見出し画像

ジオパーク・オンライン&ガイド勉強会 #007 伊豆大島GPの報告

この報告レポートは無料で読めます。
オンラインツアーの動画は最下部にあります(有料)。日本ジオツーリズム協会メンバーの方は無料で見られます(※2022年4月以前にご入会の方のみ)。

2022年1月16日に開催された、ジオパーク・オンライン第7回、伊豆大島回のご報告です。

第1部のツアーの内容と、第2部のTORE勉強会の内容にそれぞれ触れていきます。

第1部

「伊豆大島は、本物の椿の島だった?」

というタイトルで、西谷香奈ガイドがお話をしてくださいました。
伊豆大島のものはみんな友達、ツアーのたびに新しい発見があって、一度も飽きたことがない、趣味と仕事がほぼ同じ、という西谷さん。折り紙の椿を散りばめた背景に、生の椿の花を髪に挿して登場です。
背景の椿は、ガイド仲間が折ってくれたものだということで、とても華やか。オープニングから、期待を高めてくれます。

「今年、椿の花を見ましたか?」という質問を参加者へ呼びかけると、意外に「見た」人と「椿が周りにない」人がいて、回答がばらけました。
今回のテーマであるヤブツバキは、野生の品種で、暖かい地域には広く分布し、北海道や東北地方などの寒い地域ではあまり見られない品種なのです。
馴染みがない地域の方も、このツアーで椿を楽しんでください、と添えて、ツアーは進みます。

伊豆大島への交通アクセスですが、海と空それぞれで定期航路があり、ときどき不定期に船が出ていたりもして、行きやすいようです。
この伊豆大島は、もともと海底で活動していた火山でした。3万年ほど前に海上に出てきてからも噴火を繰り返し、今も活動を続けています。
現在の伊豆大島の姿になる前には、島の東側部分に古い火山が3つ並んでいました。活動を終えたこれらの火山が波に削られて、島の東側は崖になっています。
伊豆大島の2つの港のうちのひとつ、岡田港がこの崖のそばにあり、崖が天然の防波堤となってくれているので、船があまり欠航しません。古い火山の恵みの一つです。
今回のツアーは、この岡田港からスタート。
ここからは、瞬間移動が出来るスペシャルなバス、可愛らしいピンク色の椿ちゃん号に乗って、伊豆大島のあちらこちらを見ていきます。

「ヒューン!!」

まずは島の北西部の海岸へ。黒い岩でゴツゴツした荒々しい景色の中、強い風の音を聴きました。
伊豆大島や富士山を見晴らすことができる、遮るもののないこの場所は、風速なんと秒速10メートル以上。
海からの漂着物を見ていると、流木に交じって椿のタネがありました。椿のタネは、海水に浸けたあとも発芽することが出来る強さを持っています。伊豆大島の椿は、海を漂ってやってきた可能性が高そうです。
そして、椿の種が大好物のアカネズミや、強い風が、椿の種を島の内側へ運んでいきます。

風が強い伊豆大島で、椿は人の生活を守るためにどんな活躍してくれているのでしょうか?
椿ちゃん号に乗って移動した先は、野地の椿トンネル、先ほどの海岸から500メートルしか離れていない場所にある椿の林です。
林の傍には畑があり、椿の木に囲まれていました。
椿の根は土をしっかりと捕まえ、根も幹も強くて立派。そんな椿の林の中では、風速は秒速1.4メートル。風の強さが8分の1になっています。
椿の葉っぱは硬くてツヤツヤ、とっても丈夫。しっかりした葉っぱが、火山灰や風から人々の暮らしを守ってくれているのです。
2000年の三宅島の噴火のときには、火山ガスでダメージを受けた木が立ち枯れてしまった中で、いちばんに再生を始めたのがこのヤブツバキとツバキの仲間のヒサカキだったそうです。

椿の活躍は防風林としてだけにとどまりません。島の暮らしの中で、枝も幹も種までも、余すところなく活用してきました。

椿ちゃん号に乗って移動した先は、元町港、町の中心地。種の活用の仕方が分かる場所、高田製油所へやってきました。島には、拾い集めた種を買い取ってそれを加工する製油所がいくつかあるそうです。
ここ高田製油所では、今でも、砕いて蒸して潰す、という昔ながらのシンプルな方法で油を搾っています。100年前の機械で搾る椿油は、搾りたての瞬間、とてもいい香りがするそうです。

