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ジオパーク・オンライン&ガイド勉強会 #011 洞爺湖有珠山GP②の報告

この報告レポートは無料で読めます。
オンラインツアーの動画は最下部にあります(有料)。日本ジオツーリズム協会メンバーの方は無料で見られます(※2022年6月以前にご入会の方のみ)。

2022年5月15日に開催された、ジオパーク・オンライン第11回、洞爺湖有珠山GP Part.2の報告です。

第1部・オンラインツアー 報告
ツアータイトルは、洞爺湖有珠山ジオパーク 〜始まりは、崩れた有珠山から?〜
先月のオンラインツアーの舞台は洞爺湖でしたが、今回は、有珠山が海に向かって崩れてできた伊達市有珠町の大地が舞台です。
ガイドはガイド&自然体験 Sotoasobuを営むジオガイドの江川さんと、北翔大学の横山さん(地質・火山防災専門家)。

ツアーは最初「日本で1番面積が大きいのは北海道。1番小さいのは香川県。では北海道の中に香川県はいったい何個入るでしょうか?」という、楽しいクイズで始まりました。チャットには様々な数字が書きこまれ、アッという間に場が盛り上がります(正解は香川県が44個入るそうです!)

クイズの後は、今回の舞台・伊達市の紹介です。海に近いこの場所は「北の湘南」とも称される温暖な地域なのだそう。千歳空港からは車や電車で、早ければ1時間半ぐらいで到着するとのこと。結構近くて行きやすそうです!

続いて映し出されたドローン映像では、美しい羊蹄山から、前回4月のツアーで紹介された洞爺湖や有珠山(昭和新山も)、続いて「噴火湾」と呼ばれる海、最後に伊達市有珠町が映し出され、位置関係がよくわかりました。そしてここで、ガイドを横山さんにバトンタッチ。横山さんは江川さんと一緒にロープウェーに乗って、有珠山山頂に向かいます。

1.有珠町の地形を見に有珠山山頂へ
ロープウェーの窓から、白い雪を被った羊蹄山や「エゾヤマザクラ」が咲く風景を楽しみながら、山頂駅に到着。ここで「火口原展望台」から景色を眺めます。山麓に広がる有珠町を見下ろしながら、横山さんから「皆さん、この地形を見て何か気が付きませんか?」という問いかけがありました。参加者から「まだら?」などの答えは出ましたが、この時点では、まだあまり活発な返答がありませんでした。そこで横山さんが「オンライン限定の特別眼鏡」を使って、地形の凹凸だけを浮き上がらせて見せてくれました。参加者からは「凸凹」「地滑り」「流れ山」などの言葉が次々に出てきました。横山さんは「皆さん、さすがですね〜。流れ山が正解です!」と話を続け、流れ山を作る原因となった「山体崩壊(山崩れ)」の説明が始まりました。その説明が、素晴らしかったのです!なんと、ココアパウダーを使っての実験で、山が崩れ、海の中や山の麓に大小様々な岩の塊ができる様子を見事に再現してくれたのです!! 現地(有珠山の上)で、本物の景色と重ねながら、ココアパウダーを振りかけた小麦粉(?)の山が、海に向かって崩れていく様子を見せてくれたので、めちゃめちゃリアルでした!さらにその後、地図と重ねて再度、小麦粉とココアパウダーの山が崩れていく様子を見せてくれました。これはもう、衝撃的なわかりやすさでした!!(有珠山の山体崩壊は8000年前から1万年前に起こったらしいのですが、原因はよくわかっていないとのこと)

