Me too drugsの考え方

側鎖がちょっと違う、といった「既存の薬とほとんど違いのない新薬」をme too drugと呼ぶ、とアメリカで教えてもらったことがある。基本的には使う必要のない薬だ。
こういうme too drugは薬の説明会とかで、「感染臓器移行性が改善している」とか、「よりMICが低い」といった、in vitroな属性で宣伝されることが多い。特に日本で開発、販売される新しい抗菌薬はこのような説明がなされることが多い。
こういう紹介をされたときは、私は必ずPubMedのClinical queriesを使って、当該抗菌薬がどのような臨床試験の検証を受け、どの程度のエビデンスがあるかを確認することにしている。PubMedは「pubmed」で検索すれば簡単に行き着くことができる。真ん中下あたりにあるのがClinical queriesで、ここをクリックして、当該抗菌薬名を(一般名で)書き込み、filterでtherapy, scopeでbroadを選択すれば、すぐ分かる。


すると、そうした「MICがより低い」みたいな宣伝がなされている抗菌薬が、シングルアーム、オープンラベルの臨床試験(複数の患者さんに使ってみました)が一つだけしかない、なんてことも多いのだ。これではその抗菌薬が「本当に役に立つのか」は分からない。
日本の医療現場は一種の「新薬信仰」があり、「新しい薬ほどよい薬」という根拠の乏しい信憑が一種のエートスになっている。非常に良くない傾向だ。大切なのは信憑ではなく、根拠である。
もちろん、そのようなエートスを醸し出すのは、「新薬ほど高くてよく売れる」という仕組みを最大活用したい製薬メーカーである。企業が利益を最大化したいと願うのは当然だから、それ自体を非難する必要はない。問題は、それにホイホイと乗っかってしまう医者の方である。あとは、時間が経過すると勝手に薬価を下げるものだと「決めつけてしまう」厚生労働省や中央社会保健医療協議会(中医協)である。さらに、製薬メーカーと懇ろになって、そういう効くんだか効かないんだか分からない抗菌薬を「推して」施設で採用、使用を促す教授クラス、部長クラスの罪も大きい。抗菌薬は専門性の有無とは無関係にほとんどすべての診療科で使用するから、あちこちの診療科からそのような怪しげな承認申請が薬事委員会に届くのである。
実際は逆である。属性がほとんど変わりないme too drugsを検討するなら、より古い薬を使うほうがずっと科学的、合理的である。おまけに(良くも悪くも)安価である。
今年発売されたばかりの抗菌薬Aと、20年前に発売された抗菌薬B。同じクラスに属するもので、対象となる微生物は同じ。AのほうがMICが低くなっており、肺への移行性が改善している。ただし、Bも肺炎には効果がある。
この場合、使用すべき抗菌薬は(もし使用するのであれば、だが)Bのほうなのだ。Bのほうが安価だ、というのも理由の一つだが、理由はそれだけではない。20年間という歴史の検証に耐えたBは、市販後調査で起こり得る副作用も十分に理解されているし、薬物相互作用についても情報が多い。臨床試験も複数行われている可能性が高く、いわゆる「エビデンス」がある。しかし、Aのほうは市販後日が浅く、3相試験までに見つからなかったまれな副作用は未検証なままだ。副作用が起きること自体が怖いのではない。どんな副作用が存在するのか分からない状況が怖いのである。薬物相互作用や妊婦への安全性、授乳時の安全性なども、市販後時間が経ってから判明することは珍しくない。
つまり、ことme too drugに関する限り、古い薬のほうが新しい薬よりも絶対的に価値が高いのだ。しかし、市場の評価は真逆となる。これが問題の本質だ。

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