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ジオパーク・オンライン&ガイド勉強会 #003 島原半島GPの報告

この報告レポートは無料で読めます。
オンラインツアーの動画は最下部にあります(有料)。日本ジオツーリズム協会メンバーの方は無料で見られます(※2022年4月以前にご入会の方のみ)。

2021年9月12日
第1部のオンラインツアーを視聴後、それをもとにガイドにとって大切な4つの要素(TORE)について考える、3回目の勉強会を実施しました。それぞれの内容を簡単に報告します。

第1部
「人と火山の共生する大地とは??」という題名のオンラインツアーでした。
今回は島原生まれの永田ゆき子さん、火山地質専門家の大野さんのお二人による"かけあい"でツアーが進むという初の試み。場所は南島原市にある土石流被災家屋公園です。内容は4つの項目に整理され、「なぜ私たちは災害の起こる島原に住み続けているのか?」の答えを探す形で進んで行きました。

①土石流はなぜ起きた?どんな被害をもたらしたのか?
火砕流と土石流の違いを、写真をもとに、わかりやすく解説してくれました。土石流は62回、火砕流9432回も起きたことを知り、多くの参加者がビックリしたようです。特に火砕流と土石流と台風の3つが同時に起こったことがあった、という話の時には、チャットが驚きの声であふれました。
火砕流は一瞬だけれど土石流による被害や影響は長い期間におよび、人々を苦しめたそう。そんな話の後で土石流被災家屋公園へ移動。埋れている家屋の外観から、農家だったことがわかるなど、当時の様子を再現してくれました。実際に現場にいた大野さんが当時のリアルな光景も再現してくれて、お話に引き込まれました。

②被災家屋のここを見ろ
家屋の上にテントをかけて保存している場所へ。クイズを交え、写真から当時の状況を参加者に考えてもらいながら話を進め、この家屋が壊れずに残った理由を解き明かしていきました。早めに(強制的に)避難をしたので犠牲者ゼロだったそうですが、ツアーに参加されていた方から「ペットや家畜は連れて行けなかったのでかわいそうだった」、という話もありました。家屋に貼ってあったシールや、そのままになっている鞄から、ここに暮らしていた人たちのことを思い描いてほしいという、ガイドのお二人の話が印象的でした。

③石の形が教えてくれること
石の形は目の前の地層が土石流か火砕流かを見分ける際の判断基準の一つになること、それが未来の火山防災対策につながるという、お話でした。噴火の最中に開発されたという無人化施工技術の紹介もありました。学習目的の小学生の女の子が、リモートで大きな工事車両を動かしている映像には、チャットが大いに盛り上がっていました!(この無人化施工技術、今ではダムサイトを造る工事現場でも使われているとのこと)

④土石流がもたらす恵みってなに?
近くの農作物の直売所に場所を移し、土石流がつくった水はけの良い扇状地で取れる美味しい野菜を紹介してくれました。「野菜の刺身、踊り食いといっていいほど美味しい」という大野さんの表現に「どれほど美味しいの?」と想像をかき立てられました(笑)街路灯がメロンというのも面白かったです。「山と海がある風景が方向音痴の自分にとって恵み」という永田さんからのお話もありました。

最後にガイドのお二人から「なぜ人々は災害の多い島原半島にあえて暮らし続けているか?」を考えることは「日本人はどうして災害の多い日本列島に暮らし続けているのか?」を考えるきっかけにつながる。普段はおいしい野菜などの恵みをもたらす扇状地は、土石流という、人間生活に被害をもたらすような自然現象の累積でできたもの。湧水や温泉、美しい景色は、人間が作りだすことが出来ない火山からの恵みである」という話がありました。
チャットには「ジオパークならではの取り組みや伝え方がきっとあるのだと、気が付かせていただきました!」という素敵なメッセージも届いていました。 


第2部
毎回のツアーを、インタープリテーションにとって大切な4つの要素「Tテーマ(メッセージ)がある、O構成されている、R参加者と関連がある、E楽しめる)」分けて考え、ガイドにとって大切なことを学び合おう!というのが第2部の勉強会です。

以下、グループワークで皆さんから出た意見と「まとめ」です。

①このツアーのテーマは何か?
日本全体災害多いのに人が住んでいるのはなぜ?(哲学)
災害の惨状なのに恵みもある(根源的なテーマ)
土石流を恵みにつなげていること
防災
災害の多い日本に暮らし続ける意味