流れ山と生き物を見に海へ!
流れ山について、みんながよく理解したところで、再び江川さんにガイドを​​替わって海に移動します。伊達市に伝わるという忍法・飛雷神(ひらいしん)の術を使ってアルトリ岬に瞬間移動! みんなで体の前で指を組む忍者のポーズをして「えい!」と声をかけると、そこは…山体崩壊でできたアルトリ岬! 空から撮った写真を見ると、海の中にたくさんの小さな島があるのが見えます。このような地形が見られるのは北海道の中ではここだけで、小さな島には全てアイヌ語の名前がついているのだそうです。ここからは、オンラインツアー限定メニューで、アルトリ岬から、小さなボートで海に向かって出発します。箱メガネで水の中を覗くと美しい緑色のアマモの上に、丸いオレンジのゴカイの仲間の卵を発見!「生まれたゴカイは魚たちの餌になるのかもしれませんね〜」という江川さんの優しい語りに心地よい気分に包まれながら、さらに岩場の観察を続けると、岩の上には生のワカメや生のマコンブが!乾燥昆布はどこにでも売っているけれど。生の昆布を見られるとは…さすが北海道ですね!ワカメを茹でてショウガ醤油で食べたり、昆布を刺身で食べたりと、とても美味しそうな写真がどんどん出てきます。さらに昆布を食べて育つバフンウニも紹介されました!6月半ばには漁が解禁となりウニ丼も食べられるのだそうです!(熊本県天草地方ではヒトデの卵巣を食べるというミニ情報もありました)
モシリワコツシラル(通称〇〇岩)という面白い形の岩も登場し、何に見えるか(〇〇は何か)をチャットで参加者に答えてもらうなど、ボートからの景色を楽しみながら、海岸に戻りました。
海岸に戻ってからも、フクロフノリ、マガキ、アサリなど美味しそうなものが、たくさん紹介されました!ここには流れ山に染み込んだ雨水が湧いているため、汽水域の生き物もいるとのこと。藻場は生きものたちの産卵場になり、餌にもなります。さらに海藻が光合成をすると海中の酸素が豊富になります。流れ山が作った変化に富む地形という素晴らしい住処と共に餌も酸素も豊富にあったので、ここでは健康的で多様な生き物たちが育ち、昔から美味しい海産物が獲れたとのこと。昔々から人々は、これらを食べてこの地で暮らしていたのだそうです。(今は漁協権がなければ水産物は獲れないので、海産物はお店で!)
ここで、海で出会った岩小島のアイヌ語名の振り返りがありました。「エエンソー(水中にある尖った岩)」「モシリワコツシラル(島に連なった岩)」「オタモイシラル(砂浜の岩)」「レブウンモシリ(沖ノ島)」などなど、今まで聞いたことのない名前の数々…アイヌ語、アイヌ文化には文字が存在しなかったので、生活に密着しているものにだけ名前をつけ、口で伝えてきたのだそうです。ここで江川さんから再びクイズ出題。「岩小島に全部、名前がついているがなぜでしょう?」チャットには「漁場の目安」「船の用心」など様々な意見が書き込まれます。正解は「漁に利用していた」でした。アイヌの人々は干した昆布やなまこ、干しアワビなどを交易に使っていたのだそうです。(大陸にも送っていたそう)そして、これらを食べたり、交易に使う文化は、なんと縄文時代から続いてきたものなのだそうです! 有珠山が崩れた後の火山活動休止期に、有珠の町には縄文人が多く暮らしていたらしく、有珠の町には2000〜7000年前の縄文遺跡が30箇所以上もあるのだそう。 流れ山であるシピタルモシリも、縄文時代の墓や祭祀の場だったそうで、お墓からは11体の人骨が見つかり、南の海にしかいないイモガイで作った装飾品もでてきて、縄文時代から南の方との交易を行なっていたのが分かっているとか。「交易を行い、流れ山をお墓や祭典の場にするなど、縄文時代から人々は流れ山地形を利用して暮らしていたのですね」と、江川さんの話は続いていきます。

流れ山の町 有珠を歩く!
「次にアイヌ文化期以降、有珠の街に住んだ人々の癒しの場を訪れてみましょう」という江川さんの言葉で場面は海岸から流れ山の上に建つ、バチラー夫妻記念教会へ。この教会は、アイヌの人にとって神聖な場所であった「カムイタプコプ(神様の丘)」と言う名の丘を、アイヌのコタンの酋長・向井富蔵さんらが宣教師バチラーさんに提供し1937年に建てられたもの。有珠にキリスト教を伝道するために有珠にやって来たバチラーさんは、向井さん娘八重子を幼女にしてこの地に暮らしたとのこと。白い長い髭が印象的なバチラーさんですが、これはアイヌの人たちと仲良くなるため剃らなかったのだそうです。教会の石積みも、もちろん流れ山の石でした!