油は食用と化粧用に分けられます(中身は同じ)。
高田製油所のご主人に椿油のアヒージョをおすすめされ、この機会に、と食べてみたところ、
「油を食べてる感じがしない!」
と驚いた西谷さん。このとき、一緒にアヒージョを食べた土佐清水ジオパークの作田さんが、
「さらりとして油っこくない。少し甘みのあるツバキの油が、それぞれの食材をさらりとコーティングしていて美味でした」
と、見事な食レポをしてくれました。
コメント欄でも、食べた時の感想や化粧用としての使用感がどんどん並び、参加者が夢中になった瞬間でした。

西谷さんが計算してみたところ、アヒージョに使った150ccの油を採るためには、椿の種を900個も拾わないといけないことがわかりました。椿油が高価なのも、納得です。
気軽には口にできない、椿油。貴重な椿油の味をお手軽に味わうことができる「椿あげ」を、お土産にどうぞ。

次に、椿の枝についてわかる場所へ移動します。
藤井工房では、椿の木を一刀彫で切り出したお土産物を制作・販売しています。椿の枝で作られたあんこ人形は、肌が白くてきめこまやか。お化粧も映えて、たいへん可愛らしい佇まいです。
同じくらいの大きさの人形で重さ比べをしたところ、オオシマザクラとヤブツバキのあんこ人形、オオシマザクラは100gでしたが、ヤブツバキは120gと、20gも差がありました。同じ形なのに見た目も全く違い、ヤブツバキのほうが上品な仕上がりでした。

更に、幅5cmの木の年輪を比べてみると、シロダモの年輪は広いのですが、ヤブツバキの年輪は狭く詰まっていました。
このように密な木なので、炭にすると、火持ちがよく、灰も白くて上品です。いくつかの種類の炭と燃やし比べをしたら、木炭は早く燃え尽き、備長炭と椿炭は、ほぼ同じタイミングで燃え終わりました。
大きさを揃えていなかったので再検証が必要、とのことですが、椿炭は爆ぜないので室内で焚くのに向いていることもわかったとのことです。

この工房には、昭和初期のものと思しき観光案内パンフレットがあります。
どのパンフレットにも、あんこ、と呼ばれる若い女性が描かれています。椿油で髪をケアし、よく働いて力仕事までするので姿勢がいい、そんな伊豆大島の女性の美しさと、椿と三原山。これが伊豆大島の3点セットなのです。椿の花が生活に寄り添っている様子が、今も昔も変わらないことがわかります。

ここから、椿の花のことがわかる場所へ、椿ちゃん号へ乗り込んでヒューンします。
椿花ガーデンというところでは、落ちている姿まで華やかで美しい椿がみられます。
椿は他の花の花粉で受粉することで、様々な趣の花を咲かせる植物です。「無数の変種を作り出す自由がある」と、シーボルトが評した花で、4万種を越える色や形がありながら、まだ名前が付いていない椿花ガーデン生まれの品種もあるのだとか。
今年の椿祭りは1月30日から始まり、3月27日まで続く予定であることや、大島高校の生徒が世話をする椿園では高校生自らガイド役となって案内をしてくれることも紹介され、老若男女問わず椿に関わっている様子がわかりました。
(※椿まつりの予定はオンラインツアー実施時のものです。新型コロナの感染拡大に伴い、実施状況が変更されている可能性があるので、お確かめください)

そしてとうとう、椿の本当の実力がわかる場所へ!
椿ちゃん号が連れて来てくれたのは、三原山。ここ200年ほどの火山活動の中心です.。
35年前に流れ出た溶岩の部分では、まだ岩肌が荒々しく露出しており、椿はもちろん、他の草木もあまり生えていません。
さらにその前の70年ほど前の溶岩のところは、草や木がずいぶんと生えています。この溶岩に沿ってできた登山道を歩いてみたところ、小さいながらも3本のヤブツバキがみられました。
江戸時代に流れたパホイホイ溶岩の部分は、表面が滑らかなため、植物が根を張ることができず、岩肌が見えています。そのそばにも、椿の木が健気に育っていました。

更にヒューンと移動し、三原山の火口の壁が見られる場所へやってきました。
切り立った壁は、台風などで斜面が崩れていきます。2019年の台風で土砂崩れがあったある部分では、土砂崩れから約2週間後に見たところ、崩れた崖の中に1本だけ椿の木が残っていました。硬い溶岩と火山灰の層が交互に重なった、見るからに不安定な場所に、すっくと真っ直ぐ立っている椿の木。更に半年後、なんと、この椿は花をつけていました。
他の木が土砂とともに流れ落ちていく中、驚異の生命力を見せる椿の木。これだけ強い木だからこそ、暮らしを守る存在たりえるのですね。

