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今から15年前…「貧乏作家」だった会田誠のブレイク前夜

会田誠をはじめ、数々の著名アーティストを輩出してきた伝説のギャラリー、「ミヅマアートギャラリー」。その主宰者である三潴末雄が、その軌跡をみずから語った著書が『アートにとって価値とは何か』だ。草間彌生、村上隆、奈良美智など、海外からも高く評価されている日本のアートシーン。その礎はどのようにして築かれたのか? アート好きなら必読の本書の一部をご紹介します。

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ついに日本に訪れたアートブーム

02年にギャラリーを中目黒に移した当初は、あえて看板を出さなかった。本当に現代アートを見たくて、そして買いたい人は、自分から能動的に探して来ればいいと思ったからだ。

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00年代ともなればネットも普及し、個人の情報取得のハードルは大幅に低下した。かつてのわたしの職業だったPRのスタイルも大きく変わり、時代に対応した情報発信の仕方に切り替えていかなければならないと考えた。

移転後の最初の展覧会は、O JUNで始めた。オープニングパーティーでも、ワインは無料で出したが、ビールは100円取るなど、余裕がなかった移転当初は、とにかく徹底的に青山時代の反省をした。

世の中の雰囲気としても、ちょうど小泉政権の樹立で「構造改革」の嵐が吹き荒れ、さらにはアメリカ同時多発テロが起きたことで、“生き残る”ことへの切迫感がやたらと高まっていた時代だったと言えるだろう。

ただ、01年あたりの海外のアートフェアで風向きが変わり、02~03年くらいになると、奈良美智や村上隆をコアにして、日本の現代アートへの注目が大きく高まる時期が訪れる。アメリカやヨーロッパのオークションで彼らの作品の価値が高まり、それまでには考えられない高値で取り引きされるようになったのだ。

ちょうど株式市場ではITバブルが起こり始めていた時期で、アメリカ西海岸のシリコンバレーで成功した投資家がオークションで村上作品を買い、それを転売してさらに儲けたというようなことも話題になった。

そうした海外での景気のいい話を受けて、日本でもちょっとした現代アートブームのようなものが起こっている。例えばアートをテーマにしたビートたけしのバラエティ番組『たけしの誰でもピカソ』(テレビ東京系列)のコーナーで、当時わたしは素人の作品の審査員をしていた。

「全部買うよ」と言ったビートたけし

その特別版として藝大は出たけれども食えない貧乏作家たちの姿を見せるドキュメントの制作を手伝ったことがある。そこに会田誠、山口晃、小沢剛という3人の東京藝大出身の作家たちを紹介し、番組は彼らを追いかけた。

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会田はまだ津田沼に住んで苦労していた時期で、山口は東京藝術大学の大学院で助手をやったり、病院の夜間警備をしたりして食いつないでいた。3人の中で、最もアート界の評価が順調な部類だった小沢にしても、さほどマーケットで売れていたわけではなかったので、経済的な境遇は大差ない。

番組では、会田が代表してスタジオに行っていろいろと喋り、たけしが「俺その作品を全部買うよ」などと言っていたのだが、それはリップサービスに終わった。

ここで面白かったのは、そのときに村上隆がVTR出演し、「俺は去年の年収が2000万円あったんだけど、君らはまだそんなもんなのか」といった挑発的なコメントを寄せていたことだ。

もちろんそれは、村上一流のパフォーマンスだったのだが、そんな一攫千金の格差が起こりうるアートシーンの盛り上がりを、テレビ的に演出しようという時流があったのである。

この番組の放送後、村上のもとへ税務署から「テレビでの話と申告と違うがどういうことだ」という問い合わせがあり、「あれはテレビバラエティ向けの誇張ですから」と釈明する羽目になったそうだ。

そうして00年代前半に吹いた風のおかげで、ミヅマギャラリーで開催した会田誠や山口晃の展覧会はおおむね好調だった。一般公開の前日にコレクターだけを招待して先に作品を見せると、そのときにほとんど売れてしまい、オープンのときにはもう全部完売しているという状況にもなった。

山口晃のドローイング作品などは、展示中に盗まれてしまったこともある。また、天明屋尚の展覧会終了間際に泥棒が入ったが、現金狙いのプロの手口で、幸いにも作品は無事であった。

(2014年刊『アートにとって価値とは何か』より抜粋 )


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