4.流れ山の公園を散策!
最後の舞台は、海岸の近くにある善光寺と善光寺自然公園です。ここにお寺ができたのは船がつけられる入江があったからなのだそう。(やはり地形を利用して建てられたとのこと) 流れ山の石が点在する善光寺は、アイヌにも倭人にも癒しの場だったとのこと。まず初めに、オオヨドツツジの鮮やかなピンク色の花が、窓いっぱいに広がる見事な景色が画面に映し出されました。あまりの見事さに「おおお〜!」という感嘆の声も。「見頃は5月20日過ぎ。すごくきれいです!今すぐ飛行機を取れば大丈夫、まだ間に合います!」という江川さんの言葉が、参加者の旅心をくすぐります。流れ山地形をそのまま残す散策路を地図で紹介してくれたあと、江川さんが好きだと言う「逆ルート」で三十三観音巡りを楽しみながら歩いていきます。有珠山が修行の山だったころ、三十三観音は有珠山に祀られていたそうですが、度重なる噴火で壊れたり埋れてしまったりしたために、こちらに移されたとのこと。 散策が始まると早速エゾリスがお出迎え。鳥の声も聞こえてきてその場にいるような気分になります。「修験者気分で歩いてください」という江川さんの声かけで散策スタート。岩の合間にいる観音様や、岩を抱え絶妙なバランスで立つ木々たちを眺めたり、巨木に抱きつく江川さんの姿に自分も抱きついている気分になったりしながら、楽しく歩いて散策を終了しました。逆ルートではあるものの無事三十三観音巡りも終え、江川さんからは「皆様にご利益がありますように」コメントがありました。
公園には、5月末は八重桜、7月末には1000本の紫陽花などの園芸種の他、野草の花々も豊富なのだそう。美しい鳥の声にも癒されました。山、谷、広場、岩などの変化に富む地形、流れ山を利用した様々な環境が、たくさんの種類の鳥が棲んでいる理由のようです。今回訪れた場所の他にも有珠町には、神社や地蔵堂など人々の癒しの場が数多くあるのだそうで「昔から人々が住んでいた証だと思います」とのことでした。

5.再び有珠山山頂へ
いよいよツアーは終了間近。
ここでまた忍法を使って「エイッ!」と飛んで、場面は山頂へ!
江川さんからは、「目の前に見られる流れ山地形を謎解くところから始まり、山、海、街、自然公園と巡ってきました。海を見下ろし、有珠山が大きく崩れたことで誕生した海の中の流れ山という環境に育まれた豊かな生態系や人々の暮らしの、ほんのさわりの部分を見てもらいました。お楽しみいただけましたでしょうか?」という投げかけのあと「有珠山が大きく崩れ、火山活動が休止していたと言われる縄文文化期、その生活様式を取り入れてはじまったアイヌ文化期。有珠山が噴火を再開してから、何度何度も噴火に見舞われながら、人々はここに住み続き、文化をつなぎ、歴史を紡いできました。伊達市有珠町の自然と人の歴史は、有珠山が崩れたことに始まっています。私たちもそれを、次の世代につなげていきたいと思います」というメッセージありました。
まさに、楽しくて心に残るツアーでした!


第2部・ガイド勉強会報告

T (テーマ)

今回、江川さんが伝えたかったメッセージ(テーマ)は「有珠地区の海の多様な生態系や人の歴史・文化は有珠山が海側に大きく崩れたことが理由の一つである。」ということでした。勉強会の開始時に、チャットに参加者の皆さんが受け取ったメッセージを書いてもらったところ、江川さんが伝えたかったメッセージは、概ね伝わっていたことがわかりました。それをもとに構成(O)・関連(R)・楽しい(E)をみんなで考えました。以下、皆さんからの感想、ガイドからの工夫の共有などをまとめました。

構成(O)
「ポイントが絞られていて、わかりやすかった」「流れ山の実験が入り、わかりやすい構成だった」という感想が圧倒的多数でした。場面の転換がスムーズでぜんぶメッセージを中心に繋がっていたので、とてもわかりやすかったようです。
ガイド江川さんからは
「流れ山がない地域の人にも流れ山を最初に理解してもらえるように横山先生に実験してもらった(実験でしっかり理解してもらわないと、全体のストーリーをわかってもらえないと思った)。人の暮らし(文化・歴史)を入れると、その前後関係の説明をしたくなりものすごい情報量(スライドの量)になった。もう一度メッセージに立ち返り、削ぎ落とし、削ぎ落とし削っていった。資料をいただくなど、世話になった人もたくさんいたので削ぎ落としは大変だった。伝えたいメッセージと繋がるか? 軸とずれないか? 膨らませすぎていないか? 流れはわかりやすいか? などを意識しながら、開始直前まで何度も見直した。できるだけどのスライドにも、キーワードである「"流れ山"があったからこそ」に繋げるよう気を配ったが、所々にアクセントは入れた。序章の流れ山実験のパートは多めに取り、ハイライトの海のシーンは楽しさで盛り上げ、教会、寺、自然公園歩きと静かに流れ山と人の繋がりを振り返っていただく構成にした。最後から3番目のスライドでは、流れ山の写真で訪れたところを振り返ってもらった。最後から2番目のまとめのスライドは、中島さんと横山さんのアイディア。あの2枚のまとめがあったことで、よりメッセージが伝わりやすかったのではないかと思う。」という貴重な振り返りが共有されました。
ガイドの横山さんからは
「江川さんが地域愛に溢れる人なので削るのが大変だったと思うが、絞り込み現在のものになった。愛は多すぎると困るので良かったのでは?」という意見がありました。

