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APIのフライホイール効果とソフトウェアの黄金時代

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API(アプリケーション プログラミング インターフェース)を上手く利用すれば、ソフトウェア開発ははるかに手際よく、効率的になります。

日本を含む開発者のコミュニティでは、すでに数十年もの間APIが使用されてきました。しかし、今日のようにいろいろなものが繋がっているクラウドベースの世界では、APIは、開発者だけでなく、DXに関わるすべての人に理解してもらうべき概念です。例えば、Geodesic CapitalのポートフォリオであるWorkato社はAPIの連携の仕組みを活用し、クラウドサービスの連携といったデジタルワークフローの自動化をより一層のスピード感で進めることによって、DXを推進する企業をサポートしています。

執筆者のモーガン・リバーモアーは、シリコンバレーにある本社Geodesic Capitalのパートナー兼投資チームのメンバーです。本記事では、APIとは何か、APIによって何が可能になるかをユニークなサービスやパートナーシップに関する興味深い実例を挙げて教えてくれます。ぜひお楽しみください。


ソフトウェア エコシステムに人材や想像力、資金を注ぎ込んでいくと、ソフトウェアのほとんどが、かつてないほど高機能かつ複雑なものになっていく。規模の大小を問わず様々な企業が、俊敏性とイノベーションをより加速させるため、自社のオペレーティングシステムに大がかりな変更を加えている。システムを新規に構築する場合であっても、既存システムを更新する場合であっても、他社が開発したソフトウェアを導入することで、企業が求める機能向上が実現する。このようなシステムを組み込むことで、企業は複雑で堅牢な自社ソフトウェアを作り出すことができるようになるのだ。

課題は、企業が技術的な負債を抱えることになることであろう。つまり、システムやソフトウェアの再構築や長期的な改善にかかるコストを負担しなければならない。しかし今日のソフトウェアは、非常に複雑な問題を魔法のように解決してくれる。さらに、ソフトウェア エコシステムは、成長していく過程でそれ自体が改良され、巨大なフライホイール(継続効果)を生み出しながら、ソフトウェア開発の未来を強化していく。

本来、システムの主軸としてのソフトウェアは、ユーザーが実行できない、あるいは実行したくない作業を引き受けるものである。現代のソフトウェアはこれまで、複数の産業を立て直し、世界規模で効率性を向上させてきた。最も大きな進歩の1つは、APIが登場し、幅広く採用されてきたことだろう。APIが出現して久しいが、革新的なのは、APIベースのサービスが先進のフライホイール効果が発生するソフトウェア エコシステムに組み込まれたことである。これにより、ソフトウェア開発の黄金時代がもたらされた。

APIは、新世代のソフトウェア企業を生み出す原動力である。ソフトウェア エコシステムに容易に組み込めて、他のソフトウェアデベロッパーの技術を活用できるからだ。この一体化を活用することで、APIはプログラマーの作業をシンプルにし、アウトプットの複雑性を根本から取り除くことができる。

食品宅配サービスのInstacart社によるMarqeta社*ソリューションの活用(英語記事)が、最も分かりやすい例であろう。Marqeta社が提供するジャストインタイム ファンディングを活用することで、取引の過程で、リアルタイムかつ自動的に口座へ入金できるようになった。また、新規の買い物客は、物理的なカードがなくてもデジタル処理でサービスの利用を開始できるようになり、柔軟な対応が可能になった。さらに、継続的なシステムの稼働時間を確保するため、堅牢で冗長なアーキテクチャを整備することで、顧客への継続的なサービス提供を実現した。これらはかつて、Instacart社のビジネスプロセス上欠落していたとても重要な部分であり、このことが、ネットスーパー宅配の先駆者であるWebvan社の事業が失敗した要因でもある。

Instacart社の技術者チームは非常に優秀なので、Marqeta社に代わる堅実な代替ソリューションを構築できたことは間違いない。しかしInstacart社は、ミッションクリティカルな機能を確実に稼働させることをMarqeta社に委託し、これに関する社内開発を最小に留めて、他の重要な分野の開発に注力したのだ。

APIはソフトウェアの提供方法を向上させるための重要な役割を担っている。ユーザーは様々な理由で、ソフトウェアを既存システムや他で購入したシステムへ組み込むことを考えている。APIを活用すれば、異なるベンダーの製品を最適な形で望んだ通りに統合することが可能だ。APIベースのソフトウェアの場合、ユーザーへの研修や、ユーザー インターフェイスを傷つけることなく、その価値を提供することができる。複雑な機能をシンプルな形で提供することには、数多くのメリットがある。それでは、私が注目しているものをいくつか紹介しよう。