まとめ
ガイドの大野さんは「災害は島原だけでなく日本のどこでも起こることを伝えたかった」と語っていました。グループワークでは「日本全体に災害が多いのに人が住んでいるのはなぜ?」「災害とめぐみ、防災、日本に暮らし続けることの意味」などの言葉が多くみられ、ガイドの伝えたいことは、参加者とある程度共有できたように思われます。「伝えたいことが刺さって良かった」という言葉も聞かれ、丁寧な話の展開で、楽しみながらこのような気持ちを持ってもらえたことは、災害の伝え方の新たな形かもしれません。

②構成はどうだったか?
テーマに沿って4話構成でよかった。
4つの見出しで、ストーリーがうまく出ていたのでわかりやすかった
要点が絞られておりブレずに進行していったのが良かった。
全体の構成が4つに分かれており、ミニタイトルがついていて、全体の流れがよくできていた。ひとつひとつの要素がまとまっていた。
内容がわかりやすく、行ってみたいと思わせてくれる構成だった。
会話のやり取りは聞きやすい。
場所の整理。地図で位置や形がわかったのでわかりやすかった。
ジオ物語があり、深みを感じた。

まとめ
「要点は4つ以下。4つ以上だと覚えて帰ってくれない」というのはTOREの提唱者サム・ハム氏のリサーチの結果、導きだされた数字です。詰め込みすぎず4つの見出しに沿って整理してあったことが、わかりやすさにつながったように思います。
ガイドの永田さんからは「もっと色々話したかったけど削った」大野さんからは「4つのお題を示し、全体の中で”今、この話をしている”ということがわかるように、流れを作った」という報告がありました。


③参加者と関連があるか?
「災害は、どこでも起こるんだ!」と自分も災害を経験しているだけに共通点を感じた。
災害で亡くなった方が身近にいたので、災害の話は他人事ではなく聞いた。
昔、修学旅行で訪問したので当時と現在の比較しながら聴けた。
シールとかばん、島原の話は日本の話!
昔、修学旅行で訪問したので当時と現在の比較しながら聴けた。
クイズがよかった。
水の話は、身近に感じられた。

まとめ
災害の体験や修学旅行での訪問など、昔の経験が「自分と関連のある話」として身を入れて聞く要素になることがわかります。また、クイズで画面を見て自分が答えを探すという「参加感」も「他人事」ではなくなるためにとても有効だったようです。
ガイドからは「自分ごととしてもらうため、誰にも共通する“食べるもの”を取り上げた。また災害を自分事として捉えてもらうために、火砕流でなく土石流に絞った」(永田)
「出来事にも年月日を入れるのではなく『この時何をしていましたか?』の問いや、その時代の有名な話題を取り入れるようにしている。誰にでもシールを貼った経験あるよね?ということで、シールから人の暮らしを感じてもらおうと思った」(大野)
お客様が「自分ごとと」して引き込まれるガイドをするために、ぜひ見習いたい工夫だと思いました。


④楽しめる
掛け合いが楽しかった(圧倒的多数)
質問の仕方や内容に嫌味がなく、楽しく考えられた。
永田さんの体形の話など、笑いを取り入れてユーモアがあってよかった
難しいテーマだからこそ気持ちが安らぐ写真や話し方、ユーモラスさがありがたがった。
石がおしゃべりするー「口」がついているなどの表現が楽しい。
大野さんが専門家でありながら、難しい言葉を使わず分かりやすかったので楽しく学べた。

まとめ
オンラインでは難しいとされていた“2人のガイドの掛け合い”ですが、今回は「それが楽しかった」という意見が圧倒的に多かったです。このことは、しっかり話を組み立てた上で練習をすれば、違う個性の相乗効果が生まれることを教えてくれました。ユーモア、表現の楽しさ、難しい言葉がない、などの大切さも確認できました。
ガイドからは「楽しくするためにメロンの街灯をとりあげた(永田)」「火砕流と土石流の見分け方、マニアックかと思ったけど入れた。自分はいつも目で見てわかることから、見えないことに話をつなげていくよう心がけている。例えば、石の形(丸い、角ばっているなど、目で見てわかること)→土石流(流れ方のメカニズムや概念)など。(大野)」という報告がありました。
ここにも見習いたいガイドの工夫が、たくさんありました。

ジオパークは大地の動きがわかる場所。それゆえ地震、噴火、洪水、津波、土砂災害などの災害の経験者も多く暮らしています。今回は、つらく悲しいことの多い災害の記憶を残す災害遺構を、しかも二人の掛け合いで案内するという、12回シリーズの中でも異色のツアーでした。お客様にツアー自体を楽しんでもらいながら、日本という自然災害の宝庫のような場所で、どう備え、どう幸せに生きるかを問う試みは、日本ジオパークのツアーとして、とても大切な一歩のように感じました。

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