関連(R)
自分と関わりがあると感じたところは、食べ物の話題がダントツ1位でした。他に「流れ山でつながった」という人も多かったのが、火山のジオパークが多いジオガイドの勉強会らしかったと思います。他に、海の生き物、漁業が基幹産業、宗教的な文化、縄文文化、干潟体験、めぐみがあるから人が住むこと、などで「自分と関連すると感じた人」がいることがわかりました。
ガイドの江川さんからは「誰にも共通する食を入れた。仲間からの良い提案に感謝。山と海、どちらかしかない人でも関連するようにどちらも入れた。箱メガネ、使ったことある人多いのではと思い入れた」という工夫が共有されました。

楽しい(E)
圧倒的多数だったのがフィールド実験と、忍者ポーズでのワープでした!やはり「わかりやすい」ことと「自分も参加する体験」が、楽しさを作ることがよくわかりました。自然の音や可愛いイラスト、ガイド2人の分担(個性)ガイドの後ろ姿やボートに乗る時の注意などで臨場感があった、ガイドの声に癒された、お寺のコースが楽しかったなどの意見が出ました。高い山から一番低い処までのタイムスリップ感が良かったという意見も複数ありました。
ガイドの江川さんからは
「鳥の声、ボートの音などで臨場感を出すようにした。フィールド実験、忍者のポーズ、潮干狩りなどで楽しんでもらえるよう工夫した」という共有があり
横山先生からは
「山体崩壊の実験は前からやっていたが野外ではしたことがなかった。江川さんから海岸まで滑っていく映像が撮りたいと1年前に言われ、チャレンジ。諦めないで(2人で)作っていけたことが良かった。」とのコメントがありました。

その他の意見としては
「1時間があっという間!分かりやすくてとてもヨカッタ」「チャットで石の話など専門性があるフォローがあったのが良い」「分からないというところで先生に振っていた。→ガイドの基本」「横山先生は凄い武器だ」「潮干狩りは楽しいだけではなく、ルールマナーの啓発をしていることが本当によかった。キレイとか、そこで見られるというだけではなく、利用法についてしっかり語る事が良かった」「11回参加していると連帯感が出てきた感じ」など、様々な感想が共有されました。
「海の中の流れ山、船底を擦るのではないかと心配した。実際に擦るので、カヤックなどではないと座礁するかも」というカヤックガイドの方からの意見もあり、臨場感を持って聞いていただけたことがわかりました。
ガイドの江川さんからは「心を配って取り組んだポイントに気づいていただけて、伝わったのが嬉しい」との感想が聞かれガイドの横山さんからは「パワポだけでいろいろなことができることがわかった(今後も楽しいオンラインツアーができる…はず?)今回の成功の鍵は江川さんがガイドをしている人で、オンラインだけど実際のツアーに近づけたいという思いがあったからだと思う」とのコメントがありました。

お2人が長い時間をかけて真剣に取り組んでくれたおかげで、わかりやすくて楽しいツアーが完成し、みんなで充実した時間を過ごすことができました。ガイドが伝えたいメッセージが明確で、それに沿って構成したことで、多くのガイドが一番苦労する「削ぎ落とし」がうまくいき、メッセージが心に残ったと思います。「現地に行きたくなった」という意見も多く、今後もこうしてガイドが互いに学び続けていけば、日本各地のジオパークで「ガイドがいるからこそ楽しめる物語」を、より多くのお客様に提供できる日が来るのではないかと感じました。

日本ジオツーリズム協会メンバーの方は、以下のページで見逃し配信(アーカイブ)が見られます(※2022年6月以前にご入会の方のみ)。

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