サッチャー、ケネディ…成功者には「ショートスリーパー」が多い?
日本人の5人に1人が悩んでいると言われる「不眠症」。どうすれば、朝までぐっすり眠ることができるのか? スッキリ目覚めるには、どうすればよいのか? そんなお悩みを持つ方におすすめしたいのが、精神科医・岡田尊司先生の『人はなぜ眠れないのか』です。今夜から試せる「睡眠コントロール術」が満載の本書より、一部を抜粋してご紹介します。
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実は昼寝をしていたチャーチル
毎日五時間以下しか眠らなくても、日中の活動に何ら支障のない人をショート・スリーパーと呼び、医学的にも、そうした一群の幸運な人々がいることが知られている。
このタイプの人は、活動的で、高揚気質の人に多い。自分の睡眠についてあまり考えたこともなく、短い質のいい睡眠をとるので、自分の睡眠に満足しており、眠れないと感じることもめったにない。
ナポレオン以降、政治やビジネスのリーダーたちに求められるようになった資質の一つが、このショート・スリーパーであることだと言えるかもしれない。
第二次世界大戦のとき、イギリスを率いてヒトラーのナチスドイツと戦い、勝利に導いたウィンストン・チャーチルも、夜は二、三時間しか眠らないという伝説があったが、その実、たっぷりベッドで昼寝をしていた。チャーチル曰く、「それが唯一私の責任を全うする方法であったからだ」。彼も、寝不足では、重大な判断をすることができなかったのである。
同じくイギリスの首相で「鉄の女」と言われたマーガレット・サッチャーも、一晩に四時間しか睡眠をとらないことで有名で、「睡眠なんて弱虫のためのもの」と豪語してみせた。しかし、実のところは、サッチャーは不眠症に悩んでいたので、それを逆手にとって、自分をナポレオンに擬したのだとも言われている。
真相はおそらくショート・スリーパーの人も、不眠になることがあるということだ。普段、四、五時間の睡眠で大丈夫なスーパーマンやスーパーウーマンも、二、三時間しか眠れなければ、きついと感じるだろう。同じ人間なのだから、ストレスが激しければ、睡眠が障害される日もあって当然だ。
アインシュタインは11時間睡眠だった
アメリカ大統領を務めたビル・クリントンも、五、六時間しか眠らないと言われた。しかし、受験生でも、それくらいの睡眠時間で頑張っているだろう。多くの病院勤務医の睡眠時間は、もっと短い。大統領なら、六時間も眠れば上等ということになるだろう。
クリントンに劣らず、公務だけでなく、プライベートにおいてもタフだったことで知られるJ・F・ケネディは、アンフェタミノン(覚醒剤)に依存していたとされる。
人並み以上に元気な彼らでさえ、その権力を維持するために、かなり無理と苦労を重ねていたというのが真相のようだ。
実業家、科学者にも、短時間睡眠型の人が多い。短時間睡眠に耐えられる体力と疲れを知らない脳の持ち主でなければ、成功はおぼつかないということだろうが、彼らにとっても、睡眠を削ることは決して楽なことではないのだ。
こうみてくると、七時間以上眠らないと体調が維持できない凡人には、偉大な成功は望めないかのような気がしてくるが、決してそんなことはない。九時間以上眠るロング・スリーパーの中にも、偉大な人物を見出すことができる。もっとも、数の上では、ショート・スリーパーほど多くないことは認めざるを得ないが。
その一人は、イギリスで最初の辞書を編纂したことで知られる十八世紀のサミュエル・ジョンソン博士で、昼の十二時まで寝る習慣があった。そのくせ、若者には、自分を手本にしないように忠告している。二十世紀の知の巨人の一人で、もっとも有名な科学者と言っていいアルバート・アインシュタインは、毎晩十一時間も眠っていたことで知られている。