椿の木は日本のいたるところにありますが、伊豆大島では花の美しさだけではなく、枝や実などすべてものを活用してきました。若く活発な火山島である伊豆大島。35~38年周期で活動する三原山のふもとの暮らしでは、火山灰に見舞われた時期もありました。
また、海の上に浮かぶ島には、風が絶えず強く吹いてきます。
厳しい自然環境の中で、人々が伊豆大島で重ねた歴史。椿は、人々に寄り添いながら、暮らしと歴史を守ってきた、とても大切な存在だったのです。


第2部

毎回のツアーを、インタープリテーションにとって大切な4つの要素
「Tテーマ(メッセージ)がある、O構成されている、R参加者と関連がある、E楽しめる)」
に分けて考え、ガイドにとって大切なことを学び合おう! というのが第2部の勉強会です。

T……テーマがあるか

西谷さんが今回のツアーに設定したテーマは「活火山の島で暮らす人々にとって、椿は昔も今も大切な存在です」でした。
たくさんの方が、「伊豆大島の人は椿を使いこなしている!」「椿はとってもお役立ち」「椿はすごい」といったコメントをされていましたが、のちに西谷さんは「椿のすごさ、すばらしさがメッセージだと思う方が何人かいらっしゃったのは、自分の心の中で、強い椿を尊敬する気持ちが勝っていたのが伝わっていたからでは……?」と振り返っていました。
椿を使いこなすことで、海上に浮かぶ火山島で暮らしぬくことができた、その知恵と工夫のすごさに、参加者が圧倒されてしまったようです。

O……構成

椿は海からやってきました、からスタートしたツアーは、その後椿のトンネル、木彫り細工や椿油の工場などへ場所を移していきました。最後まで話を聞いて振り返ると、ちゃんと全ての要素がつながっていることがわかります。
次から次に場所を移動し、紹介をしながらお話が進んでいましたが、ひとつひとつの要素に無駄がなく、わかりやすかったと感じた人がほとんどでした。
風や鳥の声を入れて臨場感を出す演出や、椿の一生が人の暮らしに重なっていく構成にも、わかりやすさや面白さを感じた人が多かったようです。
また、ワープの椿ちゃん号の可愛さと、場面転換のスムーズさも、参加者にストレスを与えない仕組みとして機能しており、好評でした。

R……関連性

西谷さんは、「聞いた情報だけでなく、まず自分でやってみて(椿油料理や炭など)体験した上での感想を伝えられるようにした」とのことで、これはとても客観的な情報になり、参加者の、アヒージョを食べた体験や、炭を扱った体験と重ねられて、身近に思えた部分でした。
椿が身近にない北海道や東北にお住まいの方にとっても、椿を楽しんでもらえるよう、最初に一言添えていたので、楽しく身近に感じながらツアーに参加できたようでした。
今回の第2部参加者は島にお住まいの方が多く、「島ならではの共通点をたくさん感じた」という感想もみられました。

E……楽しいか

参加者が全員口を揃えたように、「ヒューン!!」について「楽しかった!」とコメントしています。
可愛らしい椿を堪能できたこと、また、西谷さんが始終楽しそうにお話していたことが、参加者の「楽しい!」に繋がっていました。
構成でも触れていますが、風の音や鳥の声、椿油のアヒージョの食レポなど、五感を刺激されたこともよかったようです。
西谷さんは、インタープリテーションというガイド手法を身につけており、お客様の感覚や興味、経験に寄り添いながら、伊豆大島のすばらしさを伝えています。
インタープリテーションの手法を活かしながら、オンラインならではの伝え方を模索されていた、西谷さんの工夫。しっかりお客様に伝わっていました。

その他

「全体を通して難しい言葉や理屈が少なかったので、すんなりと話を聞くことができ、気が付いたら伊豆大島への理解が深まっていた」と、参加者が驚くほどスムーズでわかりやすいツアーでした。
ツアー中ずっと、まんべんなくコメント欄が動いており、多くの方が「自分事」であると感じて、能動的に「参加して」いたことがうかがえます。
生の椿の花の鮮やかさや、手書きの素材のあたたかみが、伊豆大島の気候と人のあったかさをも伝えていたかのような今回のオンラインツアー。椿のシーズンは終わっても、西谷さんの笑顔と椿の魅力が、お客様の心に咲き続けることでしょう。

西谷さんは、グローバルネイチャークラブの日記で、今回のツアーの裏話を披露してくれています。
合わせてご覧ください。

まとめ

その①

その②

その③

その④

その⑤

その⑥

その⑦


日本ジオツーリズム協会メンバーの方は、以下のページで見逃し配信(アーカイブ)が見られます(※2022年4月以前にご入会の方のみ)。

ここから先は

0字

¥ 1,000

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?