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人気アート集団、Chim↑Pomとチームラボの「今後の課題」

会田誠をはじめ、数々の著名アーティストを輩出してきた伝説のギャラリー、「ミヅマアートギャラリー」。その主宰者である三潴末雄が、その軌跡をみずから語った著書が『アートにとって価値とは何か』だ。草間彌生、村上隆、奈良美智など、海外からも高く評価されている日本のアートシーン。その礎はどのようにして築かれたのか? アート好きなら必読の本書の一部をご紹介します。

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彼らが令和のアートシーンを牽引する

25年にわたるギャラリスト生活を通じて、歴史的に重要だと感じているアーティストたちへの考えを述べてきた。その流れの最新のランナーにあたるのがChim↑Pomとチームラボで、もし今わたしが「三潴さん、あんた古いよ」と批判を浴びせられるとしたら、この二つのグループからであろうか。

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彼らや新しい可能性を持った作家たちから、本当に石を投げられてギャラリーを廃業する羽目になったとしても、本望だと思っている。それだけ、彼らは昔ながらのコマーシャルギャラリーや美術館が大きな顔をする既存の美術や現代アートのシステムに縛られない、革新的な存在だと思うからである。

かつて卯城竜太が、これからのアートはバンドの時代ですよと、わたしに言ったことがあったが、チームラボもChim↑Pomもまさにグループで作品を制作している。

そして、これはわたしの勝手な想像だが、アーティストの側でも会田誠や村上隆は、同じような思いで彼らのことを見ているのではないだろうか。

会田を慕ってアートの世界に入ってきたChim↑Pomの挑発的なゲリラ活動は、会田自身の場合では、どこかで知性やアイロニーが邪魔してしまうのに対して、もっとおバカで無計画で、何が起こるかわからない方向に突き抜けてしまえる、デフレ世代ならではのパンキッシュな強さがある。

他方、村上も一目置くチームラボの戦略的なベンチャー活動は、村上自身がオタクになりきれない屈折を批評性の核にしているのに対して、あらゆるサブカルチャーやITを屈託なく吸収し、はじめから高度な理論を展開できる、デジタルネイティブ世代ならではのシャープな強さがある。

つまり、日本アートの両極端な在り方を代表してきた会田と村上のそれぞれの活動の特徴を、より徹底的なやり方で置き換えるベクトルを持っているのが、Chim↑Pomとチームラボなのだ。

ただ、Chim↑Pomはいくつか世間を騒がせた事件を経て認知が進み、今は現代アートの意匠や言語に収まって、次から次へと展覧会をこなすための作品制作に追われている。

それは食っていくためには必要なことだが、わたしには少し飽き足らない。やはり彼らには、アートなのかアートでないのかも考えもしないでバカな作品をつくっていく、計算抜きのプリミティブな面白さを失ってほしくない

そのあたりは会田においても、森美術館という大舞台を徹底的に利用して危険なこともすべてブチ込み、美術館で個展をやるということをハプニング化していく仕掛けを行っていた。Chim↑Pomならば、さらにギョッとする何かをやってくれるのではないかと、密かにわたしは期待している。

チームラボの「弱点」とは

逆にチームラボは、田原総一朗の討論番組『朝まで生テレビ』などで若者世代代表の破天荒なキャラクターを印象づけた猪子寿之のイメージとは裏腹に、非常に日本的な古いものと最先端のものを接合してすべてをつくり込んでいく周到さが際立っている。

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ただ、猪子が言っていたのは、岡本太郎の「今日の芸術は、うまくあってはならない。きれいであってはならない。ここちよくあってはならない」という言葉に反して、「自分はやはり美しいもの、気持ちいいものが好きなので、どうしても綺麗につくってしまう」ということだった。

つまり、あまり危険なものや過剰なものを出せないことを、チームラボの弱点だと感じているようなのである。

2014年の佐賀での大規模な展覧会など、最近はよりエンターテインメント的でスペクタクルな作品が多いが、逆にアウラが感じられないのだ。1度目は驚かされ、2度目では新鮮さが感じられなくなり、3度目には飽きてしまう。

大抵のテクノロジーアートは、こうした隘路にはまる。そして、さらなる革新的な技術を利用した後発組に簡単に塗り替えられてしまう歴史的な事実があることを、猪子は肝に銘じるべきだ。

この壁を乗り越えられるかが、チームラボの今後の課題だと思う。彼ら自身が作品制作を重ねる中で、何か予測不可能な進化が起きていくことに期待したい。

身勝手な希望ばかり述べてしまったが、やはり若い世代のアーティストたちには、岡本太郎のもう一つの言葉「同じことを繰り返すくらいなら、死んでしまえ」の通り、絶えず新しいことにチャレンジしていってほしい。

(2014年刊『アートにとって価値とは何か』より抜粋 )


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