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ジオパーク・オンライン&ガイド勉強会 #005 山陰海岸GPの報告

この報告レポートは無料で読めます。
オンラインツアーの動画は最下部にあります(有料)。日本ジオツーリズム協会メンバーの方は無料で見られます(※2022年4月以前にご入会の方のみ)。

2021年11月21日に開催された、ジオパーク・オンライン第五回、山陰海岸ジオパーク回のご報告です。
第1部のツアーの内容と、第2のTORE勉強会の内容にそれぞれ触れていきます。


第1部
「A級グルメは、海の底から生まれた? ~日本海の海底地形が産む、美味しい旅~」というタイトルで、今井ひろこガイドがお話をしてくださいました。

山陰海岸ジオパークは、3県にまたがる広域ジオパーク。世界ジオパークにも認定されており、日本海形成の歴史がみられるところです。兵庫県の日本海側で、ひろこさんの旦那さん、今井学さんが、カニが名物の旅館を営んでいます。今回は、旅館で提供されるカニについて、カニを育む日本海のヒミツ、そして美味しい美味しいカニの楽しみ方をお話しいただきました。
助っ人として、地形と地質を楽しむあの番組にも登場した松原典孝先生が、参加してくださいました。

今井さんがいるのは、兵庫県の北部、香美町というところ。導入が各地方からのアクセス紹介というところに、旅気分が漂います。

いつも食べているカニは? という質問には、全国各地の参加者から、ご当地自慢のカニがコメントで寄せられました。大きなカニの看板で皆様ご存知のかに道楽は、但馬が発祥、というマメ知識に、参加者もざわつきます。関西の人がカニを食べたい、という気持ちがどれほど大きいか、かにツーリズム、かにカニエクスプレスなどの紹介の中で感じることができました。

今井さんのいる香美町は、2種類のカニが水揚げされる近畿で唯一の町。明治からカニ漁がはじまっており、この地域にある100軒以上のお宿がカニ料理を提供しています。獲れるのはズワイガニ(松葉ガニ)とベニズワイガニ(香住カニ)の2種類。それぞれ、
 ・棲む水深が違う
 ・漁法が違う
とのこと。
深いところに棲むベニズワイガニは、カゴ漁でゲット。魚の切り身の匂いで気を引きます。資源保護のため、小さな個体が逃げられる穴がついていました。底引き網漁ではズワイガニだけでなく、様々なお魚が一緒に獲れます。こうして獲れるお魚たちは、「底もん」と呼ばれています。

カニ産業は地域にとってとても大事なもので、例えば柴山漁港では、カニ漁の解禁の前夜、軍艦マーチとロケット花火でにぎやかに出航しますし、カニの選別やセリには男女で役割分担をしながら多くの方が関わっています。兵庫県の港では、「選別日本一」を掲げ、重さや甲羅の色、脚の数などで、120種類にも選別しています。少しでも高く売りたい、という情熱の為せる業です。また、これだけ選別がことこまかだと、用途に合わせた欲しい品質のものを、間違いなく手に入れることができます。

出航の様子と共にセリ市の様子も動画で流れましたが、鐘の音が鳴り響く市場の様子は、とても迫力がありました。

ズワイガニは水深300m、ベニズワイは1000~2000mほどのところに棲んでいます。実は、香美町からはどちらの深さにもアクセスしやすいのですが、その理由には日本海の地形が大きく関わっています。

日本海は、日本列島が大陸から離れていく過程でできた海です。日本海の真ん中には、大陸から離れていく過程で置き去りにされた大陸のカケラがあります。ここが、海の中に大きな深さの差を生んでいます。また、南からの暖流と北からの寒流の両方の影響があります。南から入ってくる暖流が、北へ進むにつれて冷え、深いところへ沈んでいく、という、浅深のタテ方向の海流の動きもあります。

冷えた海流が沈んでいく過程で、酸素をたっぷりと含んで深い場所まで届くので、通常であれば生命があまりたくさん活動しない深さでもたくさんの海の幸が活動できます。これが日本海が豊かな海、「底もんの宝庫」であるヒミツのひとつ。

そして、300m以下の日本海の海の温度は、0~1℃に保たれているんです。まるで冷蔵庫のチルド室状態!(日本海固有水と言うそうです)
これが、日本海でおいしいカニが獲れるヒミツなのです。日本海は、地球が作り出した奇跡の巨大生け簀。私たちはこの奇跡の生け簀の恩恵を受けているんですね。

一口に日本海側、といっても、糸魚川ジオパーク(新潟県)などの海は、すぐに深くなり、浅いところがほとんどありません。地域の道の駅では湯がいたベニズワイガニのみが売られていて、地域によってカニの種類だけでなく、売り方の個性もあることが紹介されました。

そしてお宿に到着したところで、いよいよカニを10倍楽しむ方法を伝授していただきます。

時期によってお宿で出されるカニの種類が異なる、というのは、2種類のカニが獲れる香住ならでは。時期や天気によってカニの値段が変わるので、ニーズの少ない時期を狙ってくるとカニが大きくなりますよ、という小技は、カニをめざす人にはありがたい情報です。カニしゃぶはカニの足を3回しゃぶしゃぶ、と温まった出汁に通す「3しゃぶ」がオススメ、朝ご飯はズワイガニの雌、セコガニを入れて炊いた炊き込みご飯が楽しめるというお話では、画面いっぱいに鮮やかな写真が写っているのと相まって食欲をそそります。夕食から朝食までカニ尽くしの旅館の食事の様子を見ていると、今すぐ予約して飛んでいきたい衝動に駆られますね。更に、実際にカニを画面に映して、大きさや色合いを比べてみることで、違いがはっきりわかりました。お宿で出す予定のカニを借りてのカニ比べ、今井さんのカニを扱う手付きは慎重で、まさに日本海の宝物を扱っている手でした。

