さ」と「長さ」です。古いキットや海外製のキットだと16Gで長さ60-70mmの金属針のみ!なんてことがざらにあります。

一番挿入する機会が多いのはやはり内頸静脈と思います。体表から内頸静脈までの深さはどれくらいかご存じでしょうか?報告によってもまちまちですが、大体10mmくらいと言われています。もっと詳しく知りたい方は下記のリンクにあるCVC提言の15ページをご覧ください。

そうすると、60mmだの70mmなんて全く必要がないことになります。それどころか深く刺してしまうと、内頸静脈の下にある動脈を穿刺したり、肺を穿刺したりとろくなことがありません。

そのため、現在では35mmくらいの短めの針が入っているキットが散見されます。合併症を防ぐためには、できるだけ短い針を使うようにしましょう。

金属針とカニューレ針

 また、穿刺針は金属針とカニューレ針(内筒/外筒に分かれた針)が入っていることが多いです。どちらが良いかというと、これは意外に難しいです。
私は安全性を考慮してカニューレ針を使っています。

金属針のメリット

  • 穿刺時の抵抗がカニューレ針と比較し少ない

  • 金属針の中にはディンプル (くぼみ)が付いているものがあり、エコーで針先を追いやすい (らしい)

  • 針の横からガイドワイヤーを直接挿入できるものがある

穿刺時の抵抗が大きいと、皮膚がたわんでエコー下穿刺を行う際に見えにくくなることがあります。また、エコーで針先が追いやすいという人もいますが、正直私はあまりそうは思っていません。カニューレ針でも問題なく針先を追うことはできると思います。

金属針の一部には、横からガイドワイヤーを挿入できるものもあります。最近見なくなりましたが、シリンジからワイヤーを入れられるものもありましたね。慣れないうちは、血管に針が当たった後にまごついてしまい、針が抜けてしまったりすることがあります。

しかしながら、この針を使えば逆血が引けたらすぐに横からガイドワイヤーを挿入すればいいので、楽。。かもしれません。個人的には、ワイヤーが挿入しにくいのであまり使っておりません。

金属針のデメリット

  • 虚脱した血管に使いにくい

  • 太いものが多い (最近は細い金属針もある)

  • ワイヤー損傷のリスクがある

エコー下穿刺の本には後壁を貫くべからず!と記載しているものが多く、それは確かに正しいです。しかしながら、虚脱したぺっちゃんこの血管の場合、血管内に針を留置してワイヤーを挿入するのはいくらエコー下とはいえ簡単なことではありません。

虚脱した血管の場合、私はひとまずカニューレ針をかなり浅い角度で穿刺して、血管内に外筒が留置できないか試みます。どうしてもだめそうなときは、後壁を貫いても問題がないことをエコーにて確認の上貫通して外筒のみを残します。

貫通することを前提に刺すのであれば、安全性という意味でカニューレ針の方が良いと思います。金属針は太いものが多く、危険です。

最近では、22Gの金属針で挿入できるキットもあるようです。

また、あまり遭遇しないシチュエーションかもしれませんが、金属針がワイヤーのコーティングを削いでしまうことがあります。透析カテーテル挿入時に、何らかの理由で付属のガイドワイヤー以外を使用する際には注意が必要です。

カニューレ針のメリット

  • ワイヤー操作や、後壁をやむなく貫通する場合でも安全性が高い

  • 虚脱した血管にも対応しやすい

  • トラブルの際にカニューレを血管内に留置することができる

1番目と2番目はすでに説明したので飛ばします。3つめのカニューレを血管内に留置できる、というのがなぜメリットになるのか?

例えば、透析カテーテルの留置の際に付属のワイヤーではワイヤーが進まないことがあります。そんな際にはひとまずカニューレを根元までしっかりと挿入し、血管を確保してから異なるワイヤーを使う、、と言ったことが可能です。

また、頻度は高くありませんが、CPAやショックの患者でやむなくブラインドで挿入した際などに、本当に静脈に入っているか確証が持てない状況があると思います。そんな際にもカニューレを挿入することで血液ガス分析を行うことが可能です。

要は、いろいろな意味で安全性が高いことがメリットなのです。

カニューレ針のデメリット

正直なところ、これと言ったデメリットはないと思います。しいて言えば、付属のキットでは短いカニューレ針ってあまり見ない気がします。カニューレ針でも35mmくらいのものが入っていればいいなーと思うのですが。。

ガイドワイヤーの太さ

 次にガイドワイヤーですが、これは太さが異なります。おおよそ0.018インチか、0.035インチのものに分かれます。

0.018インチのもののメリットは、穿刺針が細くできるという点でしょう。上記のように、22Gの穿刺針でワイヤー挿入ができるというのは非常に大きなメリットです。22Gであれば万が一動脈を穿刺してしまったとしても、容易に圧迫止血が可能です。

0.035インチのメリットなんてあるのか?と思う方もいるでしょう。通常の中心静脈カテーテルから透析カテーテルへの入れ替えが必要な際に、0.035インチであれば可能なのです。なぜなら、透析カテーテルのガイドワイヤーはほとんど0.035インチだからです。

重症患者だと、治療開始時は透析が必要なくてもAKIが進行し透析 (CRRT含む)が必要になることが少なくありません。そのため、私は中心静脈カテーテルは基本的に0.035インチガイドワイヤーの入ったものを使用しています。

透析のことを考慮する必要がないのであれば、0.018インチガイドワイヤーの入ったキットの方が、安全性は高いのではないかと思います。

また、エコーでガイドワイヤーを確認する際に、0.035インチの方が0.018インチより視認しやすいです。透視を使わない環境であれば、エコーでガイドワイヤーを確認するしかないので意外なメリットかもしれませんね。

さいごに

 中心静脈カテーテルのきっとについて語ってみました。病院で決められてしまっていることが多いので、自分の好きなものを使うという事は難しいと思いますが、自分に合うものを見つけていただければ幸いです。




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