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鹿沼土(栃木県鹿沼市)と木の葉化石(那須塩原市)ジオ探訪記


2024年4月13日に、地学オリンピック日本委員会の瀧上先生が主催されているジオ観光ツアーに同行参加しました。
今回は、栃木の旅。
大谷資料館・大谷観音→昼食(宇都宮餃子)→イチゴ狩り→株式会社大張(鹿沼土採掘場および工場見学)→木の葉化石園(化石発見体験)とめぐるバスの旅ですが、私は社用のため午後からの参加。
餃子やイチゴを堪能することはできませんでした…😢

鹿沼土(鹿沼市)

鹿沼土採掘場

鹿沼土は通気性や保水性が高いため、園芸などでよく使われます。サツキの盆栽などを趣味とされている方にはおなじみの土かと思います。
私の子供の頃、父の趣味がサツキの盆栽だったため家には鹿沼土がありました。小学生の頃に盆栽のまねをしたくなり、ひとつ小さい植木鉢をもらって鹿沼土を入れた鉢にサツキの小枝を差して栽培を試みたことがあります(うまくいきませんでしたが…)。

さて、そんな鹿沼土ですが、今回は鹿沼土の採掘から販売までを行っている株式会社大張さんの採掘場と工場を案内していただきました(写真1)。
鹿沼土の採掘は掘り終わるとすぐに埋め戻されてしまい、なかなか見ることができないとのことで、貴重な経験をさせていただきました。

写真1 鹿沼土の採掘場を見学
既に採掘が終わった状態。すぐに埋め戻されるそうです。

鹿沼土は学術的には赤城鹿沼テフラ(Ag-KP)と呼ばれ、赤城山から噴出した軽石が栃木県や茨城県をはじめとする関東周辺に降り積もって地層となったものです。図1でも解る通り、鹿沼市周辺で厚く堆積していることから鹿沼軽石とも呼ばれています。
ちなみに、赤城火山からの噴出物で桐生砂というのがあるそうですが、こちらは軽石ではなく火山礫のため、鹿沼土より通気性・排水性が高く用途が異なります。
なお、このAg-KPの噴出年代ですが、古い文献では約3万年前としているものが多いのですが、最近の研究では4 万2千年〜4万9千年前という値とされているようです(小松原純子・大井信三(2020))。

写真2 (左)鹿沼軽石:そっと持たないとつぶれてしまいます
図1 (右)鹿沼軽石の分布(関東ローム研究グループ(1965)をもとに作成)

採掘場では、敷地の中まで入って観察することができました。
きれいに均された底面は鹿沼土の層の最下部にあたるとのことです。つまりこれ以上掘ると下部の関東ローム層が混じってしまい商品として使い物にならないとのことで、熟練したショベル操作が必要です。

採掘場敷地の壁面は全面露頭のような状態になっているため、堆積のようすがよくわかります。
表土の黒ボク土は約50cmほどの厚さでしょうか。根などの生物の痕跡が多く見られ土壌化しています。その下部には赤玉土と呼ばれるローム層が1mほどの厚さで堆積しています。この赤玉土も商品として販売されています。
赤玉土の層の下に1.5mほどの厚さで鹿沼土の層がほぼ水平に堆積しています。
この鹿沼土が商品として流通するようになったのは数十年前くらいからのようですが、産業として成り立つにはその埋蔵量と採掘のしやすさが重要とのことです。
前述のように、鹿沼軽石は栃木県や茨城県では至る所で観察することができますが、この条件を満たすのが鹿沼周辺とのことで、継続的に採掘して販売を行っている事業者は鹿沼市に集中して存在しています。

写真3 鹿沼土・赤玉土・黒ボク土

工場見学

採掘場を後にして本社工場に向かいます。
採掘した赤玉土や鹿沼土は、乾燥→殺菌→選別(篩掛け)などの工程など経て商品となり、農協や農家、ホームセンター、園芸用品店などに出荷されます。
今回は、主に乾燥させている様子を見学させていただきました。
冬場で2~3週間、夏場で1週間ほど乾燥させるそうです。

写真4 赤玉土(左)と鹿沼土(右)を乾燥させている様子

木の葉化石園(那須塩原市)

塩原湖成層と塩原カルデラ

鹿沼市を後にし、東北自動車道西那須野塩原ICを降りて国道400号で塩原温泉郷に向かいます。途中にある千本松牧場では桜が満開🌸 大勢の人が花見やピクニックに興じています。
木の葉化石園では化石発見体験をする予定なのですが、ここまでで時間が押してしまい間に合うかどうか…

写真5 木の葉化石園

木の葉化石園周辺は、かつて第四紀更新世の時代(約30万年前頃?)に湖であった時期がありました。これは、図2で示したように高原山が作ったカルデラ(塩原カルデラ)内にできた三日月形の湖で、これを古塩原湖といいます。
この湖に堆積した地層を塩原湖成層といい、この中に保存の良い植物や昆虫などの化石がたくさん含まれています。

ちなみに、塩原で産出する化石としては、地質学では"塩原動物群"が有名ですが、これは塩原温泉郷より東の関谷付近で産出される貝類などの化石で、約一千万年前頃の新第三紀中新世中期から後期のもの(吉川(2005))と、木の葉化石よりずっと古い時代のものです。

図2 塩原湖成層と塩原カルデラ
(地理院地図にシームレス地質図を重ねて3Dにて出力)

木の葉化石発見体験

16:00に木の葉化石園に到着。16:30で閉館となってしまうので急いで館内を見て回ります。
館内には、塩原湖成層で産出した木の葉化石の数々や塩原動物群の貝化石のほか、世界中の様々な地域から収集された化石や鉱物が展示されており、一部は販売もしています。
また、化石が含まれている原石を購入して、割ってみて化石探しを体験することができます(写真6)。今回は全員が体験する時間がなかったため、瀧上先生と私が代表で実演させていただきました。
原石を購入されたみなさん、化石は見つけられたでしょうか?

写真6 化石探しを体験
植物化石片がでてきました!

今回のジオ観光ツアーの参加者は20名。
このツアーは、訪れるところの食を楽しむという観光的な楽しみの他、普段なかなか訪れることのない(近くにあっても気づかない)ジオの見どころを専門家の解説付きで堪能できるという知的好奇心が満足できる非常に贅沢なツアーとなっており、年に2回ほど開催しています。
今回も、日本地学教育学会長の川村先生と前会長でジオトレアカデミー顧問の久田先生にご参加いただきました。

瀧上先生をはじめ先生方、また本noteへの掲載を承諾して頂いた株式会社大張さん、参加者のみなさん、ありがとうございました。

今後もまたこのツアーに参加して、ジオの楽しさを紹介したいと思います。

(参考文献)
徐 維那 ・須藤 定久 ・高木 哲, 2019, 鹿沼土の話①-採掘から製品まで一. GSJ地質ニュース,  Vol. 8 No. 11
小松原 純子 ・大井 信三, 2020, 鹿沼軽石(Ag-KP)の噴出年代. GSJ地質ニュース,  Vol. 8 No. 11, Vol. 9 No. 11
吉川 敏之, 2005, 栃木県塩原地域の中新統鹿股沢層の堆積環境変化と年代. 地質学雑誌, 111, 39-49 


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