カニを通して、地域の観光産業が活気づいている様子、また、日本海のなりたちと地形が、豊かな海産資源を提供していることが、楽しく、美味しそうに語られたツアーでした。

第2部
毎回のツアーを、インタープリテーションにとって大切な4つの要素、「Tテーマ(メッセージ)がある、O構成されている、R参加者と関連がある、E楽しめる)」に分けて考え、ガイドにとって大切なことを学び合おう! というのが第2部の勉強会です。

T……テーマがあるか
今井さんのテーマは、「日本海は奇跡の巨大生け簀」。深さが違う場所があるため様々な海産資源がひとつの港で水揚げされていること、それによって地域が潤い、観光経済が回っている、というのが大きなテーマでした。更に裏目標として、「うちの地域&山陰海岸に旅行しに来てカニ食べて欲しい!」というものが設定されていました。オンラインツアーを見るだけで終わらせず、現地に来たいと思わせて実際の行動につなげる、というのがねらいです。
ここは、参加者もしっかりと感じ取ることが出来ており、「カニ食べに来てがわかりやすい」「日本海の地形の違いと生活(カニ)とのかかわりを感じた」というコメントが発表されました。行きたい、食べたいだけでなく、実際にツアーの申し込みにも繋がっています。テーマが伝わり、目的が達成されていますね。

O……構成
今井さんは、いつもセミナーなどを構成する際に、マインドマップから流れを立ち上げている、というお話が聞けました。今回もXmindというツールを使って最初に言いたいことを箇条書きにし、そこからドンドン要素を削って内容を整理していったとのこと。また、中だるみしないよう、中間の時間帯に動画を差し込む、単なるセミナーにならないよう文字を極力減らし、目次すら作らないなど、お客様を「旅」に引き込むような構成をすみずみまで行っていました。
参加者の声で一番多かったのが、「引き込まれた!」
テロップではなくしゃべりで表現されたことで、旅をしているような感覚を味わった人が多かったようです。特に、最後のカニの実食では、今まで聞いた話が全て持っていかれるくらいの衝撃を感じました。

R……関連性
「参加者の皆様、一年に1回は蟹食べるだろう。旅行も行ったことあるだろう」というところに関連付けて、カニを思い出してもらう、旅行を思い出してもらうようにした、ということでした。コロナ禍で旅行の機会が減った近年、参加者に旅行の楽しさを思い出してもらいたい、自分が旅行しているかのようにツアーを見てほしい。参加者の中には、かつて行ったカニ旅行を思い出した方もいらっしゃったようでした。
全体に流れるツアー感、おもてなしの雰囲気から、旅に参加しているように感じた、というコメントもありました。日本海の海流の話の際に、お風呂の温度差、また冷蔵庫のチルドのたとえ話をしたことで、
「ああ~、あるある! わかりやすい!」
誰もが体験する瞬間と関連づけられたところが、わかりやすさ、伝わりやすさに繋がっていました。
一部の参加者からは、資源保護の話をもう少し聞きたかった、という声もありました。人によって何がどれくらい身近に感じられるかは差があるので、全員に関連付ける、というのは難しいところですが、今井さんのツアーでは、旅に参加した感覚があったことが、いちばんの「関連」だったようです。

E……楽しいか
今井さんが参加者を楽しませたいと考えて入れた要素として、「軍艦マーチなどみんなが知っている曲の部分を動画に使う、カニを目の前で食べるという体験を入れる」などがありました。参加者の五感に訴える楽しさを上手く配置しています。
参加者はやはり「軍艦マーチ」の印象が強かったようです。他にも、「身内の話(ご主人や自分の店のこと)」、「写真が綺麗で臨場感があったこと」なども楽しかったポイントとして挙げられていました。なにより、軽快な関西弁で、笑顔で話す今井さんの様子が、参加者の楽しさにも繋がっていました。

その他
ツアー部分は一般のお客様向けに内容を作っていますが、ジオパーク、ジオ、のタイトルから視聴した人にとっては、「もう少し地質の話が聞けると思ったが」という感想が出ています。
今井さんも、「ターゲット設定がとても難しい。ジオジオした地質200%にしたほうがよいのか、ジオ知らない一般参加者に向けてするのか」と、匙加減の難しさを語っています。

「リアルツアーの場合はその場で話の構成を変更することも可能だが、オンラインは用意しているスライドに縛られて軌道修正が難しく、お客様の要望に100%応えることができない」というところは、目の前のお客様との空気を大事にしながらツアーを組み立てているガイドだからこそ感じた難しさだと思います。勉強会参加者からは、2種類のカニの味の違いや、どの料理が一番おいしいのか、といった、オンラインでは感じられない「味」について、もっと知りたい、というコメントも出ていました。

ただ、参加者全員満場一致で、最終的な感想は、「カニ食べたい!」だったと思います。最後に見せられたカニの実物の印象にすべてを持っていかれた人が多数出ており、やはりオンラインツアーといえど本物を見せるのは大事だと痛感した、カニ旅行、もといオンラインツアーでした。


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