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【腸閉塞からの】備忘録#4 嘔吐してチューブ挿入

入院10日目の4月15日の正午。4人部屋の病室内で横目にしていた配膳が自分にもあり、それが流動食であっても非常に嬉しく感じた。
昼と晩の二食は固形物ゼロの水分だけであったが、それでも全部飲み干すことは出来なかった。
その夜中、下痢でトイレに入ったそこで吐き気を催し止めることが出来ず個室内で嘔吐してしまった。吐瀉物は色もなくほぼ水に近かったが、吐いてはならないと言われていたのに吐いてしまったことと床を汚してしまったことが酷くショックで、夜勤の看護師に対し申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

入院11日目の4月16日朝、嘔吐してしまったので食事は当然の如く中止となった。
担当医Zに「鼻から小腸までチューブを挿れることになる」と言われたので、それは決定事項なのかと訊くと、「今日の検査結果を見てからにはなるが、ほぼ確定で小腸まで2~3mのチューブを挿入することになるだろう」と言われた。
レントゲンの検査結果に不安ばかりが募り、看護師を連れ歩いていた担当医Zに廊下で擦れ違ったがふたりとも私の方をちらとも見ず完全に無視されたとも感じる行動で去って行った。だから、「レントゲンの結果で朝の話をするために私の病室に行った」のではないのだと思っていた。
その夕方に副担当医Fがやって来て言った、「今からイレウスチューブを挿れます」と。
ここで少しずつ積み重なり続けていた不安に着火した。
—は!?・・・・何も、聞いてませんけど。
—朝の回診でZ先生にチューブを挿れることになるとは言われたけど今日挿れるなんて聞いてないし、(朝の会話からイレウスチューブというものだろうと想定してネットで調べたりしてはみたが)具体的な話について私は一切何の説明もされてないです。
—そもそも6日の日の手術がどうだったとか現状がどうなのかも今何がどう悪くてそのチューブの挿入とやらをしないとならないのかもそれをしたらその後どうだとかこれからどうなるのかとか全くわからない状態で、さあやるよって突然言われても何も納得出来ないし、納得出来ないものを私は受け入れられないです。
言葉に詰まりながら訴えた私の気持ちを副担当医Fは理解してくれたけれど、担当医Zには残念ながら気持ちも話も通じなかった。
「17時からCT室でイレウスチューブを挿れるから、そこで説明するから。そこで説明をしようと思ってたから。今日挿れた方がいいから、CT室に行こう」と。挙句、イレウスチューブは今日挿れると今朝私に言ったとのことだった。
これまでの回診でも感じていた教授回診の時教授に説明してる内容を患者である私には説明はしないし訊いたことに対しての回答は明白じゃないし、このひとは糠に釘なのだと改めて解ってしまった。
患者の気持ちなんてどうでもよくて、今日予定しててもう時間も押してるから早くやろう早くやろうと言ってるだけにしか聞こえず、実際のところもどの方向から考えてもそれ以外になかったと思う。
泣いても叫んでも看護師が間に入ったところでましてやネゴって担当医を変えてもこの病状が良くなる訳ではないだろうし、会話が成立していない相手に何かを求めることが無駄オブ無駄だと思った私は、ふたりの担当医とCT検査室へ向かうため4人部屋を後にした。

待合室と逆サイドのCT検査室の奥で、PC前に座って、初めて自分のレントゲン写真を見せられた。
「拡張している」というのはガスが溜まってその先の腸管が拡張している、ということで、このガスを抜く(腹圧を下げる)ことで状態が改善するかもしれないから鼻から小腸までチューブを挿れる、とのことだった。
担当医Zに手術後の説明もされていないと言うと、「説明した」「しっかりした状態で聞いていた」とのことでまさか憶えていないとは思ってなかったと言われたが、そこで再度の説明もほぼなく何も憶えていない私にとっては説明されていないのと結局は同じままであった。
納得したかしてないかで云うと納得はひとつもしていないが、病室では頑なに非を認めなかった担当医Zが自身の落ち度を一部認めてくれたのもあり、ここで否を訴えてもチューブ挿入が今日か明日かになるだけだと判ってしまったので仕方なく頷くしかなかった。

イレウスチューブ(経鼻イレウス管)の挿入は想像を絶する処置だった。選択肢があるなら拒否拒絶一択の処置だった。
造影剤(ガストログラフィン)を入れて、鼻穴から太いチューブを挿入され胃までの挿入は違和感はあれど難なかったが、そこからは長い長い地獄だった。
CTでの透視を確認されながらチューブにガイドワイヤーを通して、そこからは延々と小腸挿入を進められた。挿入されたワイヤーに振り回されない様に立ったままの自分の体を自分自身で支えなくてはならず、痛くて痛くてとてつもなく苦しくて、涙が出て鼻水が流れ咳も出てチューブという異物を出したい嘔吐感でおえおえして吐いたりもして、痛いなんてもんじゃなくて苦しいなんてもんじゃなくてどうしようもない終わりの見えない地獄だと云える壮絶な時間だった。
小腸のどこまで挿れたのかは不明だが、処置が終わったのは開始から約1時間後だった。
腸にチューブが入ったからなのか常に下痢だったからなのか処置中に便が出て下着を汚し、看護師にその始末と着替えさせて貰うことになった。なんだかもう当たり前に恥ずかしいとかそういうことを普通に思うことすらさせて貰えてない状況だった。
更に涙と鼻水と吐瀉物で顔もぐしゃぐしゃだったが、病室に戻って自分で申告するまでずっと汚れたままで、誰も綺麗にしてくれることもなかった。

担当医・副担当医に説明を求めるやりとりの最中、全く話にならなくて医者も看護師も全員出て行ってくれと言って出て行かせた時、「(担当医に対して)あなたが言ってることは何も間違ってないよ」と慰めてくれた同病室のSさんが、1時間以上経って病室に戻り、鼻からの長いチューブを吸引装置に繋がれぐったりしている私を心配して声を掛けてくれた。
「結局、(イレウスチューブ)挿れられちゃいました。」とチューブの異物感と喉の痛みに掠れた声で話すと、頑張ったね、と言ってくれて涙が出た。
Sさん自身も治療中で大変なのにやさしくてやさしくて、そのやさしさが本当にひたすらありがたかった。

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