1. 効率化: 開発者はソフトウェアをわざわざゼロから製作することなく、必要な部分の新しい開発に集中できるため、短い時間でより多くの作業を行い、期日までに目標を達成することが可能となる。APIでソフトウェアコンポーネントの組み込み方法を指定することで、プログラムを思い通りに開発できる。

2. イノベーションの促進: APIは急速なイノベーションをリードしており、開発者はAPIを活用して、問題に対する新たな解決策を生み出すことができる。APIが革命的なのは、外部開発者に標準化されたインターフェイスを提供できるためである。

3. 問題を最小に抑制: 企業は複雑な運用業務を行うため、毎日多数のプロセスを行っている。APIの利用によって、技術的スキルを必要とする問題を最小限にし、効率的に運用することが可能となる。企業はAPIの接続性を活用して、複雑な運用業務を管理できるようになっている。

4. 新機能の提供: APIを提供する企業は、絶えずソフトウェアの能力と機能を向上させている。APIであれば、既存のサービスが中断することがないため、サービスの提供・サポートを強化できる。

5. 自動化: APIを利用することで、人間の代わりにコンピュータが業務を管理できるようになる。企業はAPIを使用して、自社や社員の作業を迅速化し、生産性を向上させるようにワークフローを更新できる。

6. アプリケーションの統合とカスタマイズ: 1つの製品ですべてを解決することは不可能だ。APIの活用によって、開発者は第三者のアプリケーションを自社のプラットフォームに統合するが、エンドユーザー向けのインターフェイスはカスタマイズできる。よって、ユーザーエクスペリエンスが向上し、顧客が代替ソリューションに乗り換える可能性が低くなる。

APIはそれを利用するすべての企業に、機能や収益を無限に生みだす可能性を与える。顧客であっても、販売者であっても、双方にチャンスがある。APIを活用している企業は、ソフトウェアのゴールドラッシュラッシュにおいて、コツコツと金を掘り出す以上の利益を上げているのだ。

本稿執筆時点で、時価総額が約4兆7千億円のTwilio社は、APIを介したメッセージング機能を販売し、さらに、Twilio Flexのような完全なプラットフォーム機能も提供している。
現在、Salesforce社の評価額は約23兆円であるが、その収益の最大50%が、APIを介した様々なサービスによって生み出されたと推測されている。Shopify、Stripe、Slack、Zoom、Snowflakeなの数えきれないほどの企業が、APIを提供・活用することで株主に数千億円規模の価値を提供し、顧客にもそれ以上の価値をもたらしている。

テクノロジーは常に変化し、改善を続ける産業である。APIがソフトウェア開発の構成要素になることで、今後数年にわたる急激なデジタル変革が可能になる。優れた機能によって大きな問題が細かく切り分けられ、未完成の部分に集中して取り組むことにより、イノベーションの速度はさらに加速していく。APIによって、貴重な人材をゼロから開発するという状況から開放したら、開発者は新しい製品や機能、ビジネスモデルの開発に集中できる未来が実現する。既存システムのメンテナンスにかけているリソースをさらに新規開発に注ぎ込むことで、イノベーションは大きく飛躍するだろう。

投資家として、私が好きなAPIの特徴の一つは、ソフトウェアのエコシステムで生み出されるフライホイール効果である。ソフトウェアの開発プロセスを個別に切り分けて効率化し、簡素化することで、企業はより強力で想像力に富むビジネスを構築できる。例えばこういうことがある。社内のチームは問題解決のためにシステムを開発しているが、実は、他の会社も同じ問題に直面していたりする。市場のニーズが十分に強ければ、その技術を持つチームを別会社として独立させるか、再構築して、ニーズのある顧客にサービスを提供できる。また、スタートアップ ネットワークにおいて、さらなるイノベーションが促進される。このテクノロジー エコシステムの特長がイノベーションと価値を結びつけており、テック企業が高く評価され、巨大化する理由なのである。

単一の構成で作られてきた過去のソフトウェアとは異なり、企業は未来のソフトウェアの構成要素とも言えるマイクロサービスを活用している。ソフトウェアの機能が拡張するにつれて、エコシステムも拡大する。エコシステムが大きくなれば、さらなるイノベーションがより速いペースで実現する。そして、企業のイノベーションが効率化されるにつれて、製品は簡素化されるだろう。シンプルであることは美しい。

*Marqeta社はGeodesic Capitalのポートフォリオ企業です

Morgan Livermore(モーガン・リバーモアー)はGeodesic Capitalのパートナー。ベンチャーキャピタル、投資、テクノロジーの分野において9年の経験があり、Geodesic Capitalでは拡大する企業向けアプリケーション、 DevOps、ITインフラに加え、エンドユーザー向けモバイルアプリ、自動運転の分野を担当する。